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『無理ゲー社会』要約と感想【若者に「夢をもたせよう」はハラスメント?】

無理ゲー社会要約サムネイル

「地獄への道は善意で舗装されている」という海外の諺がある。この諺を知っていたとしても、実感することは容易ではない。

しかし、先の諺を反対から眺めると、わかることがある。それは、世の中の「善意」を注意深く観察すれば、その先にある「地獄」を知ることができる可能性があるということだ。

現代社会の「善意」とは何か。端的にいえば、「自分らしくあること」が推奨されていることだろう。

たとえば、大ヒット映画『アナと雪の女王』の主題歌『Let it go』はそんな「自分らしくあること」の良さを強調する内容であり、そんな主題歌も人気を博していたことからわかるように、「自分らしくあること」は素晴らしいことだと、「善意」の1つだと多くの人々が認めている価値観だ。

しかし、これから紹介する『無理ゲー社会』という本は、そんな「善意」を手掛かりに、私たちが生きている現代社会の「地獄」を描く。読者の価値観に大きな衝撃を与えることは間違いない。

こんな人におすすめ!

  • 「自分らしさ」を求められることに疲れた人
  • これからの社会がどうなっていくのか知りたい人
  • 「世の中間違っている」となんとなく思っている人

あらすじ・内容紹介

安楽死の権利を求める若者に対するアンケート調査をみていくところから本書は始まる。

なぜ、安楽死などを求めるのか。それも可能性に満ちているはずの若者がである。

本書はこの「可能性に満ちている」という点、言い換えれば「夢を持てる」という点が、むしろ若者を苦しめていると主張する。

この「夢を持てる」ことの暴力性を本書はまず暴き始める。

夢を持つ、それを叶えるために日々努力を続ける。いいだろう。そこまではよしとしよう。

しかし、これがほとんど強制のような形になってしまえば、話は変わってくる。大人たちはほとんど無自覚に、この「夢をもつこと」を若者たちに強制してこなかっただろうか。

小学生から高校生はもちろんのこと、今や就職活動の場面まで「10年後の自分の姿」を訊かれ、そのことについて上手く答えなければならなくなってしまった。このことを強制といわず何と言おう。

高度経済成長のときであればまだしも、「失われた20年」と言われた不景気は今や「失われた30年」と置き換えても違和感はないほど長期化している。

そんな時代に「夢をもつこと」を強制する残酷さ。

個々人の資質に関しても同じだ。誰しもが大谷翔平や藤井聡太のようなスーパースターになれるわけではないのだ。

経済の構造、そして個々人の資質という点から、「夢をもつこと」の暴力性を探る本書はその先の地獄、つまり、社会構造によってもたらされる地獄も暴いていく。

『無理ゲー社会』の要約・感想

「夢をもたせよう」とすることはハラスメント

「読者の価値観に大きな衝撃を与える」と冒頭で記したが、私自身も本書で大きな衝撃を受けた1人だ。特に本書の次の文章は衝撃的であった。

現代の若者は、大人や社会が「夢をもたせよう」とすることはハラスメント(虐待)と感じているのだ

告白してしまえば、夢をもたせようとすることがハラスメントだと感じたことが私にはなかった。

理由は単純だ。夢もなく、希望もない、就労した企業から与えられた役割を「自分らしさ」と思ってしまう大人になることが、私にとっては怖かったからだ。

2011年に放送され、最近でもコラボカフェや映画化の発表がされるなど根強い人気を誇る『輪るピングドラム』というアニメ作品のキャッチコピーは「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」というものだった。

ティーンエイジャーだった当時の私は、このキャッチコピーが怖かった。そうであるからこそ、10年後に発刊された『無理ゲー社会』の先の文言は、自分の無責任さを突き付けられた形になったのだ。

また、

彼ら/彼女たちは、「夢」が氾濫するこの日本で、将来に絶望し「安楽死」を望んでいる

と本書にはある。

かつての自分が欲しくてたまらなかった「自分らしさ」や「夢」が新たな地獄を生んでいる。

昔の私は、大人を嫌悪していた。しかし、現在のティーンエイジャーからみれば、私自身も嫌悪されるべき大人の1人にいつの間にかなってしまったのだ。

「非モテのテロリズム」と「自分らしく生きること」

『無理ゲー社会』では「非モテ」の問題にも触れている。

2008年に起きた秋葉原無差別連続殺傷事件の犯人である加藤智大の足跡を追ったあと、本書は次のように述べる。

加藤は、「不細工キャラ」は掲示板に参加者を集めるためのたんなるネタだと繰り返し述べている

加藤のスレッドが「不細工スレ」として評判になったのは、どれほどカリカチュアしても、そこから加藤の「傷口」が覗いていたからだろう。だからこそ、同じ「非モテのコンプレックス」をもつ者たちが集まってきたし、加藤も「ありのままの自分」を受け入れてくれる女性が現れることを期待したのだ

