あと2日で、4人死ぬ。
不吉な予言と共に、〈魔眼の匣〉と呼ばれる施設に閉じ込められた男女9人。
予言を成就させんが如く、次々に起こる奇怪な現象は、事故か、事件か。
『屍人荘の殺人』で鮮烈なデビューを果たした著者・今村昌弘氏が魅せる、ミステリの新境地!
こんな人におすすめ!
- 自分で謎を解きたい人
- 特殊設定ミステリが好きな人
- 『屍人荘の殺人』を読了した人
あらすじ・内容紹介
婆可安湖での事件から数ヶ月後。
神紅大学に通う大学生の〈葉村譲(はむら ゆずる)〉は、ミステリ愛好会会長を務める傍ら、美少女探偵として有名な同大学の学生〈剣崎比留子(けんざき ひるこ)〉の助手として〈婆可安湖集団感染テロ事件〉と、その首謀者と思われる〈斑目機関〉の真相を追っていた。
そして辿り着いた、新しい情報。
それは機関がかつて、〈魔眼の匣〉と呼ばれる施設で超能力者の研究が行っていた、というものだった。
真偽を確かめるために施設を訪れた剣崎と葉村を待つのは、引き寄せられるように集まった6人の男女と、〈絶対に予言が当たる〉とされる老女、〈サキミ〉であった…。
『屍人荘の殺人』で鮮烈なデビューを果たした今村昌弘が描く、新たな推理劇が始まる!
『魔眼の匣の殺人』の感想・特徴(ネタバレなし)
親切仕様・フェアさは健在!
サバの照り焼きこそが本格推理だ。
今作の著者、今村昌弘氏が鮮烈なデビューを果たした処女作『屍人荘の殺人』は、特殊設定ミステリとしてミステリファンを唸らせるものでありながら、ミステリにあまり触れてこなかった読者にも読み易い親切設計だった。
その仕様は、今作でも引き続き継続されている。
文体は平易で、キャラクターは個性的。
葉村と剣崎のやりとりは軽妙で、ちょっとしたユーモアも数多く盛り込まれているため、気負うことなくスムーズに読み進められる。
加えて、今作の探偵を務める剣崎比留子が助手の葉村譲に説明するという体で、剣崎と葉村を除いた残りの7人の登場キャラクターの名前と特徴を解説してくれる。
これにより、多人数が登場するミステリに有りがちな〈誰が誰だか分からない問題〉を解決してくれる。
また、提示される謎も非常に魅力的だ。
いかにもミステリ的な殺人事件と、事故としか思えない状況での死人。
更にそこに、〈絶対に予言が当たる〉とされるサキミの予言が加わることで、凡ゆる謎がより謎めいていく不思議な感覚を味わえるだろう。
また、今回のトリックも前作に負けず劣らず、練りに練られた端正なものである。
全てのヒントは作中で提示されており、特殊な設定に惑うことなく理知的に推理を進めていけば、読者にも真相が解き明かせるという非常にフェアな作品だ。
謎解きの楽しさ、著者との知恵比べを存分に満喫できること請負だ。
〈斑目機関〉の謎に迫る!
−機関
前作『屍人荘の殺人』から登場しており、物語に大きな影響を与えながらも、本筋の事件へと関わることはなかった謎の組織〈斑目機関〉。
多くの犠牲者を出した〈婆可安湖集団感染テロ事件〉の黒幕であるこの組織に対し、今作では剣崎比留子と葉村譲が積極的に関わろうとする。
そして今作の舞台となるのは、かつてその〈斑目機関〉が予知能力の研究を行っていた『魔眼の匣』と呼ばれる施設だ。
更に作中には、組織の研究員であった人物のレポートも登場し、過去の〈斑目機関〉の実態が描写される。
異様な技術力を持ったこの組織の謎が、かつて組織の施設であった〈魔眼の匣〉にて少しずつ明らかにされる様子は、前作から読み進めてきた読者に興奮を与えてくれるだろう。
また今作に少しだけ姿を表す、剣崎の〈協力者〉。
前作から引き続き、物語の始まりを告げる〈報告書〉を作成している彼が、物語に関わるのか否かは、シリーズを通した注目ポイントになる可能性もある。
物語の隅々に至るまで、決して目が離せない作品だ。
かつてない動機!
真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ
ミステリを読み進めてきた読者には釈迦に説法ではあろうが、その上で敢えて語らせていただきたい。
ミステリにおいて重要な3つの要素に、〈フーダニット〉〈ファイダニット〉〈ハウダニット〉がある。
それぞれ、〈誰が〉〈何故〉〈どうやって〉事件を起こしたか、という内容なのだが、この中で1番軽視されがちなのが〈ファイダニット(何故)〉の部分、即ち〈動機〉ではないだろうか。
実際、ミステリを読み続けていると、トリックと犯人さえ当ててしまえば、動機は犯人が自ずから語り出す作品は殊の外多い。
しかし今作では、予め〈動機〉が提示されている。
更には、提示された動機こそが推理において重要な役割を持つという構造は、特殊な設定と端正な謎を掛け合わせた今作ならでは。
きっと〈動機〉の重要さを感じてもらえることだろう。
まとめ
『屍人荘の殺人』で鮮烈なデビューを果たした著者・今村昌弘氏の第2作目である今作は、舞台設定の派手さこそ前作より大人しくなっている。
しかしその完成度は、前作で高まった期待に見事に応えてくれる筈だ。
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