写真家でもある星野道夫さんのエッセイ。
本書は、著者がこちらに語りかけるかのように旅をした記録が綴られている。
1冊を通してたくさんの自然に触れるような感覚を追体験することができる。
こんな人におすすめ!
- 現実逃避したい人
- 大自然が好きな人
- 旅行に行きたい人
- 人生の深い意味について考えたい人
あらすじ・内容紹介
著者が実際に旅をして体験し、感じた言葉が日記のように綴られている。
1つの地域ごとにそれらの体験が数ページずつ書かれている。
アラスカでの大自然の厳しさ、インディアンやエスキモーとの出会い、文化や歴史についても触れられており、自然と人と文化について1冊を通して考えさせられる内容となっている。
著者が何故アラスカに魅せられ永住を決めたのか。
撮影をするときどれだけ危険だったのか。
また、どれだけ幸せな気持ちで仕事に取り組んでいたのかが伝わってくる。
たくさんの登場人物に気がつけば愛着がわいているくらい親しみをもって読み進めていくことが出来る内容となっている。
また、大自然の中で生きることを決めた著者の死生観を感じることが出来る。
『旅をする木』の感想・特徴(ネタバレなし)
自然と人
人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう
冒頭のこの文章から、著者の人柄が伝わってくるようである。
著者は写真家としては、自然の描写を感じる感覚、それを見る心を写真に記録し伝え、残したかったのではないだろうか。
本書ではそれと同じくらい人との出会いや別れについて書かれており、ひとつひとつの出会い、交わす言葉、それを記憶し大切にしている心が、自然も人もどちらも好きだったことが伝わってくる。
さまざまな集落を訪れる様子は、自分では簡単に体験できない世界を体験させてくれる。
人と文化でいうと、
人びとの声に耳を傾けていると、極北の原野に生きるグッチン・インディアンが抱えている問題が、そのままそっくり私たちの問題であることに驚かされます。ひとことで言えば、それは新しい時代への不安です。その不安とは彼らをとりまく自然環境に対してであり、また彼ら自身の心の中へ向けられています。近代化とのはざまで価値観が多様化し、何を心のよりどころとしていいかわからないという声も多く聞きました。
現地の人と実際に生活し、仲良くなることでしか見えてこない深い部分に触れているが、自分たちと同じような不安を抱えていることに、少し安堵感を覚えた。
この辺りは、自然の中で人がどう生きていくか、永遠のテーマなのかもしれない。
厳しい自然の中での血の通った人とのやり取りがとてもあたたかく感じた。
生と死
著者が何故アラスカに行くことを決めたのかは、さまざまなきっかけや偶然が重なってのことだが、とても大きな出来事のひとつに親友の死があると書かれている。
かけがえのない者の死は、多くの場合、残された者にあるパワーを与えてゆく
大自然の中で生きるということは私にはその感覚は体験してみないと分からないが、生と死を常に意識するのではないかと思う。
死が、人にパワーを与えていくのはなんとも切なく、やりきれない気持ちになるが、それが残されたものの生命力として変わるならその死は報われていくのではないかと感じた。
親友の死をきっかけに著者の死生観がどのように作られていったのか辿ることで、読者もまた、自分が有限の命であることを思い出すのではないだろうか。
狩りをすること、その命に祈りや感謝の気持ちを持つことを読んだとき、自分もまたたくさんの生命に生かされていることに気づく。
大自然の中で生きる人々は、常に生き抜くことを考えて生活している。
私たちはそれを忘れかけているような気がした。
時間の流れ
著者は日本に戻ってきた時の感覚と、アラスカにいた時の感覚を、違う時間の流れがあるというように書いている。
「東京にいても、今アラスカではクジラが泳いでいる」
この感覚が、人の心を軽くするという話で、想像力を掻き立てられた。
大自然の中は、都会とは全く違う時間が流れている。
本書のタイトルにもなっている、「旅をする木」の章でも書かれているが、時間とは、私たちが普段見ている時計やカレンダーだけではなく、もっと大きな流れのように感じた。
「旅をする木」の章では、これが生きることと死ぬことなのだろうと感じる物語りが書かれているので是非読んでもらいたい。
まとめ
自然が好きで、人ごみの中から離れたい気持ちもあるのに、自然と同じくらい人のことも好きだったのだろうと思わせる著者の優しい文章は、アラスカの自然のように大きく読む人の心を受け止めてくれる気がした。
本が好きな方は、是非「海流」という章を読んでほしい。
読書家だった著者が訪れた海外の古本屋が出てくるので楽しめるだろう。
自然の記録を残したいと写真を撮る姿と、人との出会いを残すために筆を執る姿、どちらも、感じたものを残しておきたいという優しさが伝わってくる作品となっている。
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