『ハサミ男』原作小説あらすじと感想【殺人鬼が殺人を調査する、叙述トリックの名作!】

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2003年、東京。

女子高生2人が、同様の手口で殺害される事件が起こる。

共通するのは、被害者の喉に深々と突き刺さった〈ハサミ〉。

独特の手口から、マスコミは犯人を〈ハサミ男〉と名付ける。

連続猟奇殺人犯〈ハサミ男〉の犯罪は世間を震撼させ、警察は威信をかけて確保のために捜査を進める。

一方で、3人目の犠牲者を探す〈ハサミ男〉。

ターゲットに定めたのは、才色兼備の高校2年生・〈樽宮由紀子(たるみや ゆきこ)〉。

次なる殺人のためターゲットの周辺を下調べする〈ハサミ男〉はある日、その調査の最中で殺害された樽宮由紀子の死体を発見することとなる。

その死体の喉元には、深々と刺さった〈ハサミ〉。

自らの手口を真似された〈ハサミ男〉は、〈医師〉の勧めに従って樽宮由紀子殺害事件の真犯人を探し始める…。

1999年に発表されメフィスト賞を受賞。

〈このミステリーがすごい!〉にもノミネートされた、見事な叙述トリックで魅せる特殊ミステリー小説!

こんな人におすすめ!

  • 猟奇犯罪モノが好きな人
  • ミステリー小説が好きな人
  • 特殊設定ミステリーが好きな人
  • 叙述トリックを用いた作品を読みたい人

あらすじ・内容紹介

2003年の東京を騒がせる、連続殺人時件。

女子高生2人が同様の手口で殺害されるという事件は、世間を恐怖に叩き落とす。

被害者の死体の喉元に深々と〈ハサミ〉が刺さっていたことから、マスコミは犯人を〈ハサミ男〉と呼称。

そして、遂に起こった3件目の女子高生殺害事件。

目黒西署刑事課の刑事・〈磯部龍彦(いそべ かつひこ)〉は、警視庁科学捜査研究所から出向してきた犯罪心理分析官・〈堀之内靖治(ほりのうち やすはる)〉から相棒として任命され、警察の威信を賭けた捜査にあたる。

一方、これまでに2人の女子高生を殺めた〈ハサミ男〉は、3人目のターゲットを品定めしていた。

不幸にも〈ハサミ男〉に目を付けられたのは、私立葉桜学園高等学校に通う高校2年生の少女・〈樽宮由紀子〉。

〈ハサミ男〉は、殺害のための下調べとして徹底的に彼女の周辺を洗い出す。

彼女の周辺を調べ上げ、ついに犯行に及ぼうとしていた〈ハサミ男〉はしかし、既に殺害された樽宮由紀子の死体を発見したことにより、計画の中止を余儀なくされる。

更に死体の首元には、深々と刺さった〈ハサミ〉が。

自らの犯行の手口を真似された〈ハサミ男〉は、何度も面談を重ねている〈医師〉の勧めによって、真犯人を探すための調査を始める…。

警察と〈ハサミ男〉が同時に追い続ける、〈3件目の真犯人〉とは何者なのか。

そして、真の〈ハサミ男〉の正体とは?

巧みな叙述トリックで魅せる、特殊ミステリー小説の傑作‼︎

『ハサミ男』の感想・特徴(ネタバレなし)

〈ハサミ男〉が偽〈ハサミ男〉を追う、特殊な物語構成

わたしが興味を持っているのは、ハサミ男のことたった

今作は、女子高生連続殺人事件の犯人である〈ハサミ男〉が、自らの手口を真似てターゲットを横取りした偽物の〈ハサミ男〉を追うという、少々特殊な推理小説となっている(殺人犯が探偵役を務める最も有名な例は、〈ハンニバル・レクター博士〉だろうか)。

週末になると自殺未遂を頻発し、その度に〈医師〉と面談するこの〈ハサミ男〉は、自ら〈太っているけど美味しいものが我慢できない〉と語るなど、愛嬌のある人物の様にも思える。

