森見登美彦『四畳半神話大系』に興味を持ったのは、日本を代表するアニメ監督、湯浅政明がノイタミナで手がけたアニメがきっかけでした。
ビビッドでカオスな世界観やアーティスティックな映像に引き込まれ、当時売れていた原作小説の内容も気になり、書店へと走りました。
寮暮らしには縁がなかったので、貧乏京大生の日常が垣間見れるのも興味深く、気づけばすっかりハマってしまいました。
主人公「私」のやたらくどい言い回しも最初はハードル高く感じたものの、慣れると快感になってきます。
こんな人におすすめ!
- 人生をやり直したいと思っている
- 噛めば噛むほど味がでる酢昆布のような小説を読みたい
- 昭和の時代にタイムスリップしてみたい
あらすじ・内容紹介
主人公は京都在住の冴えない京大生「私」。下鴨幽水荘に下宿しながら悶々と日々を過ごす、モラトリアム全開の青年です。
「私」は現在三回生ですが、一回生時のサークル選びに失敗して以降ツキに見放され、片想い中の明石さんとの距離も一向に縮まらずやきもきしていました。
その上疫病神のような腐れ縁の悪友・小津や、胡散臭い師匠に付き纏われ、様々なトラブルに巻き込まれます。
妄想癖のある「私」は、「あの時別のサークルに入っていたら」と過去を振り返り、それぞれ異なるパラレルワールドに迷い込み、キャンパスライフのやり直しを図るのですが……。
はたして「私」は明石さんへの恋心を成就させ、薔薇色の未来を掴むことができるのでしょうか。
『四畳半神話大系』の感想(ネタバレ)
『四畳半神話大系』は「私」が住む四畳半のオンボロ下宿を舞台にした「SF青春小説」。冒頭から森見節全開、独創的なレトリックを駆使した饒舌な文体に面食らいました。
「私」の視点で進む物語は、結局どのサークルを選んでも同じ結末に行き着き、いくら環境が変わっても人間の本質が変わらなければどうしようもないと痛感させられます。
本作の登場人物はいずれもエキセントリックな個性の持ち主ですが、とりわけ小津のインパクトは絶大。
神出鬼没の妖怪にたとえられる不気味な風貌、あちこちのサークルを股にかけ情報収集に勤しむフットワークの軽さ、周囲を煙に巻く奇矯な言動など。まさに「四畳半神話大系」のでたらめさを体現したトラブルメイカーで、「私」が遠ざけたくなる気持ちがよくわかります。
にもかかわらずどんどん親近感が湧き始め、小津が「私」のために体を張って橋から飛び下りる場面にさしかかるや、ブロマンス小説だったのかと開眼しました。
「私」が想いを寄せる黒髪の乙女、明石さんも素敵。どこまでも空気を読まず、自分のポリシーを貫く男前な行動力には、同性でも惚れてしまいます。
生活感あふれる下宿の描写も、古き良き昭和の時代にタイムスリップしたようなノスタルジックな感興をかきたてられました。
特に印象的なくだりは下鴨幽水荘名物(?)ゴキブリキューブを巡る珍騒動。Gが嫌いな読者はぞぞっとすること間違いなしです。
まとめ
私にとって『四畳半神話大系』は、噛めば噛むほど味がでる酢昆布のような小説です。
人間誰しもあの時こうしていたら、ああしていなかったらと、一度は後悔した経験があるはず。
しかし、パラレルワールドに迷い込んだ「私」の体験を見ていくと、ぐるぐる悩んでいるのは自分だけで、そこまで大きな違いはないのかもと達観に至り、読後は吹っ切れた気持ちになります。
青春の後悔を引きずっている方は、『四畳半神話大系』を読み、現状を前向きに捉え直してください。
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