皆さんは、物語って、どうやって生まれると思いますか?
パッとストーリーが浮かんだから?自分の好きなものを書きたいから?
なにか素敵なものを見て、感銘を受けたから?
書きたいという気持ちにあわせて、色んな情報をとにかく集めてそこから生み出す?
多分きっと人それぞれ、色んな答えが頭の中に生まれている事でしょう。
私自身、曲がりになりにも小説を書いている面のある人間なのですが、作品作品によって生まれ方は異なる為、きっとこの質問に答えはないのではないか、と思っています。
では同じような質問で、恋って、どうやって生まれると思いますか?
多分これもまた、人によって答えは違うのでしょう。
一目ぼれなんて方もいれば、ドラマチックな出会いから生まれた方、そういうのは一切ないけど気がついたら好きになってた――、他にもいっぱいありそう。
きっと、物語も恋も、世の中に存在している数だけ様々な答えがあるんだと思います。
今回は、そんな風に様々な答えが溢れる世界の中で、ちょっと風変わりな生まれ方をした、そして全く別々の出会い方で恋に落ちた人達のお話が詰まった、ほのぼのとしてきゅんとする、そんな小説の紹介をさせて頂こうと思います。
目次
あらすじ・内容紹介
今回私が紹介する作品はこちらの一冊です。
『ぼくらのきせき ほのぼのログ』
著者/藤谷燈子 原案&イラスト/深町なか
「あれ? 著者とは別に、原案者がいるの? しかも、イラストも担当してるの? どういうこと?」と思った方。
それこそ、この本が生まれた経緯に関わる、とても重要な部分なのです。
実はこの本、『絵』から出来た物語なのです。
原案者『深町なか(ふかまちなか)』さんの本業は、イラストレーター。
酷くシンプルな色合いと線で描かれるのは、ほのぼのとした日常風景。
そこにいるのは、恋人同士の男女や、夫婦、そして子供と一緒に過ごす家族の姿など、周囲を見渡せばきっとどこにでもいる、そんなキャラクター達の穏やかな姿です。
この本が発行された当時の帯には『Twitterフォロワー数45万人の大人気イラストレーター』という文字が書いてありましたが、現時点では65万超えと、さらにそこから20万もの人数が増えており、今も昔も変わる事無くその人気を誇り続けています。
そんな深町さんのイラストをモチーフに生まれたこの小説の文章を書くのは、ライターである『藤谷燈子(ふじたにとうこ)』さん。
少女漫画のノベライズや、乙女ゲームにドラマCDなどといったものの脚本を担当したりと、女性向け作品の制作を多くなさっているライターさんです。
実は私、著者様に関してはこの小説で初めてその文章に触れさせて頂いた為、他ではどのような描き方をなさっている方なのか、申し訳がない事にわかっておりません。
ですが、読ませて頂いた印象としましては、ひどく『やわらかな文章』で、親しみやすかったです。
説明は簡潔的に済まされているけれど、単純に簡単に済ませているわけではなく、いかに短い言葉で読者の負担にならずに、わかりやすく伝えられるか、というような空気をご勝手ながら感じさせて頂きました。
では次は、そんな穏やかで優しさに包まれたような二人の、けれど住まう世界は全く違う二ジャンルの作家様達によって生まれたこの小説、その中身に迫って行こうと思います。
ほのぼのログの感想(ネタバレ)
作品内容~四つの季節の軌跡、めぐるは四つの同じ世界の恋の話~
この話に出てくるのは、全部で四組のカップル達。
そのどれもが、元は深町さんのイラストとしてこの世に生まれ、Twitterなどの様々な場所でファンに愛されてきたカップル達です。
そのカップル達それぞれの話をする為、この作品は、全四話構成の短編集という形で発行されました。
第一話『遅桜』
仕事人間で感情表現が苦手な『千春(ちはる)』と、感情が豊かないつもニコニコなデザイナー『瑛太(えいた)』の話。
第二話『夏銀河』
東京の大学に通う為上京した恋人『結衣(ゆい)』と、地元に残り保育士を目指している『春樹(はるき)』の話。
第三話『秋の灯(ひ)』
バイヤーを目指し、雑貨屋で働くちょっとドジな『綾乃(あやの)』と、撮影会社で働いている穏やかで物静かな『直弥(なおや)』の話。
第四話『冬日和』
受験生だけど、恋にも一直線な『沙織(さおり)』と、彼女の家庭教師を務める事になった『京介(きょうすけ)』の話。
どの話も、別々に完結した一つの話で作られてあり、登場人物達同士が知り合いだとか、そういう描写も一切ありません。
でもその代わり、ストーリーの終わりと始まりにバトンタッチをするかのように、ほんの些細なやり方で前の話の主人公達が、次の話の主人公達が交差するシーンが描かれます。
たとえば、第一話では、話の終わりに千春と瑛太が動物園に行く事になるのですが、そこには第二話で登場する結衣と春樹も、チラリと一瞬だけ登場します。
動物園に興奮する結衣と春樹が、笑いながら話している様を、第一話の主人公である千春が『かわいいカップルだ』『大学生ぐらいかな』と、そんなぼんやりとした感想を抱きながらすれ違っていきます。
二話以降も、すれ違いの仕方は様々ですが、そのようなほんの些細な交差が行われる形で、次の話へ移り変わります。
それはまるで、徐々に移り変わって行く季節のように、正しくその各話のタイトルを体現したかのような、そんな描き方。
そして同時に、全く違う話、全く関わり合いのないカップル達、けれど世界は同じで、その頭上を繋ぐ空も同じ世界の空なのだと、そう語られているように見えませんか?