『無理ゲー社会』では加藤智大や、その他いくつかの無差別殺人について「犯人はいずれも現代社会において「自分らしく生きられない」男だ」という。

「非モテのテロリズム」は、その屈辱的な扱いに対する(無自覚の)意義申し立てである

率直に言ってしまえば、このテロリズムについて私は「二重の意味」で否定されたのだと思った。

1つ目は、そのようなテロリズムを起こしたところですべてが変わるわけではない、ということ。

2つ目は、「自分らしく生きた」として、そのことが誰かから愛される保証にはならない、という意味だ。

1つ目については、言葉は要らないだろうが、2つ目について少し補足をしてみたい。

恋人や夫婦などの関係性を含む性愛のつながりは、「自分らしさ」を貫くだけではうまく維持できないはずだ。

例えば、性愛という関係性に注目し続けた人物に代々木忠(よよぎ ただし)という人がいる。

AV監督である彼は著書『プラトニック・アニマル』のなかで次のように述べる。

だから、男女関係のコツは自分が主導権を握らないことだ。負けるが勝ちなのである。夫は妻に、彼は彼女に、主導権を握らせてしまう。男はその中で漂えばいい(…)かまわず女の意見をどんどん肯定していくと、ある時点から自分のやりたいことが要求しなくても叶うようになってくる

この主張がいささか極端だとしても、現実的に考えれば、赤の他人同士なのだから、いつまでも「自分らしく」というわけにはいかないのは、直感的にわかることだと思う。

かくして「非モテのテロリズム」は「自分らしく」が善とされる現代社会において、二重の意味で否定される。

近年では、恋愛に対して「コスパが悪い」といって忌避する若者が増えているという話があるが、このことも確かに「自分らしく」あり続けることが出来ないのであれば、若者にとっては恋愛は「コスパが悪い」と感じるのも仕方ないと思えてならない。

『無理ゲー社会』の意義とは

『無理ゲー社会』の優れている点は、その視野の広さである。

これまでは「自分らしさ」と「非モテ」という点に絞って紹介してきたが、実は本書はユニバーサル・ベーシックインカムや経済学の理論として注目されているMMT――現代貨幣理論にも触れながら「これからの社会」の行方まで踏み込んでいく。

そして、以上のことから本書の意義は2つある。

まずは、「現代社会の問題がクリアになる」という点だ。そのことによって、これからの社会がどう変化していくかの予測をすることもできる。この予測の是非は読者が判断するとしても、何も知らないよりずっといいと思う。

そしてもう1つは、「徴候を見逃さないことの大切さを実感できる」ことだ。本書は社会という抽象的なものについて、抽象的な言葉を用い分析するだけではない。流行物はもちろんのこと、個人の絶望や希望などから社会を見ようとしている。

冒頭に記した安楽死の話に関連するが、たしかに流行物から死生観の変化の徴候があるように思える。たとえば、大人気マンガ『呪術廻戦』の第1話において、主人公・虎杖悠仁(いたどりゆうじ)は高校の同級生を敵である化物から救う。

しかし、それは敵によって殺されるのは「間違った死」だと思ったためだ。このことから、主人公は死について「正しい」と「間違った」という価値観を有していることがわかる。

すべての「生」に価値を置くのではなく、「死」のなかの「正しい」と「間違い」に重きを置く人物を主人公とするマンガの流行は、死生観の変化によるものが一因だと私は思うが、この記事を読んでいるあなたはどう思うだろうか。

ただ1つだけ言えることは、徴候に注意し、社会の機微に対して誠実に向き合わなくてはならない、ということだ。

「夢をもたせよう」とすることがハラスメントと化してしまったように、「地獄」への道を他でもない私たち自身が「善意」として舗装してしまっているかもしれないのだから。

まとめ

本書を読めば、社会の様々な制度や価値観は、その耐用年数を超えていることがわかる。結果、多くの問題を抱えることになってしまったのだ。

それでも、問題の原因の1つである「自分らしさ」というものを人は求めてしまうのかもしれない。

しかし、制度や価値観の耐用年数を超えているからこそ、これまで善だと信じてきた「自分らしさ」というものを再考しなければならない。

「自分らしさ」というものは、自分という単独の存在からではなく、ましてや『無理ゲー社会』で触れられているような、他者を苦しめるような価値観ではないはずだ。もっと別の「自分らしさ」がきっとどこかにある。私はそう信じている。

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