とある資産家が、曰くのある4つの〈家〉を融合させて作った究極の幽霊屋敷〈烏合邸(うごうてい)〉。
そこに立ち入ることになった、訳ありの人々。
彼らに襲い掛かる、恐怖の正体とは?
メタホラーの名手・三津田信三氏が描く、新たなる〈家〉の恐怖!
こんな人におすすめ!
- メタ作品が好きな人
- ホラー小説が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
編集者・〈三間坂秋蔵(みまさか しゅうぞう)〉と作家の〈三津田信三(みつだ しんぞう)〉は、横浜の某所にあるビアバーで乾杯をしていた。
〈家〉を扱ったホラー小説『どこの家にも怖いものはいる』の刊行を祝うその席で、三間坂は新たな〈幽霊屋敷〉の話を語る。
謂く、〈複数の曰く付き物件を融合させた家〉。
三間坂は、資産家〈八真嶺(やまみね)〉が生み出した、〈烏合邸〉なるその幽霊屋敷に関わる資料が、実家の蔵から見つかったと語る。
そして、それと呼応するように三間坂の実家に現れた〈洋梨のような女〉。
タイミングの良さに底知れぬ不気味さを感じる三間坂と三津田の下に、〈烏合邸〉に住むことになった、あるいは立ち入ることになった者たちの恐怖の体験談が続々と集まってくる。
〈黒い部屋〉〈白い屋敷〉〈赤い医院〉〈青い邸宅〉と名付けられた、それぞれの屋敷で起こった過去の事件とは?
更に、事件の謎を追ううちに〈洋梨のような女〉の影が、三間坂と三津田の周辺にも現れ始め…。
果たして、三間坂と三津田は〈幽霊屋敷〉に秘められた謎を解き、自らの身を守ることができるのだろうか?
メタホラーの名手・三津田信三氏が描く、新たなる恐怖の〈幽霊屋敷〉!
『わざと忌み家を建てて棲む』の感想・特徴(ネタバレなし)
新たなる〈幽霊屋敷〉の恐怖
幽霊屋敷って、その1軒だけで充分に怖いですよね。それが複数ある場合は、どうなんでしょう?
今作の〈幽霊屋敷〉は、前作『どこの家にも怖いものはいる』に登場した〈幽霊屋敷〉と同等か、それ以上の存在感を放つ。
何せ、4つの〈曰く付き物件〉を融合させた幽霊屋敷だ。
(筆者の頭の悪さが露呈するような計算ではあるが)怖さも4倍のはずである。
しかし、その恐ろしさは4倍では留まらない。
融合の末に産み出されたその幽霊屋敷〈烏合邸〉は、〈曰く付き物件を融合させる〉というその行為によるものか、更なる怪異を呼び起こす。
果たして、〈烏合邸〉が産み出した怪異の、その正体とは?
そして、〈烏合邸〉を作り上げた資産家、〈八真嶺〉の目的とは?
迫りくる怪異を振り払うために謎に挑む、三津田と三間坂の活躍からは目が離せない。
また『どこの家にも怖いものはいる』と同様、今作でも4つの曰く付き物件に住むことになった、もしくは立ち入ることになったそれぞれの人物の記録が描かれる。
4つの幽霊屋敷に足を踏み入れたのは、それぞれ〈シングルマザー〉〈作家志望の青年〉〈建築科の女子大生〉〈超常現象の研究家〉とバラエティーに富んでいる。
それぞれが経験した恐怖の質も異なっており、三津田と三間坂に迫る恐怖も加えれば1冊で5つの怪談が楽しめる作品となっている。
色とりどりの恐怖を、是非とも楽しんで欲しい。
怪談談義も健在
いやいや怪奇好きなら、あれには痺れるよ
今作でももちろん、三津田と三間坂の怪談談義が挟まれる。
怪談に明るい三津田信三氏による怪談論は、怪談が好きな読者であれば必見だろう、
また、その中には実在する、もしくは実在した屋敷や呪術に関する雑学が盛り込まれているほか、ヘンリー・ジェームスの『ねじの回転』やシャーリー・ジャクスンの『丘の屋敷』など、多数のホラー作品、怪談作品に関しても言及している。
作中で名前が挙がる作品もまた、ホラー作品の傑作達なので、未読のものがあれば是非とも手にとってみて欲しい。
あくまで三津田と三間坂の雑談や、怪異を解釈する過程での会話として描かれているため詳細な分析や研究といったところまで掘り下げられることは少ない。
しかし著者の豊富な知識量からくるこれらの描写には、ずっと聴いていたくなる(読んでいたくなる)ような魅力が詰まっている。
〈幽霊屋敷〉の怪談に辿り着きたいという焦りを抑えて、じっくりと味わってほしい。
この裏話は、虚構か現実か
本書で取り扱った〈家〉について、どんな情報でも結構ですので(特に図面や写真や映像など)お持ちの方は、中央公論新社の編集部までご連絡をいただければ幸いです。
メタホラーである今作の語り部、〈三津田〉は、著者である三津田信三氏ご本人だ。
よって、要所要所で氏の別作品に関連する裏話なども挟まれる。
〈シェルター 終末の殺人〉の改稿に触れていたり、〈幽女の如き怨むもの〉のゲラに関する話があったり、短編〈屍と寝るな〉の執筆背景だったりが挟まれている。
三津田信三氏のファンにとってはたまらない、これらの〈裏話〉的な要素は、著者の執筆活動の裏側を知れるだけでなく、物語全体に真実味を持たせる働きもある。
ただしメタホラーという性質上、これらの情報がすべてノンフィクションであるとは限らない。
全くのフィクションである可能性もあるし、怪異を含めたすべてが事実の可能性もある。
それは、読み終えた読者自身が決めれば良いことだろう。
まとめ
三津田信三氏の描く、新たな〈幽霊屋敷〉の恐怖。
〈4つの曰く付き物件を融合させる〉という、狂気をも感じるその〈幽霊屋敷〉は、かつてない恐ろしさを見せつけてくれるだろう。
更に、語り部が三津田信三氏ご本人であることで、その恐ろしさは現実味を持って、我々読者にも襲いかかってくる。
現実に浸食してくる〈烏合邸〉の恐怖を、存分に味わってもらいたい。
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