しょげたアルを励ます幽霊
母親を探して、何度も何度も母親の影を追いながらも、本当の母親に出会うことは叶わないアル。
そんな彼を、ダダとジョナサンは一生懸命(故意かどうかは不明ですが)励まします。
アルが一人しょげて道を歩いていると、何処からともなく例の二人組の声がした。
アルが声のする方を振り向くと、幽霊達が交差点を行き来する人々の真似をして遊んでいた。
アルの顔に笑みが戻ってくる。アルはすぐそばのベンチに腰掛け、彼らの遊びを観察することにした。
ダダとエラソーニは肩をいからせて歩く男のものまねをしていました。
三人は同じポーズを取りながら、アルの目の前をよぎっていきます。
紳士が頭をかくと、後ろの二人がすぐそれを真似します。
紳士がショーウィンドーを覗くと、勿論、二人も覗きます。
ものまねをされていることに全く気付かない紳士を見て、アルはくすくす笑うのでした。
そのほかにも、ダダとジョナサンは猫背で足元ばかり見て歩く老女の真似、大きな郵便物を背負って歩く郵便配達人の真似、ポケットに手をつっこんで歩く若い男の真似など、人なら何でも真似をしました。
中でも傑作なのは、交差点の真ん中で、交通整理をする警官の真似です。
口にホイッスルをくわえて動く警官を、二人は器用に真似るのです。
大袈裟にぶんぶんと手を振り回す姿は、キレというものがまるでなく、まるでサーカスのピエロのようです。
そうとも知らず仕事に励む警官との対比がおかしく、アルはおなかがよじれるほど笑ったのでした。
物語はまだまだ続き、アルよりも少し大人びた女の子のキキや、シドの心配をしている、一緒にバーのコンビを組んでいるミナも登場するのですが、この辺は教科書で取り上げられた内容と被り、なおかつ内容のネタバレになるので割愛します。
ダダとエラソーニの秘密も、ここでは明かしません。
ご了承ください。
主題歌:amazarashi/クリスマス
さて、この本に合う曲は何かと探し当てた結果、たどり着いたのがamazarashi(あまざらし)のクリスマスです。
秋田さんの、唯一無二のぴんと張った弦の様に通る声が、祈るように届く一曲ですね。
汚れた僕が汚した世界 だからこそ嫌いになれないよ
相変わらずの世界だから 君には見せたくないんだけど
どうか 失望しないように
どうか 言ってくれないかそれでも好きだと
どうしようもない日々も、町のドブ川も、どうしてこんなに美しいのだろう。
見てみろよ 酷い世界だろ 今日は美しい クリスマス
この言葉が皮肉だとしても、どうかこの世界を嫌いにならないでほしい。
そんな思いを込めて選曲しました。
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『代筆屋』あらすじと感想【あなたの思いを代わりに書き記す】
一番最初の記憶って何だ?と聞かれたときに、アルは答えられませんよね。現実にふりまわされて、感動したことを忘れてしまうからだ、と、ダダとエラソーニが説明してくれます。
アルがお母さんがいないという現実にふりまわされなくなったときに、感動したこと、一番最初の記憶を思い出したのでしょう。
お母さんに抱きしめられた、感動、あたたかさ、安心感、これがアルの一番最初の記憶のはずです。
アルが現実にふりまわされるのでなく、一番最初の記憶と感動にたどりついたからこそ、お母さんに会ったんだという話ができたんだと思います。単なるウソではありません。喜びと感動がありますよね。
お母さんは死んでいますから、お母さんがさっきここに来たんだというアルの話は、ウソです。ですけど、アルの心の中にお母さんが訪ねてきてくれて、一番最初の記憶と感動と喜びを残していってくれたんですね。
だからアルがお父さんに不平不満を言うのでなく、逆にお父さんを思いやることができたということですよね。アルの心の中に起こったことは、本当にスゴイ奇跡ですよね。死んでしまったお母さんが生き返ったというレベルの奇跡です。それがクリスマスイブに起こったんですね。
本当にステキな話だと思います。
じんさん、非常にコメントが遅くなって申し訳ありません。
一番最初の記憶は、アルじゃなくても答えることが難しいと思いますね。胎内での記憶が残っていない限り。アルはただ、忘れていたのではなく、「思い出せない」だけなのだと思いますが。
ダダとエラソーニは、私たちが忘れかけていた「子どもの心」を思い起こさせてくれる存在なのでしょう。星の王子さまの王子さましかり。
そうですね、アルはアル自身の成長によって、「お母さん」の幻影を断ち切ることができたのだと思います。心の中で起こった出来事は、幻でもなんでもなくて、ちゃんとした事実です。
現実を最後に受け入れることができたアルと違って、シドは現実から逃避してますね。彼の現在は語られませんが、想像はなんとなくついています。
最後の最後にアルが成長できて、ちゃんとお母さんの幻影に縛られることなく別れることもできて、本当に良かったです。
一番大切な記憶を思い出すことができた。それだけでアルは幸せ者じゃないのでしょうか。
一通り読み返して、最初のアルの紹介に辿り着いたときは涙で前が見えませんでした。