私が『ハサミ男』を読んだのは「このミス」こと「このミステリーがすごい!」にランクインしたのがきっかけでした。
もともと叙述トリックものが大好きで、その筋の作家たちが口を揃えて絶賛していたのが決め手となり、購入を決意。講談社メフィスト文庫の作品を愛読していたのも一因です。
サイコパスなシリアルキラーが活躍するということで、グロテスクなシーンも相応に多かったですが、ラストのどんでん返しには「えっ?」とリアルに声を上げてしまいました。
こんな人におすすめ!
- サイコパスなシリアルキラーが主人公の小説を読みたい
- 叙述トリックでだまされる快感を味わいたい
- クレイジーな主人公を応援したくなってしまう不思議な感覚に陥りたい
あらすじ・内容紹介
本作はシリアルキラー・ハサミ男の一人称で語られます。
ハサミ男は女子高生をターゲットにする連続殺人鬼で、喉に深々とハサミを突き立てる残忍な手口が特徴。犠牲者は現時点で二人、世間は次なる犯行に怯えています。
警察の捜査をよそに、「私」は三人目のターゲットをストーキングし、ハサミを持って家に向かいます。
しかし「私」の決行前に、三人目の女子高生が模倣犯の手にかかる緊急事態が発生。獲物を横取りされたハサミ男は怒り狂い、自分の力で模倣犯を捜し出して復讐しようと決意します。
一方警察はハサミ男の逮捕に総力を挙げ、優秀なサイコアナリストを呼び寄せました。サイコアナリストは鋭いプロファイルを駆使し、ハサミ男の正体に近付いていきます。
ハサミ男は模倣犯を特定し、無事に復讐を遂げることができるのでしょうか。
『ハサミ男』の感想(ネタバレ)
『ハサミ男』最大の魅力はサイコパスなシリアルキラーを主人公に据えた設定。いわゆるアンチヒーローものですが、「私」の不気味さが際立っているからこそ、全編に得体の知れない狂気が漂っていました。
ネタバレしてしまうと、ハサミ男の正体は若く綺麗な女性・安永知夏。男女どちらともとれる、一人称自体がトリックになっているのです。
大抵の読者は、「女子高生を殺す変質者=男」と思って読み進めるので、性別の誤認は盲点でした。
真犯人が模倣犯を追い詰める展開も斬新ですし、その動機が獲物を横取りされた怒りと復讐というのも、他に類を見ず斬新でした。
ライバルとして登場する刑事やサイコアナリストとの対決も見所で、互いの心理を読み合い罠を仕掛ける、スリリングな駆け引きにはハラハラし通しです。
「私」が醜く太った容姿を気にする描写もミスリードとして機能し、盛り上がりの最高潮で衝撃の真相が判明した瞬間には、騙される快感すら覚えました。
徹頭徹尾エゴイスティックな人殺しなのは否定できないものの、読み進めるほどにイカレた思考や殺人に対する譲れぬポリシー、ドロドロした欲望の中毒性にあてられ、ハサミ男を応援したくなっているのも不思議な体験でした。
まとめ
殺人鬼が主人公の小説が好きなら『ハサミ男』は必読。常識が脱輪した「私」の独白を読んでいると、こちらまで狂気が伝染しそうな錯覚を起こし、一旦本を閉じて深呼吸したくなります。
ハサミ男を追跡する警察の執念の捜査や、サイコアナリストのプロファイリングも読ませます。
サイコパスならではの発想の飛躍で、模倣犯の正体に迫る「私」がだんだんかっこよく見えてきますよ。
模倣犯の正体は誰なのか、対決に勝利するのはどちらなのか、予想だにしない結末はぜひご自身の目で確かめてください。
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