『羊と鋼の森』原作小説あらすじと感想【森の中で何を感じ、聴き、見るのか】

『羊と鋼の森』あらすじと感想【森の中で何を感じ、聴き、見るのか】

調律師というあまり馴染みのない仕事のお話だったので、なかなか手に取らずにいた本作品ですが、読んでみて、どの仕事にも「森」はあり、どの仕事にも繋がる感覚が描かれていると感じました。

小さな川がひっそりと流れていくような、静かで、そして深く優しい物語です。

こんな人におすすめ!

  • 楽器をやっている人
  • 何かにチャレンジしている人
  • 自分の進路について考えている人

あらすじ・内容紹介

高校生だった外村(とむら)が、ある日学校の体育館でピアノの調律師の板鳥(いたどり)と出会います。

彼が調律した音色を聴き深く感動した外村は、自分も調律師となり、ピアノの調律という深い森の中へ入っていきます。


誠実に調律師の仕事と向き合い、こつこつと前に進んでいく中で、同じ事務所の人達やお客さんとのやりとりからもたくさんのことを吸収していきます。

そこで出会った双子の姉妹から、ピアノの調律師という仕事や音楽、それまで生きてきたことについて考え学び、成長していきます。

あまり社交的ではなかった青年が、どのように社会で自分を表現していき、そこに喜びを感じて仕事をしていくか、穏やかで静かな文章でありながら熱く描かれています

『羊と鋼の森』の感想・特徴(ネタバレなし)

チャレンジしていく姿

焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです

主人公の外村が、憧れの調律師さんから言われる一言です。

自分の心に響いたことを仕事にする」と決めて挑戦し、いざその仕事に就口ことができても、まだまだ終わりはありません。
どの仕事においてもそうですが、仕事に就いてからが本当の始まりです

どうしても早く上手くなりたい、早く認められたいと思ってしまいますが調律師という仕事においては

ホームランを狙ってはダメ

と先輩の板鳥に言われます。

 

迷子になってしまいそうな、調律師という深い森のようなお仕事で、外村はこの言われた言葉の通りにこつこつと一つ一つこなしていきます。

くじけそうな出来事があってもすぐに反省し、ダメだった点をしっかり捉えて諦めずに次の仕事に繋げていく外村の姿勢に感銘を受けました

何が正解か分からない、正解があるのかさえ分からない。

そんな仕事においては、経験から閃きを取り出して、そして実践してみるということが良いです。

これは、常にチャレンジしていくことと同じかなと思いました。

どちらかというと裏方の仕事で、地味に見えるかもしれませんが毎回がチャレンジの連続なのかもしれません。

 

探りながら試していくしかない中でたくさん失敗もしますが、そんな時でも物事を素直に誠実に捉え着実に進んでいく姿にじわじわと感動し、物語の中盤当たりからは常に胸がいっぱいの状態で読んでいました。

人間は、人が頑張る姿に感動する気がします。

本書の場合は大きな展開やドラマチックなことが起こるわけではありません。

ダイナミックな滝と小さな川があるとすれば、小さな川のような物語です。

それでもこんなに感動するのは、チャレンジしていく姿と誠実さが魅力の主人公にあると思います。

小さな川に何を見るのか。

それは、深い森に入って何を感じるのかと同じ気がします。

人によって感じ方はそれぞれですが、派手さはなくても見えるものはたくさんあるように本書からは「私もチャレンジしてみよう!」と、たくさんのやる気をもらえました

プロの仕事

本書に出てくる調律師の方はみな、仕事に誇りを持っています。

音の好みについての外村と仕事の先輩との会話で、卵のゆで方に例えるシーンがあります。

とろとろとしっとりのどっちが偉いってわけでもない。それはただの好みだ。もちろん、かたゆでもだ。かたゆでを好む人が幼稚だというわけでもない。

調律師さんもそれぞれにきっと、好きな音色があるでしょう。

しかし、仕事としてはお客さんのニーズに応えなくてはなりません

どんなピアノなのか、どういうシーンで弾くのか、お客さんの好みは、お客さんの弾き方はどんな感じなのか。

それら全てを考慮した上で調律し、音作りをしていきます。

 

