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『八日目の蝉』原作小説あらすじと感想【誘拐犯が全てを捨ててでも欲しかったもの】

『八日目の蝉』あらすじと感想【誘拐犯が全てを捨ててでも欲しかったもの】

寝ている赤ん坊を奪い去り、自分を親だと思わせて育てる。

ぶっきらぼうな言い方をすれば本書はそういう物語だとも言える。

しかし描かれているのはサイコスリラーな側面ではなく、泥くさくドラマチックな逃亡劇だ。

誘拐犯であると同時に母でもある希和子(きわこ)の危うさは、どこか海を連想させる。

時に全てを奪い去り、時に全てを包み込む優しさを持つ、母なる海。

育児と犯罪という相容れない事柄を通して、「母性」とは何かを教えてくれる物語。

こんな人におすすめ!

  • 愛とは何か考えたい
  • ドラマチックな物語を味わいたい
  • 本当は同情してはいけない人に同情したい(あるいはしてしまう)

あらすじ・内容紹介

「ひと目見るだけ」それで全て終わりにすると思っていた希和子。

誰もいないことを確認してアパートのドアを開けると、そこには真っ赤な顔をして泣いている赤ん坊がいた。

ひと目見たら終わりにすると思っていたのに、希和子は赤ちゃんを誘拐。

「薫」(かおる)と名づけた赤ん坊と共に、親友の家、立ち退きを迫られている女の家、怪しい宗教施設「エンジェルホーム」、小豆島と逃走をはかる。

優しい人々に囲まれて穏やかな生活を送っていた希和子と薫だが、ある理由で逮捕されてしまう。

希和子と離れ離れになってしまった薫は大学生になり、親の反対を押し切って一人暮らしを始める。

生活費を稼ぐために始めたバイトで岸田(きしだ)という男と出会い、交際関係に発展。

しかし岸田には家族がいた。

そこにエンジェルホームで同じ時を過ごしたという千草(ちぐさ)が訪ねてくる。

時間をかけて徐々に親しくなっていく2人。

心を開いた薫は千草に生理がきてないことを告白する。

『八日目の蝉』の感想・特徴(ネタバレなし)

