Hello,world(ハロー・ワールド)。
何だか奇妙な言葉だと思いませんか。
直訳すると、「こんにちは、世界」。
「全ての世界のはじまり」という意味です。
Hello Worldとは、画面に「Hello, World!」と出力するだけの機能を持つ、簡単なプログラムである。
多くのプログラミング言語入門書がこのプログラムを最初の例として挙げているため、多くの初心者がこのプログラムを最初に書くことになる。-ニコニコ大百科(仮)
世界の真ん中で繰り広げられる、虚構のサバイバルへようこそ。
今回取り上げるHELLO WORLDは、映画化にもなった、SF青春ファンタジーです。
※主題歌がOfficial髭男dism他に決まりました(7月中旬現在)。
おめでとうございます。
目次
あらすじ・内容紹介
主人公、堅書直実(かたがきなおみ)は地味な男子生徒です。
読書が趣味で、冴えない学校生活を送っていました。
ある日、直美は足が三本あるカラス(八咫烏)に本を奪われてしまいます。
鳥居をくぐると、そこにはフードを被った見知らぬ男がいました。
彼はカタガキナオミ、10年後の直実その人でした。
過去の世界の住人である直美と、初恋の相手の運命を変えに来たと話すナオミ。
ふたりの『ナオミ』の、奇妙な特訓が始まります。
HELLO WORLDの感想(ネタバレ)
カタガキナオミの目的
10年後の直実(ここでは暫定的に、ナオミとします)の目的は、
- 過去の直実に彼女を作ること
- 無尽蔵の記憶媒体、『アルタラ』を書き換え(記録の改ざん)、彼女(一行瑠璃(いちぎょう・るり))を救うため
です。
その為に彼は、直実にカラスが変化した青い手袋ー『神の手(グッド・デザイン)』を授けます。
直実に自分のことを「先生」と呼ばせ、神の手を使って錬金術を教えるのです。
(これ以降、ナオミを「先生」と呼ぶことにします。)
「神の手は、記録世界アルタラのデータに直接アクセスする。そして、世界そのものを書き換える」
直実の成長
引っ込み思案で、女性ともうまく付き合えなかった直実ですが、先生との出会いによって次第に変わっていきます。
十五年分の哲学が、強く自分を縛っていた。それは簡単に変えられるものじゃない。
中学生まであらゆることから逃げ続けてきた自分が、高校に入った瞬間、急に戦えるようになるはずもない。
でも。
それを変えたいと思って本を買ったのも、同じ自分だった。
この神の手と、未来が書かれたノート(通称「最強マニュアル」)によって、彼は一行瑠璃と、守る力を手に入れるのです。
一行瑠璃の性格
一行瑠璃は氷の塊のように、ひたすら硬く、冷たい。-p142
彼女を一言でいうと「氷の女王」。
凍てつくようなまなざしを人に向ける、非常にクールな女性です。
勘解由小路三鈴(かでのこうじ・みすず)と比べると、その冷酷さが際立って見えます。
彼女と直実は、どちらかと言えば正反対のように見えますが、「本が好き」という点では同じです。(瑠璃は冒険小説、直実はSFがそれぞれ好きです。)
先生の力を借りてとはいえ、直実は次第に瑠璃と仲が良くなっていきます。
運命の分岐点「古本市」が、彼女の人生を、ひいては直実の人生を大きく左右するのですが、この小説の最大のネタバレといってもおかしくないのでこの辺で留めておきます。
「セカイ系」を越えた、圧倒的な感動
「大切なのは、想像する力(イマジネーション)だ」ーp129
十年後のナオミ(先生)は、現在高校生の直実に、想像力の重大性を根気強く教えます。
前半、先生が直実と交わしたある約束が、ラストシーンに深くかかわってきます。
後半は予測を超えた展開なので、息をつく暇もないかもしれません。
特に「先生」の言動に注目してみてください。
おまけ:この物語は、京都が舞台です
京都が舞台というだけあって、京都の地名が数多く出てきます。
四ツ辻、鴨川運河沿い、竹田街道、四条烏丸。
京都市南図書館(実在する図書館です)、大垣書店の京都本店、四条店(こちらも実在する書店です)といった実在の地名が、作品にリアリティをもたらしています。
直実と瑠璃の人生を変える出来事となった「宇治川花火大会」(2017年に廃止されました)も、実際に存在した花火大会です。
大垣書店は近畿地方に展開している書店チェーンで、京都府下を中心に三十数店舗が存在する。
京都に住んでいれば馴染み深い書店で、逆に全国チェーンでないと知った時に直実は驚いた。-p14
まとめ
先生と直実は、無事に瑠璃を奪還することが出来たのでしょうか。
その秘密を探るためにも、文字通り「反転する」世界についてきてください。
そのときあなたが見るのは、圧倒的な感動と、未知の体験でしょう。
身体が小さな粒になって、世界と自分の境界が曖昧になった。
身体の中を、力が、物が、人が、濁流のように通り過ぎてゆく。
その流れの果てで。
僕は。-p257
主題歌:RADWIMPS/有心論
今回の主題歌は、RADWIMPSの有心論です。
Mr.Childrenの桜井さんも、Bank Bandでカバーしています。(綺麗に『泣くから』のキーが違うなど、オリジナルと若干差があります。)
元ネタとなった言葉は「有神論」。
『神は存在する』という主張のことを指します。
世界観に一番合う楽曲は何かと考えた結果、この選曲になりました。
『するとね君は いつでもここに 来てくれたのに もうここにいない』-(作詞:野田洋次郎)
忽然と姿を消した、瑠璃を追う「僕」。
過去と現在の「ナオミ」が繋がった時に起こる奇跡を、想像しながら聴いてみてください。
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