奇矯な実業家、〈火照陽之助(ひでり ようのすけ)〉が築き上げた核シェルター。
その取材に赴いた面々の中には、ホラーミステリ作家の〈三津田信三(みつだ しんぞう)〉の姿があった。
あまりにも堅牢な作りの、かつ実用的な核シェルターの様子に驚く面々だったが、取材の最中で突如空に謎の光が弾けたことで、一同は核シェルターの中へ避難する。
しかし、その終末は物語の始まりでしかなかった。
限られた人間しかいない筈のシェルター内で起こる、連続殺人事件。
壁一枚を挟んで死体がある恐怖。
逃れられない閉塞感。
異様な状況での殺人事件には、いかなる動機が潜んでいるのか。
犯人は何者なのか。
そして、世界は本当に終わってしまったのか。
かつてない極限状況の中での事件を描く、メタ・ミステリーの異色作。
こんな人におすすめ!
- 心理小説が好きな人
- 三津田信三氏のファン
- ミステリー小説が好きな人
- メタフィクションが好きな人
あらすじ・内容紹介
奇矯な実業家、〈火照陽之助〉が自らの資産を投じ建造した、巨大な〈核シェルター〉。
テレビの取材などは一切受け付けないが、〈出版関係者〉であれば比較的容易に取材が可能という話を耳にしたホラーミステリ作家の〈三津田信三〉は、小説の構想を練るため、〈核シェルター〉に赴く。
そこに待っていたのは、同様の目的を持った個性豊かな面々と、東京の地下に広がる広大な〈核シェルター〉であった。
そのシェルターの取材の最中、突如として降り注ぐ謎の光。
慌てて避難した核シェルターの中に避難できたのは、三津田を含めた6人。
人文学系の書籍を扱う出版社で編集者をしている、温和な雰囲気の年配の男性、〈仙道賢人(せんどう けんと)〉。
市立病院の看護師をしている、面倒見の良い女性〈母堂育子(ぼどう いくこ)〉。
月刊誌の編集を務める人の良さそうな30代の男性、〈画家かなお(おもや かなお)〉。
書籍の装丁を手掛けるデザイン事務所のデザイナー、〈明日香聖子(あすか せいこ)〉。
個人で編集プロダクションを作ったフリーの編集者で、生意気そうな若者の〈星影企画(ほしかげ きかく)〉。
突然の事態に共同生活を余儀なくされた彼らは、協力して苦境を乗り切ろうとする。
しかし、突如起こり始める連続殺人事件が、それを許さなかった。
極限状況で起こる殺人事件の、犯人の目的とは何か。
そして、世界は本当に終わってしまったのか。
かつてない結末を迎える、メタ・ミステリー!
『シェルター 終末の殺人』の感想・特徴(ネタバレなし)
極限の閉塞空間で起こる、連続殺人事件
今作の1番の特徴は、なんと言っても状況の〈特殊性〉に有るだろう。
事件の舞台となる現場が〈核シェルター〉の内部である。
密室と言えば、これ以上ない程に密室であろう。
そして〈核シェルター〉とは、地上が安全になるまで籠もっていなければならないものであり、当然〈居住〉することを念頭に置かれて作られている。
今作に登場する火照邸の〈核シェルター〉は、複数人が居住することが可能な広大なものであり、それ故に部屋数も豊富だ。
そのため、内部で起こる密室殺人は全て〈二重の密室〉となり、謎に拍車をかけていく。
異様な極限状況と、かつてない規模の広大な〈密室〉に詰め込まれた謎を、存分に味わえる作品だ。
合間に挟まれる、映画談義
それにしても、凄いと思わん?
これは著者・三津田信三氏の作品全般における大きな特徴であるが、作中で都度挟まれる雑学もまた、今作の魅力をさらに掻き立ててくれる。
特に今作でクローズアップされるのは、数々の映画作品だ。
『サスペリア』や『インフェルノ』といった傑作ホラーを数多く生み出した名監督〈ダリオ・アルジェント〉の解説から始まる、イタリアンホラーの紹介や、マカロニウエスタンとイタリアンホラーの類似性、ミステリ小説を映画化することの難しさと、それを克服する〈テン・リトル・インディアン〉型のミステリの構造など、その内容の豊富さは圧巻だ。
また、映画談義の中では簡単なあらすじの紹介と共に、数々の映画の名前が挙げられる。
全て巧みにネタバレを回避しつつ、其々の作品を非常に魅力的に紹介してくれており、新たに好みの作品を見つける〈出会いの場〉としても機能する作品だ。
今作に興味を示す読者は、即ち類型の作品へもある程度の興味を持てる人物だろう。
ひょっとしたら視聴済みの作品も挙げられているかも知れないが、挙げられている作品の総数が膨大なため、きっとまだ見ぬ作品と出会うこともできるはずだ。
是非とも、気になる作品を探しつつ読んでみて欲しいところ。
かつてない真相と結末
そして今作の最後に用意された、すべての謎の解。
ここからは何を語ってもネタバレになってしまうため、具体的な言及の一切を避けるが、今作の最後に示される事実は、ミステリの中でもかつてない結末を導く。
〈二重の密室〉という、如何にも王道の謎を多々提示しながらも、その全てを豪快にひっくり返す今作の作風は、賛否両論あるだろう。
しかし、空前絶後の推理と真実は、丁寧に読み解けば決してアンフェアなものではなく、ヒントは常に作中に提示されている。
是非とも、本当の真実を推理しながら読んでみて欲しい作品だ。
まとめ
世界の終末かのような、異様な極限状況と、ミステリの王道的な〈二重の密室〉。
そして全てをひっくり返す衝撃的な結末と、状況が二転三転する今作。
当然ながら、著者・三津田信三氏による様々な雑学も挟まり、非常に読み応えのある作品だ。
結末には賛否両論あるかもしれないが、先ずは手に取って読んでみて欲しい。
少なくとも、その最後には必ず驚愕する筈だ。
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