電車にはたくさんの人が乗っている。
朝のラッシュ、昼の居眠り、終電で別れる男女。
場所や時間を問わず、たくさんの人が目的地に向かうために電車に乗る。
電車内を見回すと人の他にたくさんの文字が乗っている。
広告である。
広告を読む人はどれぐらい居るんだろう。
スマホに釘付けの人、大声で談笑する貴婦人たち、それを横目で見るサラリーマン。
イスの前で立つお年寄り。見ないふりをするために目を閉じる人。
乗客と同じだけ、いやそれ以上の、悩みや迷いを乗せて、電車は走る。
その悩みに効く薬は何だろう。
塗り薬だったり、注射だったり、カプセルだったり、様々が薬が人を救う。
もしかしたら恋に効くクスリもいつか発明されるかもしれない。
この本、「傑作!広告コピー516-人生を教えてくれた」を読んで気がついたのは、コトバも体の調子を整えるための処方箋のひとつなんじゃないかということだ。
”傑作!広告コピー516-人生を教えてくれた”
この処方箋との出会いは、電車やCMでみかけたキャッチコピーが好きで、広告の名作コピーをもっと知りたいと思ったのがきっかけだった。
ぼぉーと車内を見渡していると広告コピーが目に飛び込んでくる。
何の気なしに文字を目で追ってしまう。
ついつい読んでしまうのは、ハッと心を奪われてしまう広告コピーと出会ってしまうことがあるからだ。
キャッチコピーは面白い。
たった数十文字で、かんたんに人の心を操ってしまう。
昨日は、何時間生きていましたか
仲畑貴志による、86年に発表されたパルコの広告だ。
20年以上経った今でも、このコトバは生々しさを持っている。
この15文字を噛み締めていたとき、電車に乗っていた人たちの顔が脳裏に浮かんだ。
疲れた顔をした、あの人たちは何をしてると笑顔になるんだろうか。
同じ質問を自分にも投げかける。
私は昨日、何時間生きていたんだろう?
想像してみると、10時間も生きていないような気がする。
何十年も生きてきたはずなのに、私は今まで何をしていたんだっけ?
紙を捲ってふと目に飛び込んできたこのコトバに苦しめられる。
もしこのまま忘れられなかったらこの先もずっと苦しめられるのかもしれない。
改めて、コトバの持つ恐ろしさを思い知らされた。
コトバの中毒性。
しかしながら、コトバは恐ろしさを持つ反面に別の中毒性を持っている。
心地よさだ。
題名に名前負けしていない、心を射抜かれたような”やられた感”がクセになってしまう。
何本か引用してみる。
女は、仕事で死んだりしない
男は、体のどっかで、20才
すこし愛して、ながく愛して
キミが好きだと言うかわりに、シャッターを押した
いえなかった言葉たちは、どうしていますか。
ネクタイ労働は甘くない。
負けても楽しそうな人には、ずっと勝てない。
あなたたちはたまたま五体満足に生まれてきました。
生んでくれて、ありがとうで ばかやろう
人間は弱いから、音楽がつくられた
10本並べただけでも、コトバに”撃たれた”という感覚に陥る。
この本に掲載されている516本にも及ぶ広告コピーはクスリとくるコトバ、文字通り薬になってくれるコトバ、猛毒を持つコトバ、はどれも強烈な個性を秘めていて、違法ドラッグのような中毒性を持っている。
時代を超えて愛されてきたコトバにいとも簡単にやられる痛快さもありながら、もうひとつ魅力がある。
あの人に。
もうひとつの魅力。
それは、誰かに伝えたくなってしまうことだ。
人と人の間にいることを思い出し、人恋しくなってしまう。
お節介だと分かっていながら、あの人に伝えたいコトバを見てウズウズする。
広告コピーも、人から生まれて、人に愛されてきたのだなと痛感する。
人間くさい広告コピーは人をより人間らしくさせるのかもしれない。
この本はコトバという処方箋をまとめたものだ。
誰かの悩みと、あなたの薬がそこにはあるはずだ。
用法容量はなく、サクサクと読みやすいから電車でも気軽に読めるのが、また魅力的だ。
主題歌:SUPER BEAVER/ことば
SUPER BEAVER 「ことば」
この本のなかに載っている516本のコトバには様々なメッセージがあれど、共通しているのはすべてのコトバの源泉に心だということだ。
美しいコトバは心の通ったキャッチボールからうまれてくる。
SUPER BEAVERの”ことば”も音楽を通じてあなたに”大事なものはなにか”を教えてくれる。
この本も、あの人に伝えたくなってしまうコトバも、遡ったところに”心”があるから大切にしたくなるのだろう。
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