『新世界より』あらすじと感想【1000年後の日本で起こる人類vs異類の戦い】

『新世界より(下)』貴志祐介【1000年後の日本で起こる人類vs異類の戦い】

貴志祐介による長編小説であり、2012年にアニメ化された作品『新世界より」。

 

未来の日本を舞台にして起こる異類との戦争の中で苦しみながらも前を向き、歩みを進めていく人間の物語です。

「神の力」と呼ばれる力を手に入れた人間が血塗られた歴史を知り、それでもなお殺戮を重ねていきます。

人とは何なのか?

過去の歴史を知るにも関わらず、幾度となく同じ過ちを繰り返す人間が、この先どんな未来を繋いでいくのか?

大ボリュームの長編小説でありながら、後半部分の盛り上がりもあり一気に読み進められる展開になっています。

感情を揺さぶられ、悲しみ、痛み、苦しみ、怖さが伝わってくるSF小説です。

あらすじ・内容紹介

1000年後の日本を舞台に、念動力「呪力(じゅりょく)」を手に入れた人類。

自然に溢れた「神栖66町」でバケネズミとの戦争が開始されました。

呪力を手にした人間にバケネズミは徹底した頭脳戦、戦略で立ち向かってきます。

「悪鬼」という最強の切り札を手に入れたバケネズミに成す術もなく逃げ惑う人間と、最後まで諦めることなく戦い続ける2人の男女と1匹のバケネズミ。

残酷で信じられない過去の歴史を知った女性主人公による手記として、物語は紡がれていきます。

 

広大な日本列島に存在する「神栖66町」と不毛の大地となった東京を舞台に、異類との戦いや危険生物の襲来、大切な人の死、大量殺戮、血塗られた歴史を乗り越えようとする人間たちの姿勢などが描かれます。

注意
以下、ネタバレ注意です。

『新世界より(下)』の感想(ネタバレ)

1000年後の世界ってどんな世界?

1000年後の日本というと、想像もつかないくらいの年月が経っていますよね。

それだけの超未来の世界だと、文明がかなり進んでいて車が空を飛んでいたり、人が空を飛べたりとか、人間は一切仕事をせずすべての労働をロボットに任せている、そんな便利で豊かな世界を思い浮かべてもおかしくはないと思います。

しかし、『新世界より』の日本は、古代文明よりも以前の時代に戻ってしまったかのような世界。

  • 自然溢れる穏やかな町
  • 移動手段は船(水路)
  • 通信手段がない

1000年も経っているにも関わらず、文明的には退行しているのが面白い部分です。

 

その背景には、呪力という念動力があります。

現在の茨城県神栖町が舞台になっていて、周囲は水田や水路があり、車や電車といった現代では大事な移動手段であるものが存在していません。

代わりに町に張り巡らされている水路によって、移動、物資の運搬が行われています。

また、現代では当たり前のように行われている電波を使った情報のやり取り、つまりインターネットによる情報交換は行われていません。

では、何を使って情報のやり取りが行われているかというと、

  • 短い距離なら伝声管
  • 伝書鳩
  • 狼煙(のろし)

などです。

このような独自の世界観が、本書の魅力の1つです。

後々、この文明の後退が戦争において弱点となってしまうのも人類の教訓となっているのかなと思います。

 

また、東京が枯れ果てた不毛の大地となっているのも興味深いところです。

見たこともない生物がいたり、支配者がコウモリだったり、様々な建物が崩壊して、自然と文明の成れの果てが共存している場所となっています。

神栖66町に現れる異類について

神栖66町には、人間の他にバケネズミという異類がいます。

バケネズミの先祖はハダカデバネズミという齧歯類(げっしるい)で、人間に忠誠を誓い、与えられた役務を提供することで存続が許されています。

しかし、人間側の矛先が変われば簡単に抹殺させられてしまう存在でもあります。

人間は、バケネズミに対し試料の採集をさせたりしていますが、人間に1度でも反逆したり、人間が決めた義務を守らなかったりすると、コロニーごと潰されてしまうのです。

そういった背景から、人間に戦争を仕掛けてバケネズミによる帝国を作ろうとしたのが塩屋虻(しおやあぶ)コロニーの野狐丸(やこまる)

