安全な食肉が、人肉のみとなってしまった日本。
食用としてクローン人間を生産する〈プラナリアセンター〉に勤める〈柴田和志(しばた かずし)〉の仕事は、顧客の元に届くクローン人間の首を切り落とすこと。
しかしある日、首無しの状態で出荷したはずのクローン人間の商品ケースから生首が発見される。
そしてそれは、その後に続くとある事件の幕開けを告げていた…。
常識外れの異様な世界で展開される、ロジカル極まる推理劇を描いた、横溝賞最大の問題作!
こんな人におすすめ!
- SF小説が好きな人
- ぶっ飛んだ作品が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
新型コロナウイルスの感染拡大により、様々な動物がコロナウイルスに感染してしまった結果、肉食を拒むようになった日本。
偏食による栄養の偏りは国民から健康を奪い、国内での大きな懸念事項となっていた。
ウイルスに対するワクチンは出来たものの、その効果の対象はヒトに限り、食肉の安全性は確保できない。
深刻化する食料問題への解決策として生み出された〈プラナリアセンター〉では、日々安全な食肉を食卓に届ける為、食用のクローン人間を生産していた。
そこに勤める〈柴田和志〉の仕事は、顧客に届く前のクローン人間の首を切り落とすこと。
これにより、顧客は〈安全な首無し死体〉を安心して食すことができる…筈だった。
ある日、顧客の元に出荷したクローン人間の商品ケースの中から、切り落としたはずの生首が発見される。
それを皮切りに、柴田の身の回りで起こる不可解な事件の数々。
ついに死人まで出るに至った事件に伴い、彼の前に現れる謎の人物、〈由島三紀男(ゆしまみきお)〉と、聡明な風俗嬢の〈河内ゐのり(こうち〜)〉。
そして、柴田が密かに育てていた自らのクローン、〈チャー坊〉と、大物政治家の〈冨士山博巳(ふじやま ひろみ)〉もまた、不穏な動きを見せ始める。
各々の視点が重り噛み合うとき、異形の世界は更なる混沌を見せ始める。
異様な世界で繰り広げられる、ロジカルな推理劇を描いた、横溝賞最大の問題作!
『人間の顔は食べづらい』の感想・特徴(ネタバレなし)
説得力を持った〈異形の世界〉
お客さんに届くのは『首なし死体』ってわけ
今作の大きな特徴は、世界観の異様さにあるだろう。
作中で描かれる、安全な食肉が人間のみとなってしまったが故、富裕層は自らのクローン人間を食することが当たり前となった社会は、現代社会に生きる読者にとってあまりに非倫理的で、荒唐無稽にも映る。
しかし、その背景に〈新型コロナウイルスの感染拡大〉を置き、〈肉食が不可能となったが為に不健康になる人々〉の存在を描くことで、この〈異形の世界〉に見事に説得力を与えている(今の世の中で〈新型コロナウイルス〉が関わる作品をお勧めすることには、不謹慎の謗りを免れないかもしれないが、そういった〈倫理的〉な読者はそもそも本書を手に取らない気もするので、そこはどうか御勘弁)。
唯一無二の異様な世界観を、存分に味わって欲しい。
謎が謎を呼ぶ群像劇
残念ですがわたしは犯人ではありません
更に、その〈異形の世界〉で起こる事件の数々からも目が離せない。
政治家〈冨士山博巳〉の元に届いた生首に始まり、容疑者に完全なアリバイがある殺人事件、そして柴田に掛けられる殺人容疑。
徐々に激化していく事件が、柴田を起点とした複数人の視点から描かれていく。
どれが誰の視点か、まで語ってしまうと大きなネタバレになってしまうため詳細は伏せるが、作中で描かれ続ける〈異形の世界〉と、各登場人物の語り口への違和感を無視せずに読み進めていけば、推理への大きな助けにもなるフェアな設計だ。
更に、複数人の視点から描かれるという特性上、様々な視点から作品世界が掘り下げられるため、作中の人々がこの〈異形の世界〉に対して肯定的に捉えているか、否定的に捉えているかといった点も詳しく語られていく。
複数人視点の物語という特性を見事に活かし切った構成の妙を、しっかりと味わって欲しい。
展開される、ロジカルな推理
これで全ての疑問点を、説明してみせやした
そして、これ程までに異様な世界設定を持ちながら、そこで描かれる推理劇がロジカル極まるものであることも、今作の完成度を大きく押し上げている。
前述した〈登場人物の語り口の違和感〉や〈異形の世界〉という世界設定を含め、ヒントは全て作中で提示されており、丁寧に読み進めていけばキチンと真相を見抜けるようになっている。
しかし、作中で描かれる推理は常に二転三転を繰り返し、読者を幻惑する。
作者の仕掛けた様々な罠に惑わされることなく、是非とも推理に挑みながら読み進めてみて欲しい。
まとめ
クローン人間を食すことが当然となった〈異形の世界〉で起こる事件を描いた今作。
あまりにも異様な世界設定でありながら、その世界の必然性はかなりの説得力を持っており、更にそこで繰り広げられる推理劇は非常にロジカル。
ヒントは全て作中で提示されるというフェアな設計の、見事な推理小説となっている。
異様な世界設定に惑わされることなく、是非とも推理をしながら読んでみて欲しい作品だ。
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