『流星と稲妻』あらすじと感想【少年剣士たちが追い求める剣の道】

『流星と稲妻』あらすじと感想【少年剣士たちが追い求める剣の道】

本書は、少年少女の心の葛藤やひとりの剣士としての成長が伺える1冊になっている。

『流星と稲妻』がきっかけで、剣道に少しでも興味をもって頂けると幸いだ。

こんな人におすすめ!

  • 剣道が好きな人
  • 何かに負けたくない人
  • 自分自身と向き合いたい人

あらすじ・内容紹介

小学生の阿久津善太(あくつ ぜんた)と蓮見宝(はすみ たから)、1学年下の水原あげは。

全員、「くすのき剣道クラブ」へ通う剣士達である。

体は大きくてもちょっと根性なしの善太。

小声でちょっとビビりの宝。

泣き虫で負けず嫌いのあげは。

この3人を中心に物語は進む。

彼らの両親、姉妹、剣道指導者の長谷川絹(はせがわ きぬ)先生が周りから厳しくも温かく、時にウザったく見守っていてくれる。

そして、とある試合をきっかけに男同士の勝負が始まるのであった。

『流星と稲妻』の感想・特徴(ネタバレなし)

兄弟子と弟弟子

善太と宝が初めて出会ったのは、小学校の出前授業だ。

剣道経験者だからという理由で、白羽の矢が刺さり、模範試合をする事になった2人。

その時に勝ったのは宝だ。

宝は善太の動きをよく見て、彼の得意技の面を警戒していたから防げたし、隙を逃さず、胴を決める事が出来た。

しかし、宝は彼の面を「すごい」「稲妻みたい」と評し、褒めていた。

悔しいという気持ちがないわけではないと思うが、それを抑えて相手を称えて素直に褒められるのは、それだけで素敵だ。

他人に憧れる事は、強さの原動力の1つだと思う。

善太と宝は年が同じだが、指導者の絹先生からクラブに先にいる者が兄弟子として弟弟子に気を配り、自らの背中で引っ張っていかなくてはならないと言われ、善太は胸が弾んだ。

「なんたっておれはおまえの、兄弟子なんだからな!」

基礎練習あるのみ

「『自分は今、武道をやっているのだ』と意識できれば、それでいい。」

小学生の剣道といえば、元気・気合・情熱という姿勢が決まり文句だが、もちろん気持ちだけで勝てるスポーツではない。

剣道には、気剣体一致という言葉がある。

気=充実した気勢(声)を出す事。

剣=竹刀裁きや正しい向と打つべき場所で打つ事。

体=足さばき、という三点が全て揃って初めて一本=勝ちになる。

どれかが欠けていると、一本=勝ちにはならない。

いくら速く打とうと、きれいに打ち返そうと無駄打ちになってしまう。

 

剣道の経験者ならこのことは必ず初めに教わる。

自分自身が渾身の決め手を打っても、相手に当たらなければ意味のない事と有効な打ちと判断されるのは他人から、という事。

宝は、とある試合の場面でこう考える。

「ぼく、剣道って、ちょっと芸術的だと思うんだ。

正しく、美しく、打ち切って一本を取ることを求められる。

ただ強く打つだけじゃだめで、だからこそ、技が光る。

強くなくても、戦える。」

筆者も剣道の経験はあるが、力強い面打ちや流れるような太刀筋の技がなかなか上手く決められない。

本書の中でも絹先生は子供達には基礎練習に多くの時間を割き、素振りや足さばきといった防具をつける前の練習をみっちり行っている。

竹刀でガツガツ打つのも悪くないが、こういった地道な練習が後々の稽古に活きてくる。

それは私自身が身をもって感じているので、本を読みながらもっとたくさん練習をすればよかったなと後悔も感じた。

この主人公達は指導者や同じ剣道クラブに通う仲間に支えられていることが読んでいてわかるし、とても周りの環境にも恵まれている。

勝負、再び

大会に出て、試合の結果はどうであれ再び練習を積み重ねていくのはどのスポーツにも共通している。

しかし、剣道ほどその積み重ねが大切なスポーツはないと考える。

宝は試合に勝ったものの、初めて「もっと強くなりたい」という欲が芽生えた。

それは同じチームメイトの為にである。

絹先生は、

「ビビりだなんて思わなくていいんです。それよりも基本に戻って、くせを直していきましょう。それで面がもっと決まるようになれば、苦手意識も消えて、戦い方も変わっていきます」

と話してくれたが、自分の剣道のスタイルが変わるかもしれないことに戸惑っていた。

その後、善太も宝はちょっとした行き違いで練習を休んでいたが、迷いは晴れて練習を再開。

そして、絹先生は奉納試合で戦うことを2人に提案した。

宝は自分の意志で一歩踏み出して、絹先生の元へ助言を求めに行った。

善太に勝つために。

一方の善太は、あげはに稽古をつけてもらいながら宝との勝負を想定していた。

お互いに秘密の特訓を繰り返し、剣道クラブで会う時は手の内を包み隠さず話している。

むしろ、弱点を直そうと稽古に励んでいた。

 

試合当日、2人は明らかにこれまでとは違っていた。

道着と袴の色から試合内容も。

お互いに気心がよく知れている仲だからこそ、勝負を楽しんでいるのが読み取れる。

宝は特訓で磨いてきた面打ちを見せていく。

善太は抜き胴という技の対応として、打たれないための練習と面打ちの精度を高めてきた。

剣道は遠くから見ているとお互いの表情は読めないが、実際に試合をしている者同士は、はっきりとお互いの表情を読み取ろうしているものだ。

最後はお互いの面打ちになるが、一瞬速く善太の面が宝の面に届き、一本となった。

宝は泣いた。

「くやしい。くやしい。これからなんて関係ない。今、本気で挑んで勝てなかった。必死にがんばってかなわなかった。その事実が、どうしようもなく、くやしい。」

善太は泣き止んだ宝に一言、

「おまえ、実はなかなか、負けずぎらいなやつだったんだな」

と言い、お互いに笑った。

まとめ

自分よりも強い相手に勝つにはどうしたらいいのか。

自分の殻を破るにはどうしたらいいか。

他人をよく見て観察したり、回りから自分自身はどうみられているのか。

そのようなちょっとした心の動きが本書では丁寧に描かれている。

剣道の専門用語や試合中に何を考えているのかという所もエッセンスとして加えられているので、剣道経験者でなくとも手に取って、剣道の世界を体験してもらいたい。

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