いきなりですが、
皆さんは読む本をどんな風に探していますか?
インスタグラムで読書アカウントを見ていると私がまだ知らない作家さんの本も時々目にする機会があって、どんな風に読む本と出会っているのかとても気になります。
私自身の話をすると友人やインスタで繋がりがある方などから紹介されて、「読みたい!」と思った本はすぐにアマゾンでぽちっと、後は基本的に本屋さんでうろうろと結構な時間をかけて選びます。
買ったら読みたい気持ちのままに読書したいので購入するのはいつも1、2冊くらい。
読み終わりそうになる都度、本屋でぐるぐる同じ場所を彷徨っています。
それで今回紹介する本は、本屋でうんうん唸って選んだ、深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』です。
『このミステリーがすごい!2019年版』で第2位(国内編)、さらに直木賞の候補作になっているようです。
帯には「ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ―」と書いてあります。
読む前から内容の重さを感じつつ、今まで読んだことのない作家さんでしたが深く読書に入り込めそうな本と思って購入。
読み終わってみると期待通り、いや、期待を大きく超えて私の中に残る読書だったので詳しく紹介したいと思いました。
あらすじ・内容紹介
1945年7月、ドイツが戦争に敗れ、米ソ英仏の四か国統治下に置かれたベルリンが舞台です。
ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死にます。
その男はドイツ人少女アウグステの恩人です。
アウグステは疑いの目を向けられつつ、恩人である男の甥に訃報を告げるために旅立つことになります。
物語はアウグステが甥を探す物語と、男の死よりももっと以前、アウグステの生い立ちから恩人の不審死までを描いた幕間の章が交互に進みます。
様々なルーツや思想を持つ人々が時代にしがみつくように生きています。
そんな時代背景の中で描かれる圧倒的スケールの歴史ミステリです。
時代背景について
小説は丁寧に描かれているので前知識は基本的に必要ありません。
また、これは私の個人的な経験ですが、今まで海外が舞台の小説を読んだ時に人名がごっちゃになってしまったり、地名の位置関係が浮かばず物語に入れなかったりすることがありました。
ですがこの小説では頭に主要人物が簡単な説明と共にまとめられています。
例えば「アウグステ・ニッケル アメリカ軍の兵員食堂で働く少女」と言った具合に。
さらに地図も戦前、戦後それぞれの地図も載せられています。
なので意味も分からずごちゃごちゃしたまま読み終えてしまうようなことはありません。
とても丁寧で親切です!
ただ時代背景の触りを知っておけば小説に入りやすくなるのではとは思い、少し書きます。
舞台となっている1945年7月のドイツは第二次世界大戦で敗戦した後です。
戦中はアーリア民族を中心に据えた人種主義と反ユダヤ主義を掲げたアドルフ・ヒトラーが首相としてドイツ国を牽引します。
ざっくりと話せば、ドイツ民族以外の民族や、ドイツ民族でも障害者やナチ党に従わない政治団体・宗教団体について迫害されるような風潮がありました。
人種主義や反ユダヤ主義を声高に崇拝して推し進めると評価が上がり、逆に告げ口でも何でも、それに対して文句を言ったことがばれると反社会的と見做されて罰せられるという時代です。
ただ戦後については戦勝国統治となり、戦中で是とされた思想は一転します。
つまり敗戦直後の1945年7月のドイツの街には傷跡は大きく残り、人々の気持ちには混乱と不安に満ちています。
そんな舞台での物語です。
ベルリンは晴れているかの感想(ネタバレ)
私が共有したいくらいに心に残った場面を2つあげます。
悲しい場面
上記したように障害者を支えることについて良しとしない風潮があります。
ダウン症のギゼラが弟のレオに保健局事務所へ通報され、輸送される場面が悲しいです。
表向きには「特別な施設で最新の薬物療法を」受けるという通達の元です。
勿論実際には違うことが分かっています。
ギゼラの家の周りには「遺伝子疾患者を支え続けるとあなたの平均寿命が縮む」という文句が書かれた党のプロパガンダポスターが中庭を囲えるほどに貼ってあり、中には「役立たず」と書かれた落書きもある状況ですから。
ギゼラは輸送後、面会も曖昧にされ叶わず、しばらくして死亡通知と火葬した旨のそっけない手紙だけが届きます。
そして手紙が届いた翌朝、ギゼラの父親は首をくくって自殺…
全然、違う時代の違う国の、しかも小説だというのに悲しくて悔しい。
時代に対する怒りとか、反感ではありません。
自分自身に対してです。
この時のアウグステの心情がよく分かりました。
アウグステは何度も、
しかし何も出来なかった。
と自分を責めます。外に出てポスターやそういう内容の立て札を取り除くこともできない。
とても浅はかな想像だと分かっていても、すぐに私はもし自分自身のことならと考えてしまいます。
知人や友人が世間全体の風潮で攻撃された時、守る行動をとることができるのか。
もし親しい人ならできるのか。
親しい人だったら、もしその人を守ることで自分も同じように攻撃されてしまうのだとしても、すぐに動くことができるのだろうか。
気持ちがぐらんぐらん揺れ動きながら読んで、ギゼラの父親が自殺した文章まで読んで、落ちこみました。
ただ先を読まずにはいられない気持ちになったことは確かです。
嬉しかった場面
終盤、アウグステ、ジギ、トーリャ、エーリヒがお酒を交わすシーンが好きです。
ずっと物語はそれぞれの立場が違うことがどれだけ重いことなのか分からせるような場面が続いていたから4人が冗談を交わしながら楽し気に話している場面は幸せに感じました。
年代も近い同じ人間なんです。
所属組織の強弱や、そんなものなくても先輩後輩、上司部下、その他色々……。
上下など立場の違いがあってまとまるものもあります。
それはきっと大事なことなのですが、ふとなくなったこの場面は人間同士の距離感がなくて幸福感が漂っているように感じました。
特にトーリャはずっと堅苦しい軍曹だったのに、好きになりました。
長く旅してきたからか、嬉しい場面の一つです。
物語の終盤、終わり方について
終盤、幕間の物語と主として進んでいる物語が真相という形で繋がります。
この真相が明かされた時のはっとする気持ちはミステリを読む醍醐味ですね。
圧巻で読みながら唸ってしまいました。
また終わり方についても時代の重みがある以上、全ての面ですっきりハッピーエンドというわけにはいきませんが、好みの終わり方でした。
具体的な内容はもしかしたらネタバレが過ぎるので書きませんが、登場人物それぞれが一つ区切りを付けて前を向いていることが嬉しいし、よかったと思いました。
重く続いていた物語が上を向くラストはずしんと感慨深くて読み終えて胸が一杯になり、しばらくぼんやりしてしまいました。
それからまたぱらぱらと本を捲って余韻に浸りました。
まとめ
必死に生きている人物の物語は読みごたえがあります。
スケールが大きくて、ミステリならではの謎が解けた面白さもあります。
あとは時代背景。
風化させてはならないような生まれる前の出来事が迫力を持って訴えかけてくる力を持っているので、ずしんと胸に響きます。
始めは人名、言葉に慣れなくて読むのに時間がかかっていましたが、中盤からはほぼ一気読みでした。
時間をかけてゆっくり読んでどっぷり読書に漬かりたいという期待を軽く飛び越えた一冊でした。
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