第三者にまで届く怒りと悲しみ

あんたなんか、空っぽのがらんどうじゃないの。

希和子と交際関係にあった丈博(たけひろ)の妻、恵津子(えつこ)に言われた一言である。

丈博との子どもを身ごもってしまったため、ある程度の罵声は受け入れていた希和子だったが、この言葉だけはずっと忘れられずにいた。

薄い紙で手を切った時のような気持ちの悪い感覚に陥る。

読者の心も痛みを感じる鋭利な言葉だ。

それを実際に言われた希和子はどれだけ苦しかっただろうか。

子どもを孕んでしまったことは丈博が結ばれるきっかけになると思っていたのに、丈博からは「今まで準備したことが水の泡になるから」堕してほしいと頼まれてしまう。

そして希和子は妊娠10週目に人工妊娠中絶を受ける。

通常、妊娠10週目を過ぎると胎児はどんどん成長し、それに比例して手術は難しくなり母体への負担も大きくなっていく。

日本では12週を超えて中絶手術を行った場合、死産の届出が必要になるため多くの人は11週目までに手術を受けるようだ。

それらのことを考慮すると、堕すのであれば早ければ早い方がいい。

であるはずなのに希和子が手術を受けた10週というのは比較的、遅い方だろう。

リアリティーのあるタイミングに希和子の苦悩が感じられる。

この苦しみは胸中を察することも難しい。

どう描いたって文字数以上の沈痛がある。

この手術が原因となり妊娠できない体になってしまっているのだから、希和子の悲懐は計り知れない。

それから2ヶ月後、丈博から恵津子が妊娠したことを告げられる。

連日のように続く嫌がらせ、そして「あんたなんか、空っぽのがらんどうじゃないの」。

発言の内容も、立場関係も、何もかもが最悪である。

もし自分が希和子だったら立腹なんて言葉では形容しきれないほどの怒りを感じるだろう。

第三者としてこのニュースをワイドショーで見たとしたら、殺されても文句は言えないなと思う。

全ての流れを汲み取ると薄い紙で手を切るなんて温い表現でなく、鈍器で殴られたような鈍くて重い怒りと悲しみを痛感させられる。

脆くて儚い幸福

重心を前に移した薫が、ゆっくりと、匍匐前進をするようにベッドのなかを移動する。移動できたことに驚いたのか、きょとんとし、それから満面の笑みになる。

ベビーベッドで顔を真っ赤にして泣いていた赤ん坊の成長ぶりが分かる一文だ。

1番近くで見ている分、喜びも一入大きいだろう。

この小さくて大きな一歩を親はずっと忘れずに生きていくのだろうなと思う。

初めてハイハイした時、親や誰か面倒を見てくれる人が居合せたのかとはるか遠い記憶に想いを馳せると、微塵も覚えていないのになんだか温かい気持ちになる。

生みの親であれば出産までの過程で少しずつ親としての覚悟が固まってくるだろうけど、希和子の場合それがなく、衝動的に親になっている。

右も左も全く分からないまま毎日必死に薫の世話をして、なおかつ周りの人には犯人だと悟られず、警察からも逃げなければいけない。

希和子がここまでの経験した苦労を考えると、薫がハイハイをしているシーンはあまりにも尊くて、泣きそうになる。

犯罪者となり偽名で過ごし、今までの社会的地位を捨てた上に、エンジェルホームで定められた規定として銀行預金に入っているお金もすべて手放した。

何もかも失っているはずなのに、この瞬間の希和子には一切の憂鬱も恐怖も描かれていない。

描写されているのは歓喜のみだ。

行間から感涙にむせぶ希和子の顔さえも脳裏に浮かぶ。

少しでも日常のバランスが崩れると忘れてしまいそうな脆くて儚い幸福は、全てを投げ捨てるほど価値のあるものなのかもしれない。

繋がっていく物語

そこまであの女のまねすることないって言いたいんでしょ。血もつながってないのにね

本書の秀逸な点は、希和子が捕まった後も、娘視点で物語の続きが描かれていることのように思う。

不倫して妊娠し、墜胎を経て、赤ん坊を誘拐して逃走する物語だけでも波乱万丈で十分に読み応えがある。

そうでありながら、この物語は当事者がいなくなった後も残された者、恵理菜(薫)によって紡がれていく。

プロローグを除いて一章、二章とかなりざっくりと分けられた構成に最初は違和感を感じていたけれど、この小説は赤ん坊を誘拐した人物のストーリーではなく、母親と娘のストーリーだということを構成によって体感させられる。

序盤で出会う立ち退きを強いられている女、中村とみ子と希和子の関係性にも母と娘を連想させる。

実際の娘とは疎遠になってしまい、時代にも取り残された思い出溢れる家で、娘に近い年齢の他人である希和子との共同生活は、どこか不格好でありながら普遍的な幸せが垣間見えて愛おしかった。

 

親密になっていくにつれ、希和子と口喧嘩になってしまうとみ子はきっと嬉しかったんだろうなと想像し、ほっこりする。

話が少し逸れてしまったが、二章の主人公、娘の恵理菜は、幼い頃の思い出が強烈過ぎて希和子のことを憎しみの対象としている。

そうでありながらも、恵理菜も希和子と同じく、家庭を持つ人との子どもを妊娠してしまい苦悩する。

エンジェルホームで同じ時を過ごした千草との再会をきっかけに、少しずつ恵理菜の記憶のなかの希和子が、誘拐犯から母親に変容していく描写には壮大なカタルシスを感じて涙腺が緩んだ。

登場人物たちと別れ、まっさらな地で生活をすることを繰り返す希和子こそが8日目の蝉だなと感じていたが、読み進めるにつれて、本当に8日目の蝉なのは子どもの方なのかもしれないと思った。

7日間で死んでしまう蝉のなかで、自分だけが生き残ってしまった8日目の蝉。

希和子との生活に終止符が打たれ、寂しさを抱えながらも8日目を過ごす蝉。

ほかの蝉が見られなかったものを見ることが出来る8日目の蝉。

それは希和子にとっては薫で、恵理菜にとってはお腹にいる命こそが8日目の蝉と言えるのかもしれない。

希和子と薫が生活をしていた証は、恵理菜のお腹のなか、言い換えるならば土のなかにいるのだ。

まとめ

過去に読んだことある本書を久しぶりに手に取ったのは、自身の生活の変化がきっかけだった。

子どもが生まれたのだ。

前回読んだときには希和子に同情し、秋山夫婦には怒りすら感じるくらい嫌悪した。

それが自分の立場が変わると、どんな理由があっても赤ん坊を誘拐するのは最悪の犯罪なのではないかと、今までとは全く逆の発想が生まれた。

その考えを踏み固めたくて再読したのに、やはり希和子の方に感情が寄り添ってしまう。

それは希和子の立場が弱く、あまりにも不憫に思えてしまうからでもあるけれど、希和子のなかにしっかりとした母性が芽生えているのを感じたからである。

今持っているもの全てを犠牲にしてでも、子どもを守り抜く決意。

言葉で書くと容易いけれど、行動で表すことは非常に難しい。

実際に行動することで薫へ愛を注ぐ希和子の姿を見て、自分にはそれが足りてないのではないかと殴られたような気持ちになった。

希和子がいかに薫へ愛情を注いだのかを体感してほしいので詳細は伏せるが、希和子が逮捕される直前に放った一言は深く胸に突き刺さっている。

特別ではなく普通でありふれた思いこそが、陽射しを受けた海面が光を反射するかのようにキラキラと美しいのだと痛感した。

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