最後にお客さんの笑顔が見られてこそ、「プロの仕事が出来た」と言えるのではないかなと思いました。

それは、どの仕事にも通ずることだと思います。

改めて仕事とは、自分の為が第一なのではなくて、自分が何の為に何が出来るかを探していくことだと思いました。

読みながらどんどん主人公の外村に感情移入していき、後半はその誠実さに心を動かされ、私も頑張りたい!という気持ちから、泣きながら読みました。

どの業界でも誇りを持ってプロの仕事をする人には心打たれますが、どうやってプロになっていくのかの成長を外村と一緒に感じることが出来ました。

それぞれの成長

物語の中で鍵となってくるのが、双子の姉妹との出会いです

ピアノの調律をしに行った先のお客さんとして、姉妹が登場します。

お客さんと調律師という立場にはなりますが、みながこの姉妹を応援し、周りもそれに引き込まれていくように、私も頑張る力が湧いてきました

やはりお客さんと調律師、お客さんと店員さんなど、立場というものはどの仕事でもありますが、「人と人」というところに変わりは無いなと思いました。

こういう出会いがプロを作っていくのかもしれません。

外村の一生懸命な姿と誠実さからなのか、同じ事務所の先輩調律師さん達もいつも見守りアドバイスする感じで、読んでいて嫌な思いをすることがありませんでした。

失敗した外村をさりげなくサポートする周りの調律師さんの優しさに心が温かくなりました。

それと同時に先輩調律師さん達も、外村から学び成長していっているのだろうと思います。

仕事をする上で、人は立場関係なく人から学び、成長していくのかもしれません。

 

外村は、ある程度個人の家のピアノの調律をするようになってから、ホールのピアノの調律を見学しに行きます。

その時の描写が、読んでいてとてもワクワクしました。

コンサートや音楽が好きな方は絶対に心が躍るシーンだと思います。

個人のお家の調律師としてやっていくのか、ホールなどのピアノの調律もやっていくのか、それは外村が経験し成長していった先に結論が見えてきます。

 

自分がどこを目標にやっていけばいいのかは、最初に決めなくても探り探りやっていくうちに見えてくるのだなと考えさせられました。

それこそ、成長する前に決めた目標は成長したあとで変わってもいいのだなと気持ちが楽になりました

すみません、十年後です。十年後に実を結べるように勉強します

外村のこの言葉に、自分も諦めずに頑張ろうという気持ちになりました。

成長するには必ず時間は必要と分かっていても、焦ってしまっていた自分にストレートに響きました。

まとめ

今やっていることが何にどう影響して、誰かの役に立てているのだろうか?と仕事の面でも趣味の面でも思う時がありましたが、ちょうどいいタイミングで本書と出会い、自分が思っているのと違う角度から何かの役に立てていたり、焦ることなく一つ一つ進めていくことでまだまだ自分も成長できるのではないかなと気持ちが前向きになれました。

何事においても「誠実さ」が目標に近づくための最も大切な鍵で、それがあれば誰かの役に立てたり心に届けられたりするのかもしれません。

 

仕事や趣味は何のためにやっているのかと問われれば、誰かの喜ぶ顔が見たいからです。

どの職業においてもそれは共通してあるものではないかなと、物語に出てくる姉妹の笑顔を想像しながら思いました。

表に出る仕事でも裏の仕事でも、その仕事という「森」の中で何を感じ何を聴き、何を見るのかで仕事の質が変わってくるのかなと思いました。

読んだ後はピアノの曲が聴きたくなりました。

映画化もされているので、本書読了後、面白かったら映画もぜひ観ていただきたいです。

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