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『東京百景』あらすじと感想【東京でもがき苦しむ又吉のエッセイ】

『東京百景』あらすじと感想【東京でもがき苦しむ又吉のエッセイ】

本書の帯に鮮烈な言葉が記してある。

ドブの底を這うような日々を送っていた

期待と、少しの不安を抱えて上京した当時18歳の又吉直樹の目に映った東京とは……。

こんな人におすすめ!

  • 派手な文体が苦手な人
  • 夢も希望も嘘だと思っている人
  • 一定のテンションの文章が読みたい人

あらすじ・内容紹介

お笑い芸人になる夢を抱き、1999年、又吉直樹(またよし なおき)は18歳のときに上京した。

しかし、バイトの面接には落ち続け、顔色が悪く「死神のような顔」をした彼は、さまざまなことで上手くいかなかった。

彼の目の前に広がる果てしない「東京」。

だれもが夢を抱き、一度は訪れてみたいと思う日本の首都。

本書は、そんな東京でもがき苦しむ又吉直樹のリアルな心情をつづったエッセイだ。

吉本興業の養成所へ入所してから、コンビ結成と解散。

今の相方である綾部祐二(あやべ ゆうじ)との出会いがあり、「ピース」という新たなコンビを結成。

文才に恵まれた彼が文章を書き始め、『火花』で芥川賞を受賞し、相方が「ニューヨークへ行く」というまでの、あふれんばかりの心の内が書かれている。

『東京百景』の感想・特徴(ネタバレなし)

夢を抱く者が訪れる東京

この本を読むと、ズタボロになってまで東京で夢を叶える必要ってあるだろうか、と思ってしまう。

「俺は東京でビッグになって帰ってくる!」というお決まりのセリフが浮かぶ中、「故郷に錦を飾る」という言葉の虚しさを感じる。

私の知る東京は、自分の夢も他人の夢も飲み込んでいく巨大な化け物だった。

又吉さんもきっと飲み込まれてしまっただろうに、彼はそこから逃げることなく、飲み込まれてしまった夢が消化される前に救い出した。

だからきっと「ピース」が生まれたのだと思う。

 

私は東京が怖い。

中学生のときに、修学旅行で東京を訪れた。

人も建物も、何もかも量が多く、小さな私は自分がちっぽけに見えた。

「ここでは暮らしていけない」

正直にそう思った。

帰宅して、周りが田んぼと畑だらけの故郷がとても愛おしく思えた。

地方にいるというだけで差別的な扱いを受けるときがあるけれど、たしかに私の住むところは周りに大きなビルはないし、田舎のコンビニは駐車場がとても広い。

そういう部分に「地方」と「都会」の差を感じるけれど、だからどうだって思っていた。

 

例えばなにか将来への夢を抱いたとき、私は「東京へ行かないとその夢は叶わない」なんて思わない。

とてもいい時代になって、インターネットという武器がある現代で、特定の場所へ行かなくても仕事はできるし、メールで事足りることがほとんどだったりする。

それなのに、どうして夢を抱く者は東京へと行きたがるのだろう。

地方というものは、どうしてそこまで限界を感じさせてしまうのだろう。

 

東京はまた1人、また1人とだれかの夢を飲み込んで大きくなっていく。

いつか「ピース」というコンビがなくなって、又吉さんの読者だった私が死んでも、東京はブラックホールのようになっていくのだろう。

東京という場所の広大さに腰を抜かす

又吉さんの書く東京は、文になる風景が多すぎる。

風景過剰だ。

きっとどこを歩いても「書けてしまう」場所がありすぎるのだ。

例えば「三鷹禅林寺」という部分。

偶然にも、そこは僕が三鷹に引っ越した初日に歩いて桜を見に来たお墓だった。それが太宰のお墓がある禅林寺だった

歩いていたら、たまたま文豪のお墓にぶち当たる。

それが東京というものだと知った私。

 

私の住む県は、おそらく東京よりも面積が大きい。

そのわりに、観光地ではないので観光できる場所はとても限定的だ。

交通の便も東京に比べると雲泥の差だし、便利か不便かと訊かれれば、口ごもってしまうのでバツが悪い。

けれど、私は自分の故郷の「なんにもない部分」をとても愛している。

屁理屈をこねているわけではなく、ほんとうになんにもないところがいいのだ。

 

私の住む県よりも圧倒的に小さい県なのに、どうしてこんなにも東京は筆が走るところなのだろう。

東京はやっぱり心底怖いと思っているけれど、私も文豪のお墓に「偶然」に「ぶち当たって」、こんな粋な文章が書きたいと思った。

風景の中に、文章が点在しているっていいものだな思うと同時に、私の住む県より小さい東京の果ての無い広大さに腰を抜かしたのである。

芸人は個性が爆発してなんぼ?

僕にとって『個性』とは余分にある邪魔なものを隠して調節するものであり、少ないものを絞り出したり、無いものを捏造することではなかった。無理して個性的なふりをしている奴等を見ると虫酢が走った。

これは又吉さんの芸人論な気がする。

個性がなければ、芸人なんてきっと売れない。

私はサンドウィッチマンと四千頭身が大好きなのだけど、それは彼らが唯一無二の「個性」を持った芸人で、それを私という視聴者がその「個性」を認められるから好きでいられるのだ。

 

「個性的だね」は今、褒め言葉になっているけれど、一昔前は人を貶める言葉だった。

つまり、出る杭は打たれるの「出る杭」に向けられる言葉。

横並びで、触れば滑らかな、出っ張りがないものを推奨してきた世の中は変わり、「個性的だね」は褒め言葉になった。

けれどそれは呪縛の始まりでもあったのだ。

なにごとに置いても「個性」が求められる世の中になった今、又吉さんの上記の言葉を世の中に投げたい。

まとめ

この本が読みやすいか?と訊かれれば正直に言って読みにくい。

暗い話が多いし、「上京したけれどうまくいかない」というよくあるパターンにも感じるかもしれない。

それでも読んでしまうのはじゃあなぜ?と考えてみれば、彼のうまくいかない人生はだれしもあり得ることで、場所も、年齢も、性別もちがう私のうまくいかない部分を代弁してくれている気がしたのだ。

順風満帆な人生なんてない。

必ずどこかで壁にぶつかる。

それでも前に進もうとする私たちに、勇気を与えてくれる1冊である。

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