世の中にはたくさんの恋人達がいて、私達自身の知らない恋人達もいる。
私達にとっては、他人事の世界かもしれないけれど、でも一緒の世界にいるんだ――、そんな当たり前の事に気づいて、なんだかほっこりと、心がまた一つ穏やかなものになっていくような感覚がしてしまうのです。
ここが魅力! ~胸をしめるつけるのは、きゅんとする思いだけじゃない!~
さて、もしかしたら気が付いた方がいるかもしれませんが、実は私、ここまでの文章の中で、この小説の事を『恋愛小説』だとは一ミリも言わないままに来ています。
『恋人達の話』、と私は書きましたが、『恋愛小説』とは言っていません。
それはなぜか――、文字通り、これが『恋人達の話』だからです。
実はこの小説。綴られるのは、恋人達の恋路ばかりではなく、恋人達それぞれが抱える悩みも描いてる小説だったりします。
たとえば、第一話の千春と瑛太。
千春は、仕事人間で感情表現が苦手な自分に、コンプレックスのような悩みを抱えています。
仕事は性に合うのだけど、それ故仕事のしすぎで会社には『時間の使い方を見直すように』とストップをかけられてしまったり、感情表現が苦手なせいで対人関係を気づくのが苦手で、すぐに他者との距離を取りたがる――、そしてそんな自分に嫌気も覚えている。
本編の中では、何度も千春が『素直になれれば』『こんな自分可愛くない』などと言ったような、後悔や自分を卑下する描写が描かれています。
瑛太の方も、天真爛漫に感情を表に出すわりには、どこか千春とは一線を引いたような距離感がある――。
千春自身は対人関係をきずくのが苦手なので、その距離をありがたいと感じている面もあるのですが、明るい彼がそのような行動をとるのには、当然ながらそれなりの理由があるわけです。
そしてその理由が、彼自身が抱える悩みと、そこから生まれたある恐怖の存在だったりします。
他の話も皆、自分の進路だったり、仕事の事だったり、やはりその性格だったり――……、そういった人としての悩みを抱えながら、そこにそれぞれの恋路に関わる問題とぶつかっていくさまが描かれています。
その姿もまた、どこか自分の日常の中にありえそうな悩みばかりで、ぎゅっと胸がしめつけられるような感覚がしてしまいます。
けれどその誰もが皆、隣にいる相手のおかげでその悩みを少しずつ解いて行くのです。
隣で笑う相手の存在に鼓舞されたり、その笑顔を暗くさせない為だったり、ただお話をしたいという些細な恋の願いを叶える為だったり――、本当に言葉にすると『それだけ』という事で、彼らは皆、自分自身の悩みと向き合っていくのです。
誰かを思う事で、強くなれる。
自分の為に、と強欲になってしまう事もあるけれど、でもその気持ちの中にあるのはいつだって、『あなた』の存在。
『あなた』の為になることが、自分の為になる。
そしてその『あなた』もまた、その視点からすれば『あなた』にあたる相手の為にしたい事が『自分』の為になっている――。
それこそ、巡り続ける季節のように、ぐるぐると『あなた』と『あなた』の思いがずっと巡り続けているのです。
まとめ
正直な事を申しますと、私は恋愛小説をあまり読みません。
理由としては、『恋』だの『愛』だのと書かれる本が苦手、というのがあります。
少女漫画も読む事には読むのですが、あまり眩しく恋愛の話ばかりされていると、目が潰れてしまいます。
なので、読むにしても恋愛がメインじゃないものを選ぶ事が非常に多いです。
けれど、深町なかさんのイラストは、ただ『恋』や『愛』を描くのではなく、人としてもっと『大事にしたいこと』を描いている――そんな印象を、初めて見た時に感じたのです。
中心にあるものを言葉で表現するなら、『恋』や『愛』なのでしょうが、けれどそれだけでは表現しきれない、表現しきってしまうのがなんだかもったいなくなる、そんな溢れるばかりの気持ちと穏やかさを感じたのです。
実はこの『ほのぼのログ』、小説とは別にポストカード集だったり、イラスト集だったりと、別の形での書籍化したりもしています。
そちらは深町先生がセレクトなさった画集な為、この小説のカップル達が絶対にいるというわけではないのですが、そちらの画集につけられた帯にはこんな言葉が書いてありました。
『幸せ』という言葉から何を連想しますか?
