令和初投稿で取り上げる作品は、東野圭吾さんのガリレオシリーズ第9弾『沈黙のパレード』です。
ドラマ化、映画化されている人気シリーズであり、実に6年ぶりに刊行されました。
『虚像の道化師』『禁断の魔術』が短編集だったため、久しぶりの長編になります。
あらすじ・内容紹介
仮装パレードで有名な東京都郊外の菊野市。
3年前突如行方不明になった19歳の若い女性の遺体が遠く離れた静岡県のゴミ屋敷から発見された。
亡くなった女性の名前は並木沙織。両親は菊野市で居酒屋「なみきや」を営んでおり、アイドルのような容姿で歌が上手く、高校卒業後は歌手を目指していたという。
並木沙織殺害の容疑者に上がったのは、ゴミ屋敷の持ち主である蓮沼寛一。
蓮沼は23年前に草薙が担当した事件の容疑者であり、黙秘を続けたことで不起訴になっていた。
再び容疑者に上がった蓮沼を担当することになった草薙。しかし、あの時と同じく黙秘を続けるため、並木沙織の家族、そして家族同然に過ごしていた「なみきや」の常連や歌の先生はいら立ちが募る。
しかし、蓮沼は殺された。菊野市で行われる仮装パレードの最中であった。
蓮沼を恨んでいたのは、並木沙織の関係者。だが彼らにはアリバイがある。
菊野市の研究所に通ってた湯川も交えて、捜査が進んでいく。
沈黙のパレードの感想
事件の複雑さと最後まで分からない真実
この作品を一言で示すと「真実は最後まで分からない」です。
殺された蓮沼寛一が起こした事件は、23年前の本橋優奈ちゃん殺害事件(足立区)と並木沙織さん殺害事件(菊野市)を起こしており、その蓮沼を恨んでいたのは一人ではないからです。
本橋優奈ちゃんの唯一の肉親であり、逃亡中の蓮沼に部屋を貸していた増村栄治。
並木沙織さんの家族と「なみきや」の常連たち。まるで導かれるように二つの事件の担当となった草薙。
事件当事者や恨む人間の多さ、そして最初の事件から23年、並木沙織さんが疾走してから3年が経った時間が、より事件を複雑にしているのです。
タイトルに込められた「沈黙」
登場人物たちの様々な「沈黙」がタイトルに込められていると感じます。
「沈黙(黙秘)」を貫くことで司法の穴をくぐった蓮沼寛一。
「沈黙」せざる得なかった2つの事件の遺族と担当した草薙。
にぎやかなパレードの日に蓮沼に下された永遠の「沈黙」。
読者によってとらえ方は違うかもしれませんが、「沈黙」という言葉には多くの意味が込められています。
「パレード」はガリレオシリーズの定番どころ
ガリレオシリーズといえば、物理学を駆使したトリックを帝都大学教授湯川学が明かしていくのが定番です。
今回は「パレード」がその部分にあたります。
パレードで使用された小道具や巨大バルーンに使用されたヘリウムガス。
これらがどのように事件と関わっていくのかは、そして湯川の推理が展開されていく。
まとめ
内海薫刑事がこの事件を振り返ったこのフレーズが、蓮沼寛一殺害事件の真相の複雑さを物語っています。
本当に複雑な事件だった。蓮沼という、卑劣で凶悪な人物の犯罪を司法が裁ききれなかったことに、すべての原因があるのは明らかだった。そういう意味では直接に手を下した新倉直紀や、犯行を思いついた並木祐太郎、計画を推進した戸島修作には大いに同情の余地がある。しかしどんな最低の人間であっても命を奪う権利は誰にもない。今後自分たちは草薙の指揮の下、いかにその犯行が許されないものであったかを実証していかねばならない。そのことを考えると薫は気が重かった。
事件に関与した人物の多さや、事件から経過した年月が、何重にも重なって、事件をさらに複雑にさせていました。
しかし、その真実は隠されていました。登場人物たちも意図していない方向に。
それが明かされたとき、『沈黙のパレード』の全体がやっと見えてくるのです。
”最後の最後まで読み通してほしい”と一読者として思いました。
主題歌:椎名林檎と宮本浩次/獣ゆく細道
平成最後の紅白歌合戦でも披露された椎名林檎さんとエレファントカシマシ宮本浩次さんのデュエット。
この世は無常 みんな分かつてゐるのさ
誰もが移ろふ さう絶え間のない流れに
(作詞:椎名林檎)
歌詞の旧字表記が、犯人が分かっていても起訴されなかった遺族の無念を表していると感じます。
また、緩急のあるリズムと音の高低が、華やかなパレードを隠れ蓑にし、殺人事件が起きたというシチュエーションに合っているとも感じました。
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