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『クスノキの番人』のあらすじと感想【クスノキに込められた家族の思いを受け継ぐ】

『クスノキの番人』のあらすじ・感想【クスノキに込められた家族の思いを受け継ぐ】

願い事をすれば叶うなら、あなたは何を願いますか。

恋愛、仕事、学業、金運、健康など、願いたいことはいろいろあるのではないでしょうか。

もし、そんなパワースポットがあれば、行く方もいるでしょう。

本書は、願いが叶うと言われるクスノキを守る番人と、その木に祈念する人々のお話です。

こんな人におすすめ!

  • 「家族とは?」と考えている方
  • 東野圭吾作品のどんなジャンルでも好きな方
  • 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『夢幻花』『時生』を読んで感動した方

あらすじ・内容紹介

不当解雇された職場に押し入り、逮捕された直井玲斗(なおい れいと)。

彼はなぜか、大手不動産会社ヤナッツ・コーポレーションの元社長、柳澤千舟(やなぎさわちふね)により保釈される。

彼女は70歳近い年齢であるが、玲斗の母・美千惠(みちえ)の異母姉であった。

保釈金を立て替える代わりに千舟が出した条件は、月郷神社(つきさとじんじゃ)のクスノキの番人になること。

玲斗に課せられた仕事は、「願い事が叶う」と言われる、御神木のクスノキを含めた境内の管理、と夜間の祈念の番である。

神社では夜の祈念を予約制で受け入れている。

祈念する人は番人からろうそくを受け取り、クスノキの幹にある空間で念を伝えるという。人が祈念している間、番人はクスノキに近づいてはならず、祈念の内容も一切聞いてはいけないことになっている。

玲斗はこれ以上のことを千舟から聞かせてもらえないまま、クスノキの番人となった。

クスノキの番人となって2週間が経過したころ、定期的に夜の祈念に来る佐治寿明(さじとしあき)の娘・優美(ゆうみ)が、父の後をこっそりつけていた。

何でもここ半年の父の行動が怪しく、追いかけてきたという。

父の行動を怪しむ優美と、クスノキの中で何が起こっているか知りたい玲斗。

2人は結託して、佐治寿明の行動を追い、探りを入れ始める。

そして調べていくうちに、思いがけない事実が分かる。

全ての事実が明らかになったとき、あなたは涙を流さずにはいられない。

『クスノキの番人』の感想・特徴(ネタバレなし)

クスノキの秘密:どうして、「クスノキに祈念する」なのか?

願いが叶うと言われるクスノキの番人をしているうちに、玲斗は祈念について、徐々に分かるようになっていきます。

それは、

・夜の祈念は、新月と満月に集中していること

・ある人物が祈念してから、その人の血縁者が祈念にきていること

・願いが叶うとは限らないこと

・誰かの死を願うことができること

願いが叶うと言われているのに、願いが叶うとは限らないとは?

なぜ、それでも人はクスノキに祈念するのか?

人の死のように、物騒なことを願ってよいのか?

と疑問が浮かんできます。

その答えは、「祈念」という言葉の意味に通じます。

どうして祈念っていうの?願い事をするのなら、ふつうは祈願って言わない?

優美が言ったように、神社では合格祈願というように、祈願が使われます。

どうして「クスノキへ祈念する」なのでしょうか?

大辞泉で調べてみると、「祈念」と「祈願」は同じような意味で使われています。

一方で、「願」は「欲望を満たすために、他人や神仏に求める」という意味になりますが、「念」は「思い」という意味になります。

そう、クスノキに伝わるのは「念=思い」、言い変えると、メッセージなのです。

しかもそれは、祈念者の血縁あるものが、後日祈念に来ているように、血縁者にしか受け取れないメッセージなのです。

願いが叶うとは限らない、誰かの死を願いことができるという、疑問も解けるでしょう。

 

(クスノキに)理念や信念を伝えられるといいましたが、念というのは清いものばかりではありません。疑念、懸念、執念、そして無念といった、預念者が心残りに思っていることも含まれます。それどころか、雑念や邪念だってクスノキはそっくりそのまま伝えることもあります。

