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『十角館の殺人』あらすじと感想【これを読まずして本格ミステリは語れない】

『十角館の殺人』あらすじと感想【これを読まずして本格ミステリは語れない】

奇妙な死を遂げた建築家が建てた館で起こる連続殺人事件。

「新・本格ミステリ」の火付け役となった綾辻行人の驚愕のデビュー作。

これを読まずして、ミステリ好きとは決して言えない。

こんな人におすすめ!

  • 本格ミステリ初心者
  • とにかくミステリが好きな人
  • トリックであっと言わされたい人

あらすじ・内容紹介

K※※大学推理小説(ミステリ)研究会。

メンバーである、ポウ、カー、エラリイ、アガサ、オルツィ、ルルウ、ヴァンの7人は、角島(つのじま)への合宿に向かった。

角島は、半年前に青屋敷と呼ばれる自宅で建築家・中村青司(なかむら せいじ)が妻と共に焼死した島だ。

そこには彼が建てた「十角館」と呼ばれる変わった建物があり、7人はそこで1週間寝泊まりし、交流を深めるつもりだった。

角島は漁船も通らない孤島で、外への連絡手段はない。

楽しく過ごすはずだった研究会の面々は、1人のメンバーの死によって疑心暗鬼に陥っていく。

1人、また1人と殺されていく仲間たち。

折しも、本土では中村青司の名で奇妙な手紙が研究会の元メンバーの江南(かわみなみ)や現メンバーの守須(もりす)に届いていた。

はたして連続殺人鬼は研究会メンバーの中にいるのか?

中村青司と名乗る人物からの手紙は何を意味するのか?

あなたは必ずや犯人と結末に驚愕するだろう。

『十角館の殺人』の感想・特徴(ネタバレなし)

日本の新本格ミステリを語ろう

あなたは「本格ミステリ」というジャンルをご存知だろうか。

 

海外で言えば、アガサ・クリスティーディンクス・カーなどが長編の本格ミステリ、アーサー・コナン・ドイルチェスタトンが短編の本格ミステリの黄金時代を築いた。

日本では江戸川乱歩がイギリスの本格ミステリに触発されて作品を書き、戦後は横溝正史が本格ものの長編を書き始めた。

 

一時期、本格ミステリものへの読者の関心は薄れるものの、1970年代から80年代にかけて横溝正史がブームとなり、角川文庫もそれを強力に後押しした。

日本の本格ミステリ作家といえば、横溝正史、鮎川哲也、都筑道夫、泡坂妻夫、島田荘司、連城三紀彦などがまず挙げられる。

綾辻行人はその中でも、新本格ミステリムーブメントを起こした重要な作家である。

本格ミステリが廃れなかったのは、この人がいたからと言っても過言ではない。

なので、本格ミステリを語る上では綾辻行人は外せない人物なのである。

そして、「本格ミステリが好き」と言いたいのならば、綾辻行人の『十角館の殺人』を読まずしてそれを名乗ることはできない。

 

昨今のミステリ小説界に多大なる影響を与えた本作は、のちに出て来るミステリ作家たちの手本となったにちがいない。

恥ずかしながら私がこれを読んだのは5年ほど前で、最近と言ってもおかしくない。

その前からミステリ好きを名乗ってはいたけれど、この本ほど私の体に雷を落としたミステリ小説はないだろう。

始めに言っておきたい。

決して、読む前にパラパラとページをめくらないこと。

とくに402ページは読む前に絶対に見てはいけない。

「禁止されると見たくなる」というのが人間の心理だけれど、この本を存分に楽しみたいのなら、見たら必ず後悔する。

断言してもいい。

見ない?絶対に見ない?

