人の温かさと冷たさ、残酷さに身動きが取れなくなる東野圭吾『白夜行』。
「東野圭吾さんといえば白夜行」と言ってもよいほど影響力のあった長編小説です。
あらすじ(ネタバレなし)
建設途中の廃墟ビルで殺害された質屋の男性と関わりのあった人間達の物語。
父親を殺された被害者の息子「桐原亮司」。
容疑者とされ死亡した女の娘「西本雪穂」。
残酷な記憶が幼い二人の心を奪い、さらなる悲劇を生んでいく長編ミステリー。
明るい太陽の下で会っていたら、二人はどんな未来が待っていたのだろう。
いつか二人、明るい太陽の下を歩くことだけをたよりに生きて行く。
人間の心理がにじみ出ている「東野圭吾」と言えばこの一冊のように思います。
『白夜行』の感想
十字架を背負って
1973年、建設途中の廃墟ビルで質屋の男性が殺害される。
発見した子供の家族、質屋店員、男性の妻、質屋の客…容疑者は次々を浮かびあがるが、犯人が分からないまま迷宮入り。
殺された男性の息子「桐原亮司」は売春斡旋やゲームソフト偽造、カード詐欺などをしてパソコンショップ『MUGEN』をオープンさせ、人とはあまり関わらず裏稼業をして生きていく。
容疑者とされ死亡した女の娘「西本雪穂」は、母親の死亡後「唐沢礼子」に引き取られる。
華道師範の義母に育てられ礼儀作法、学業などしっかりと身につけて生きていくが…雪穂と深く関わった人間は不幸な事故や事件が降りかかる。
詐欺、レイプ、殺人…
愛すが故か、思いすぎるが故なのか?
父親を殺害された少年「桐原亮司」と、殺人犯とされ自殺した母親の娘「西本雪穂」。
本書は心理描写を敢えて書かれていない為、刑事「ササガキ」が中盤で登場し始めるまでは亮司、雪穂の二人の別々の人生が、周りで関わる人間によって淡々と語られていく。
唯一、二人の心理が描かれただろう一説がこちら。
亮司
パソコンショップの営業終了後、来年の抱負を聞かれ、
「昼間に歩きたい」
「俺の人生は白夜の中を歩いているようなのもやからな」
雪穂
夏美との会話の中で、
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。
太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけれど、
あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの。
わかるわね。あたしには最初から太陽なんかなかった。だから失う恐怖もないの。」
二人は、どんな十字架を背負い19年もの間生きてきたのか?
ドラマ白夜行(ネタバレ)
2006年、TBSにて放送
山田孝之さん、綾瀬はるかさん、主演に監督、プロデューサー等スタッフも2004年放送のドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」のゴールデンコンビで描かれていることでも有名なお話ですね。
ドラマでは心理描写を描かれていない原作とは違い主人公二人の時効までの人生を人としての葛藤やさみしさ醜さ、小さな希望を持ちながら生きていく亮司と雪穂の関係が描かれています。
父を殺した少年と、母親に罪を着せるため母を殺した少女。
時効まで、別々の赤の他人で生きていくことを約束する。
大人たちの欲や自己満よってもたらされた暗闇を切なく残酷に生き、ほころびを見つけては継ぎ足し、希望を持ちながらも抜け出せなくなっていく二人。
7年後に偶然にも再開してしまった亮司に雪穂は、
「私が何を言われてもなにをされてもニコニコ笑っているのはもう一回、あんたと歩くために決まってるじゃない
時効が来てもう一回太陽の下亮君と歩くんだよ。…そんな相手一人しかいないよ。」2話
ドラマに度々入る「山田孝之さん」のナレーションでは、父を殺し母を殺し時効をむかえるためだけに罪に罪を重ね生きていく孤独さが、語られていたように思います。
「わかるやつがいるなら教えてほしい。
なんで、オレたちは生まれてきたのでしょうか?
こんなことを繰り返すためでしょうか?」「なんのためにこれから生きていけば良いのでしょうか?
ただ歩きたかった。少しでも人間でいたかった」
この世に生を受け父と母の裏切りを目の前にし暗闇を生きていく。
亮司は、止めてほしかったのかもしれない。
大阪のクリスマス最終回で、笹垣刑事はこう言いました。
「間違いだらけやったけどお前が精一杯やったのはおれが知っている。一人の人間幸せにする為にお前は精一杯やった。。
ほんますまんかった。あの日お前を捕まえてやれんで。」
とにかく切ないストーリーですが、ドラマではそんな二人を懲りずに追い続けた刑事と図書館の谷口司書が温かく二人を見守っているようにも感じます。
笹垣刑事の存在は一つの希望だったのかな?
まとめ
東野圭吾の、リアルな人間心理に深く引き付けられる白夜行。
残酷としか言いようのない人生を小さな希望と確かなお互いの存在に支えられながら生きて行く男女の物語。
主題歌:鬼束ちひろ/月光
ドラマ『白夜行』の主題歌は、柴崎コウさんの『影』でしたが、私の考える原作小説の主題歌は、鬼束ちひろさんの『月光』でした。
I am GOD’S CHILD(私は神の子供)
この腐敗した世界に堕とされた
How do I live on such a field?(こんな場所でどうやって生きろと言うの?)
こんなもののために生まれたんじゃない
2人の叫びにも聞こえ、この曲しか考えられませんでした。
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