もちろん、バケネズミだけではこの計画は成り立ちません。

攻撃を仕掛けたとしても、呪力によって攻撃を防がれる上、呪力により抹殺されてしまうからです。

そこで登場するのが悪鬼という存在。

この悪鬼が、『新世界より(下)」で大きなポイントとなってきます。

人間から奪われた大切な人の記憶

神栖66町には「教育委員会」という組織があり、町にいる子供たちを絶えず注意深く観察しています。

それは、呪力を使えるようになった子供たちの中から悪鬼や業魔を出現させないため。

少しでも、悪鬼や業魔の兆候が見えた子供は、町によって処分されてしまいます。

ここで問題となるのが処分された子供たちのこと。

神栖66町には全人学級という呪力を学ぶ学校があるのですが、クラスからいきなり子供が消えれば周りのクラスメイトは当然疑問に思いますよね。

そこで、大人たちは今いる子供たちの記憶を封印してしまいます。

主人公である渡辺早季と、同じ班の青沼瞬は業魔となってしまい、死んでしまいます。

その後、大人になるまで彼のことを思い出すことが出来ないという悲しい現実がありました。

「ああ。すごい・・・・・・」

まるで、わたしたちを中心に周囲が急速に凍っていったように、水面から凹凸というものがなくなった。今や、水面は磨き上げられたガラスのように滑らかで、満天の星を映し出す漆黒の鏡面だった。

「きれい。まるで、宇宙を旅してるみたい!」

この晩のことは、わたしは終生忘れないだろう。

わたしたちが旅していたのは、地上の川ではない。無数の恒星が輝いている、天の川だった。

これは、子供の頃の早季の記憶です。

しかし、その記憶を忘れないという早季の気持ちに関係なく、大人たちの手により、その後、強制的に記憶を奪われてしまいます。

大好きで大切で忘れたくないと願う記憶でさえも、周囲の人間が悪鬼や業魔になることにより記憶は消されてしまうのです。

これほど辛いことはないと思うし、早季が大人になった今ではこういった悲しい現実が起きないことを彼女は何よりも願っていると思います。

そのために、再び惨劇が起きないよう早季は様々な対策をしてくれると私は思っています。

大雀蜂軍の将軍・奇狼丸の武士魂

バケネズミには、色々な部隊があり、その部隊の1つに大雀蜂軍があります。

大雀蜂軍を率いる将軍の奇狼丸(きろうまる)はとてもかっこよく、強い精神力の持ち主です。

我々の種族は、心臓が鼓動を止める、まさにその瞬間まで、逆転する方策を探し求めます。

それが無駄な努力に終わったところで、失うものはありません。兵士の本分という以前に、生きている限りは戦い続けるのが、生き物としての本分なのです

これは、早季と一緒に東京を訪れ、悪鬼と塩屋虻コロニーの野狐丸と洞窟の中で戦いになったときのセリフ。

何度も攻撃に失敗し、すぐに泣き言を言う早季たちに対し、奇狼丸は決して諦めることなく、最後まで挑み続けます。

この姿勢は私自身、見習いたいと思います。

 

また、悪鬼をおびき寄せるために、1度は早季たちが悪鬼の前に姿を見せないといけないときも、「怖いから出来ない」という早季たちに対しこう言います。

私が命を捨てることで悪鬼を斃せるのであるなら、一瞬の躊躇もなく、任務を完遂してみせましょう。

・・・・・・あるいは、私が今ここで命を絶つことで、お二人を奮い立たせられるものなら、そうしたい思いです。

恐怖という感情を抑え込むことは難しいもの。

それを目的のためなら、迷いなく命も捨てられると言い切れるのはかっこいいなと思います。

奇狼丸の言動に注目しながら、読み進めていくとさらに本書を楽しめると思います。

まとめ

呪力という絶対的な力を手に入れた人間がどうなるのか。

その力を過信しすぎた結果、弱点をつかれてしまった人間がいかに愚かな行動をするのか。

長編でありながら、一気に読み進められるぐらい引き込まれます。

貴志祐介さんの小説は独特な世界観があり、表現方法や言葉の選び方が絶妙で、読めば読むほど味が出ます。

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