(深町なか 画集Ⅱ ほのぼのログ ~大切なきみと~ の帯より引用)
『恋』でも『愛』でもない、『幸せ』という言葉。
それが目に入った時、そうか、これは『幸せ』を描いてるんだ、と自己解釈ですが、そんな風に思いました。
『幸せ』の形って人それぞれで、答えもそれぞれだと思います。
恋愛が絶対の幸せ、とは多分言い切れないとも。
でも、この深町さんの描く世界の人物達は、その『幸せ』の先に誰かがいた――、そしてその誰かと過ごす日々が、彼らにとっての『幸せ』の形だったのでしょう。
柄にもなく、恋っていいな、と思ってしまったそんな一冊でした。
主題歌:TOKOTOKO/君色に染まる
TOKOTOKO(西沢さんP)
『君色に染まる』です。
楽曲制作者である、TOKOTOKOさんのブログによりますと、『跳ね系のリズム』な楽曲。
確かに、出だしのメロディーを言葉にすると『タン! タタン! タンタンタタン!』と跳ねているような音に聴こえてきます。
まるで、好きな人に会いに行く時に、わくわくと期待で満ちて鼓動が跳ね上がってしまっているような、そんなリズムです。
けど歌詞の内容は、そんなリズムとは違い、ちょっと後ろ向きな感じのあるもの。
たとえば、この跳ねるようなメロディーの後に続く出だしはこんな歌詞。
期待してすぐに諦めて
曖昧な答えに流されては
自分だけ置いて行かれるような
そんなイメージが胸をつつく夜だ
明るいメロディーで始まったのに、歌詞の内容が薄暗い。
初めて聴いた時、おぉ? と思わず動揺してしまったのを覚えています。
でも恋って多分、楽しいだけのものじゃない。
好きだからこそ、不安だって湧いてしまうものの筈。
その感覚は多分、恋じゃなくてもある事だと思います。
たとえば、好きで追いかけている夢がある。
けど、好きだけでは時折どうしようもない壁にぶつかってしまう――。
そんな事ってあったりしませんか?
でも、それだけじゃないから好きで居続けられるのも事実。
この楽曲も、暗めな歌詞から始まりますが、それでも最後に向かう程に少しずつ前に向いて行くものになっていきます。
そして最後の最後に繰り返されるのは、ただこの一言。
好きだよって伝えたい
不安にもなるけど、最後に残るのはこの気持ちだけ。
それが前を向ける理由になる。
そのさまが、この小説の登場人物達の姿と被り、この曲を選びました。
オマケのお話で、この楽曲、実は『小説』を基にして生まれた楽曲だったりします。
TOKOTOKO(西沢さんP)という名前から察した方もいるかもしれませんが、実はこの方、ボーカロイドこと、略してボカロを用いて楽曲を制作している、ボカロPさんです。
元々この方が作った全く別の曲が存在しており、その曲を基に生まれた『ボカロ小説』があり、その小説を読んだTOKOTOKOさんが、それを基にして新しく生み出した曲なのです。
この生まれ方もまた、『絵』から生まれたというちょっと風変わりな生まれ方をしたこの本に、とても似合っている――、そんな風に思ってしまいません?
尚、こちらの楽曲、ボカロが苦手という方には、YouTube、またはニコニコ動画にて、製作者ご本人様の声によるセルフカバー動画があがっておりますので、そちらをどうぞ。
歌い手さんといった方々のカバーもたくさんあるので、色んな歌い方を聴いて、その人ならではの『君色に染まる』の形を楽しむのも面白いですよ。
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