〈森野夜(もりの よる)〉が拾った手帳には、女性が拐われ、山奥で切り刻まれていく過程が記されていた。
この記録が本物であれば、最初の犠牲者はまだ山奥に打ち捨てられているはずだ。
森野から手帳を見せられた〈僕〉は、彼女と共に最初の被害者〈水口ナナミ(みずぐち〜)〉の死体を探しに、手帳に記された山奥へと向かう…。
陰惨な事件を通して、人間の残酷な面を覗きたがる若者達の物語。
こんな人におすすめ!
- ミステリが好きな人
- 残酷な物語が好きな人
- 殺人描写を楽しみたい人
あらすじ・内容紹介
【夜の章】
〈森野夜〉が拾った1冊の手帳。
そこには、女性が拐われ、殺害されていく様子が克明に記されていた。
この手帳が話題の連続殺人鬼のものであれば、最初の被害者〈水口ナナミ〉の死体は、まだ山奥に打ち捨てられているはずだ。
森野夜から手帳を見せられた〈僕〉は、彼女と共に水口ナナミの死体を探しに出かける…(暗黒系)。
その他、夜な夜な繰り広げられる決闘を描いた〈犬〉と、森野夜のルーツを辿る〈記憶〉の3篇を収録。
【僕の章】
この世には殺す側の人間と、殺される側の人間がいる。
自分は前者だ。
そう自覚する〈僕〉は、本性を隠して教室で明るく振る舞う。
しかしある時、その本性は森野夜に見抜かれる。
〈その笑顔の作り方を私にも教えてくれない?〉という彼女の言葉により、少しずつ交流を重ねる森野夜と〈僕〉。
同時期、彼らの住む街では無差別に腕を切り落とす、〈リストカット事件〉と呼ばれる事件が頻発しており…。
その他、欲望のままに残虐な行為を繰り返す男を描いた〈土〉と、死者からのメッセージを描いた〈声〉の3篇を収録。
【番外編 森野は記念写真を撮りに行くの巻】
暗黒的な事象に惹かれる少女、森野夜。
彼女は、7年前に少女が遺棄された雑木林に同じポーズで横たわり、悪趣味な記念撮影をしようとしていた。
そこで出会ったのが、7年前の事件の犯人だとも知らずにシャッターを押してほしいと依頼した、彼女の運命は…?
〈リストカット事件〉の番外編。
『GOTH番外編 森野は記念写真を撮りに行くの巻』の感想・特徴(ネタバレなし)
殺人鬼が溢れる街
事件はすぐに全国を騒がせた
今作の舞台となる街には数多くの異常者・犯罪者・殺人鬼が闊歩しており、至る所で異様な光景が広がっている。
女性を殺害し、その様子を丹念に手帳に書き記す殺人鬼。
夜な夜な繰り広げられる、野生動物の決闘。
自殺のフリをし、大人を困らせることを喜びとする姉妹。
手首の魅力に取り憑かれ、凡ゆる者の手首を切って集める犯罪者。
人を埋めることに、甘い喜びを覚える異常者。
彼らの行動は倫理観に囚われない(もしくは、倫理観を押し除けるほどの快感に身を任せた)ものであり、理解の範疇からは超えるかもしれない。
しかしそれ故に、彼らの行動には目を離せなくなる〈力〉のようなものがある。
読者を選ぶ作品ではあるが、ハマる人にはハマるので、まずは一度読んでみてほしい。
淡々と綴られる、残酷な行為の数々
生まれたときからこの悪い夢は運命づけられていたのかもしれない。
上記の犯罪者達による犯罪の様子もまた今作の見所だろう。
具体的な方法の説明は避けるが、どの傷害、もしくは殺人の描写も淡々と、しかし詳細に綴られており、読む者にその様子を克明に想像させる。
読者によってはトラウマになるレベルの状況が繰り広げられるので、注意しながら読んで欲しい(事実、筆者は10代の頃に読んでから、しばらく夢に見た)。
更に、犯行を行なっている間の犯人達の心情も丁寧に描かれている。
常人には理解できないその内面描写からも、是非目を逸らさずに読んでほしい。
そして、〈森野夜〉と〈僕〉がその犯人達を追う様子からも目が離せない。
やたらと犯罪者とニアミスし、その犯罪者に執着されることの多い森野は、見ていて非常に危なっかしい。
そして、その森野の近くで、彼女に気を払う〈僕〉の目的とは?
2人の行動からも目が離せない。
読者をも騙す、見事な描写
こんばんは***君
更に今作には、【夜の章】と【僕の章】のそれぞれに読者をも騙す、とある仕掛けが施されている。
それぞれの章で、【夜の章】では〈森野夜〉、【僕の章】の〈僕〉の描写に、若干の違和感を覚えるようになっている(違和感を顕著に感じるため、個人的に【夜の章】→【僕の章】の順番で読むことをおすすめする)。
その違和感の正体は、それぞれの最後の章で明かされるので、殺人描写が大丈夫な人であれば是非とも最後まで読み切ってほしい。
きっと読みきったのちに、気持ちよく騙された感覚を楽しむことができるだろう。
まとめ
異常な犯罪者の内面や、それを知りたがる若者達の心情を描いた今作は、その淡々とした空気感と異常な事件の数々から、読者を選ぶ作品であることは間違いない。
しかし、犯行の様子を鮮明に想像できるその描写力と、犯人の心情描写の丁寧さから、〈ハマる人にはハマる〉作品であることもまた、確実だ。
合うか合わないかは、一度だけでも軽く読んでみて、それから確かめてみてほしい。
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