しかし、その手口は残忍だ。

丹念に研ぐことでアイスピックのようになったハサミを、被害者の喉に突き刺すという殺害方法は、絵面を想像するだけで喉元が落ち着かなくなってくる。

加えて、面識もない〈樽宮由紀子〉を次の標的を決定した後に、彼女の周辺を調査する様子には、偏執狂的な側面も垣間見える。

そんな、ミステリー小説に登場する〈殺人犯〉としては抜群に魅力的な〈ハサミ男〉が更に〈探偵〉の役割も果たすのだから面白い。

〈ハサミ男〉が〈偽ハサミ男〉を追う中で、〈真犯人だからこそ知っている情報〉を駆使して推理と調査をしていく様子は、この特殊な設定の小説だからこそ描けるものだろう。

是非とも、この〈殺人犯/探偵〉による特徴的な推理と調査の様子を、存分に楽しんでほしい。

警察による、地道な捜査

子供殺しは好きじゃない

当然ながら、偽〈ハサミ男〉による殺人事件を調査するのは、〈ハサミ男〉だけではない。

警察も、全力を挙げて捜査に取り組んでいる。

当然ながら警察は、3件目の殺人事件が偽〈ハサミ男〉によるものなどとは知る由も無い。

しかし、地道な聞き込みと捜査によって徐々に事件の真相に近づいていく彼らの活躍もまた、今作を構成する大きな要因だ。

中々尻尾を出さない〈ハサミ男〉に翻弄されつつも、次の被害者を出さないために必死に捜査を進める刑事たち。

そんな中でも特にフィーチャーされているのが、〈磯部龍彦〉巡査だ。

目黒西署刑事課の刑事である彼は、警視庁科学捜査研究所から出向してきた犯罪心理分析官・〈上堀内靖治〉のパートナーに任命される。

〈ハサミ男〉のプロファイリングの為にやってきた上堀内に命じられ、手足となって働く磯部。

そんな彼を主軸に描かれる警察の捜査の様子には名探偵の活躍のような華々しさは無く、ともすれば泥臭くも映るかもしれない。

しかし、聞き込みや張り込みといった地道な捜査を重ね、容疑者を絞り込み、事件を解決せんとする彼らの気迫には、鬼気迫るものがある。

きっと読んでいるうちに、捜査を進める刑事たちの様子に夢中になっている筈だ。

2度読んで楽しめる、見事なまでの叙述トリック

ああいう男は逆に扱いやすいんだ

そして、今作の最も大きな特徴。

それは、作中に張り巡らされた巧みな描写による〈叙述トリック〉に有るだろう。

ご存知の方が殆どだと思うが、〈叙述トリック〉がどんなものかを軽く解説させて頂く。

一般的に〈叙述トリック〉とは、読者の先入観や思い込みを利用し、特定の事象を伏せたり事実の描写を曖昧にしたりなどの技巧を施した文章によって読者の意識を誘導し事実を誤認させる手法のことを指す。

それ故に、〈叙述トリック〉が施された作品は、〈叙述トリック〉を用いた作品であると言うだけでも、大きなネタバレとなる。

しかし今作は、既に多くの読者に読まれており、ネットで検索を掛ければ〈叙述トリック〉を用いた作品の代表的なものとして候補に挙がる。

加えて、前情報が有っても真実を見抜くことは難しいほど、その描写が巧みであることから、敢えてこの場で〈特徴〉として挙げさせて頂いた。

それ程までに、今作に仕掛けられた〈叙述トリック〉は見事なのである。

そして、当然ながらその描写は徹底的にフェアであり、注意深く全てを疑って読んでいけば、全ての真相を見抜くことも不可能では無い。

非常に難しいことではあるが、読者側は3件目の殺人事件が偽〈ハサミ男〉の仕業であることを知っている分、作中の警察よりも情報的に有利である。

是非とも、著者に挑むような気持ちで推理しながら読んでみてほしい。

真相を見抜けた場合は爽快感を、見抜けなかった場合は〈騙される〉という楽しさを、どちらの場合でもきっと楽しめるだろう。

また、〈叙述トリック〉を用いた作品のもう1つの楽しみは、〈全ての真相を知った〉上で、再読することである。

読了後、改めて各描写を丹念に読み、見つけられなかったヒントを見つけるのも、また粋な楽しみ方ではないだろうか。

まとめ

連続殺人犯〈ハサミ男〉が、自らの手口を真似てターゲットを横取りした偽〈ハサミ男〉を追うという、特殊な状況を描いた今作。

連続殺人犯による推理という、特徴的な要素に溢れた今作は、〈ハサミ男〉と警察による地道な捜査の様子が描かれており、その描写は非常に淡々としている。

しかしその実、多くの場面に様々な伏線が張られており、すべてが読者を騙す〈叙述トリック〉のための、見事な仕掛けとなっている。

是非とも、推理をしながら読んでみて欲しい。

推理が当たっていたとしても外れていたとしても、それぞれ異なる爽快感を得られる筈だ。

そして1度読了した後は、作中に仕組まれた様々な伏線を探しながら読む、という楽しみも残っている。

1冊で2度楽しめる、非常にお得な小説だ。

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