よし、次へ進もう。

犯人の動機について想像する

プロローグはとある人物(「彼」)の復讐への誓いや独白で始まる。

彼はすでに復讐の権化と化しており、だれも止めることができない。

緻密な計画のもと、復讐を遂行すべく準備を進めていた。

彼はなぜ、復讐しようと思ったのか。

それは読み進めていけば分かる。

動機自体はさほど珍しいものではなく、私が読んできたミステリの中でも「割とこの動機ってあるよな」と思う。

けれど、彼が復讐しようと決意し、それを実行に移した行動の原動力がはたして復讐だけだったのか……。

例えば、人は悔しい思いをさせられたときに見返してやりたいと思うはず。

彼を復讐へと駆り立てたのが、元の動機の中に研究会のメンバーへの憎しみがもともとあり、きっかけがあって爆発したと考えれば。

いや、そんなことはどこにも書かれてはいないのだけど、あまりにも復讐の理由が短絡過ぎてさらなる伏線があるのではないかと疑ってしまう。

 

人間は1人では生きていけなくて、支えを失ってしまうとあっけなく壊れてしまう。

私だって家族を失ったら、愛猫たちを失ったら、なんて考えたくもない。

犯人である彼は、大切な人のために復讐に走るのだけど、それだけ(と、言ったら彼に怒られるかな?)の理由で彼はあんな大がかりな復讐をするだろうか。

短絡的は言いすぎたかもしれないけれど、あそこまでの大仕掛けをして復讐を遂げようと思ったのだ。

研究会のメンバーとの活動に、絶対に何かしらの確執があってもおかしくないと勘ぐってしまう。

 

これは大学生たちが主要な登場人物なのだけれど、大学生って特別な学生時代だと思うのだ。

お酒が飲める飲めない、タバコが吸える吸えないの年齢が混在し、高校生以上に自由が許されている。

高校生だって「いじめ」があるというのに、大学生になってさらに色々なところから来た様々なタイプの人間と関わることになる。

何もないはずが、ない。

復讐の末に何が残る?

古今東西、さまざまなミステリで復讐による殺人が行われる。

もちろん、理由もさまざま。

騙されたとか、親の仇だとか、復讐を考えたことがない人間には想像もつかない理由で復讐をする犯人たち。

じゃあ、復讐をしたあとは?

例えば、勉強で負けて「次はあいつよりもいい順位を取ってやる!」と思って、次のテストで勝ったとする。

それはすごく気持ちがいいと思う(これは復讐じゃなくて、見返すというのだけど)。

じゃあ、復讐をしたあとは?

復讐って気持ちがいいものなのだろうか。

復讐を遂げたあとはどんな気持ちになるのだろうか。

 

私は中学時代、一度だけいじめにあったことがある。

特定の相手に私の名札をビリビリに破かれたり、ロッカーに画びょうが入っていたり、給食に消しカスが入っていたりしたことがあった。

復讐が気持ちのいいものだったら、私はいじめた相手に復讐をしていた。

教師に相談する前に、私はいじめてきていた彼女に同じことをしていただろう。

でも私はそうしなかった。

そんなことをしても、気持ちのいいものじゃないと知っているからだ。

 

本書の「彼」もエピローグで言っている。

胸の中に詰まっていたものがすべて抜け落ちてしまったような、何かしら底なしの虚無感に苛まれた

復讐ってたぶん、すごく虚しいことなのだ。

いじめにあった私は結局、教師に報告することでケリをつけた。

彼は復讐以外の方法で本懐を遂げることはできなかったのだろうか。

復讐は果たすことはできた。

彼は目的を遂げることができた。

でも彼に残ったものって、何だったのだろうか。

彼は復讐を遂げて、幸せになったのだろうか。

だれかのために復讐をしたあと、その「だれか」は幸せなのだろうか。

もちろん、本格ミステリとして、とても考え抜かれた緻密な仕掛けを備えた完璧と言ってもいい小説だと思う。

けれど私は、復讐へと走ってしまった彼のこと考えると、すごく切ない気持ちになる。

まとめ

私がこの本を読み、犯人を知り、トリックを知り、すべてがわかったときには、ただ口をあんぐりと開けるしかなかった。

何もかもが新鮮で、何もかもに驚くしかないこのミステリ。

これが新本格ミステリというジャンル?

「あぁ、ミステリ小説の未来ってこんなにも明るいんだ!」と希望を持った。

ブームが去った?

新しいトリックはもう生まれない?

笑止!

この本を読んだあなたは既にミステリ小説の沼へと片足を突っ込んだも同然。

次から次へと生まれるミステリたちを、これからも愛していこうじゃないか。

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