90年代のとある夏、双葉山でキャンプを開催した「TCメンバーズ」の一行は、覚醒した殺人鬼によって次々と惨殺されていく。
血が舞い肉が散る、惨憺たる夜が幕を開ける!
そして、この惨劇の夜に仕掛けられた巧みな罠を、貴方は見抜けるか!?
こんな人におすすめ!
- 犯人当てをしたい人
- グロ描写が大丈夫な人
- ストレスが溜まっている人
- なんだかイライラしている人
あらすじ・内容紹介
とある資格を持つ者だけが参加できるサークル「TCメンバーズ」の会員、洲藤(すとう)、千歳(ちとせ)、磯部(いそべ)夫妻、沖本(おきもと)、麻宮(まみや)、大八木(おおやぎ)、茜(あかね)たちは、殺人鬼伝説が残る「魔の山」、双葉山での合宿を開催した。
各々の期待、好奇心、不安、欲望が渦巻く中で始まる合宿の夜。
浮かれた空気に入り混じり、殺人鬼は覚醒する。
彼の目的はただ1つ、他者をより残酷な方法で殺すこと。
そして彼の狂気は、浮かれた「TCメンバーズ」の面々に向かう。
始まる血の宴。
腹を裂き、腸を捻じ切り、目を抉り、凡そ想像もできない恐怖と苦痛が参加者を襲う戦慄のジャッロホラー。
生き残れるのはたった2人。
しかし、この光景に惑わされてはいけない。
鮮やかに舞う血と肉の影には、作者による緻密な罠が隠されているのだ!
『殺人鬼―覚醒篇』の感想・特徴(ネタバレなし)
殺して殺して、殺しまくる!
どこかで誰かが自分を呼んだ。――そんな気がした。
本作の特徴は、なんといっても趣向を凝らした殺人描写。
ホラー映画の定番に則り、身体を重ね合わせた男女から犠牲になる。
情欲を煽る濡れ場から、一気に串刺しにされる2人。
快楽から一気に苦痛へと追いやられ、思考が纏まらなくなった混乱の描写は、圧巻の一言。
最初の犠牲者で殺人鬼の異常性をこれでもかと知らしめ、恐怖を煽る。
濡れ場の巧みさと恐怖描写から、まるで読者も被害者と一体になったかのような恐怖感を味わえるのではないだろうか。
そして次々と増えていく犠牲者。
抵抗も虚しく、ある者は腕を切り落とされて頭蓋を割られ、ある者は逆さ吊りにされて腹を裂かれた挙句、はみ出た自らの腸を食わされる。
延々と続く拷問描写は読者を幻惑し、読む人によっては、まるで酔っているかのような恍惚感すら得られるのではないかと感じる。
ハイペースで殺人が進み、凡ゆる殺人に拘った趣向が凝らされているので、サクサクと読み進めることができる。
しかし最後まで読んだ時には、それすらも著者の企みではないかと邪推してしまう。
それ程までに、よく仕掛けられた罠なのだ。
極悪非道、残酷無比
やめてくれ、やめてくれやめてくれやめてくれっ!
殺人鬼には良心も、対話の余地も存在しない。
思考こそ存在しているが、ただ可能な限り残酷に殺すためだけに存在している、理解不能な存在として描かれている。
そして、反撃を物ともしない。
作中でも登場人物たちが様々な抵抗や反撃を試みるが、偶に動きを止めることはあれど、殺人を止めることは叶わない。
本当に人間か否かも怪しい程にすぐに回復し、異常な怪力で殺しにくるため、登場人物たちに残された選択肢は、怯えて逃げるだけ。
絶対的な強さを持った完全な異形として描かれているからこそ、決死の抵抗が次々に破れていく絶望という、モンスターホラー的な恐怖が味わえる。
そして、絶対的な恐怖が存在しているからこそ、誰かを守るためにそれに抗おうとする人間の在り方が、際立って輝いて見えるのではないかと思う。
違和感へのヒント(ヒントなしで読みたい人は飛ばしてください)
「読者よ、欺かるるなかれ」
趣向を凝らした殺人描写や、悪趣味とも言える拷問描写。
圧倒的な恐怖と、それに立ち向かう勇気。
物語として、小説としての完成度の裏には、かなり序盤から著者の罠が張り巡らされている。
著者の罠に挑み、そしてそれを解き明かしたいと思うのであれば、読者は「凡ゆる描写」を全て読み込む必要があるだろう。
無粋を承知で敢えてヒントを挙げるとすれば、登場人物の名前や会話、身体的特徴、拷問や殺人における身体の欠損、そしてとある、「あえて伏せられた名前の由来」。
意味ありげな描写にはやはり意味があり、ヒントは最初の数ページから全編を通して隠されている。
要所要所で覚える描写への違和感を放置せず、その理由について考えを進めていけば、きっと仕掛けられた罠に気付くことができるのではないだろうか。
ただし、ヒントは巧妙に隠されている。
ストーリーの進行だけに気を取られてしまえば、その時点で罠に嵌っているかもしれない。注意深く読んでみて欲しい。
そして、最後まで気付けなかった読者であっても、最後の「種明かし」で明かされる罠の正体に驚く、という大きな楽しみが残っている。
まとめ
殺人鬼が残虐な方法で殺人を繰り返す。
そんなシンプルな小説に施された緻密な罠は、著者の茶目っ気や遊び心の産物であろう。
しかし、各描写をしっかりと読み込めば、解決編の前に気付けるレベルでヒントを出しておきながら、それを目立たせず読者を殺人描写に釘付けに出来るのは偏に筆者の筆力によるものだ。
そして、全てを把握した上で改めて読むと、そこに潜ませた大量のヒントに釘付けになる。
2通りの楽しみ方ができる、極めて上質なジャッロホラーではないだろうか。
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