このセリフは千舟の言葉ですが、ポジティブな思いだけでなく、ネガティブな思いもクスノキは伝わってしまうことが分かります。

だから、クスノキには「祈願」ではなく、「祈念」なのでしょう。

新しいクスノキの番人:直井玲斗の無欲さ

新しくクスノキの番人となった直井玲斗。

彼はホステスをしていた母・美千惠が、不倫した末に生まれてきた子供でした。

そのため父の顔を知らずに育ちます。

また玲斗を育てていた母も若くして癌で亡くなり、その後は祖母・富美(ふみ)に育てられます。

千舟の父である祖父・宗一(そういち)は、この時すでに亡くなっています。

工業高校卒業後は、祖母の元を離れ、職も転々としていた玲斗ですが、同級生の家と異なり、経済的に恵まれず、家族の縁も薄いことを早くから自覚していたため、達観している部分があります。

それは、千舟に連れられ出席した、ヤナッツ・コーポレーションのパーティーで、千舟のはとこ、柳澤将和(やなぎさわ まさかず)から、「将来について描いていることとは?」と聞かれ、こう答えたことからも分かります。

はっきりいって、将来について思い描いていることなんて何もないです。(中略)機械いじりが少しできる程度で、学はないし、取り柄もないし、戦う武器は持ってません。だけど、それは今までもそうでした。生まれた時から何もありません。物心ついた時には父親はおらず、母親もすぐに死にました。何もない中で生きてきたんです。自分の身は自分で守らなきゃいけませんでした。今日までがそうだったから、きっと明日からもそうだと思います。でも覚悟はできています。失うものが何もないので、怖くありません。

現状に満足して、欲がない玲斗。

彼は、クスノキの番人にふさわしかったと思います。

なぜなら、本当は願いが叶うとは限らないと分かっていても、実情を知らない人が聞いたら、クスノキに願をかけたいと思い人も増えるでしょう。

願いが叶うクスノキの存在は、常に悪用できる状況にあり、使い方を間違えれば破滅につながりかねません。

千舟が見抜いていたかは分かりませんが、彼の無欲さは番人に向いていたと思います。

家族へ伝えたい念とは?

クスノキへの祈念は、血縁でつながった家族へのメッセージです。

本書には、千舟と玲斗、佐治親子を始め、様々な家族が複数登場します。

家族に多様性があるように、各々で異なる祈念模様が描かれています。

クスノキへの祈念後、何かを得て晴れ晴れした気持ちで去る者、念を受け取ったがどうすることもできない者、何も受け取れずイライラする者、受け取れなくてもあきらめず通う者。

このように相手に伝わるか確証はなくとも、人々はなぜクスノキに祈念するのでしょう。

言葉の力には限界があります。心にある思いのすべてを言葉だけで伝えるのは不可能です。だからクスノキに預かってもらうのです。

文章だけでは伝えきれない思いを家族に伝えたい。

だから、クスノキに祈念するのです。

祈念の内容は、家族によって異なりますが、家族の数だけ思いがあります。

まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は大きく変わりました。

今は移動が緩和されましたが、緊急事態宣言中は、離れて暮らす家族に直接会えなくなった方もいらっしゃるでしょう。

時には煩わしく感じる家族ですが、新型コロナウイルスは、家族と会うことも制限しました。

会いたい人に会えなくなる。

もしかして、このまま会えないかもしれない。

そんな終わりが見えない不安に苛まれました。

私は緊急事態宣言中に本書を読み、改めて、家族に伝えたいメッセージはないかと考えました。

家族への思いが心の中で大きくなったゆえに、自分の肉体が滅びても、思いを家族に伝えられるクスノキが存在したらいいなと思いました。

本書はフィクションですが、様々な家族の祈念模様を読むと、自分のことにも置き換えられると思います。

世界が大きく変わったこの時期に、本書が出版されたのも、家族について考える機会を与えてくれたのではないか、と思わずにはいられません。

まだ世の中が安定しない今、「家族とは?」について、立ち止まって考える良い機会なのかもしれません。

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