主題歌:中島みゆき/地上の星
今回の主題歌選びは、今までにないほど難渋した。
戦国の世と現代の歌とでは世界観があまりにも異なっているので、かの動乱の時代にふさわしい楽曲はすぐには思いつくものではない。
歴史小説は登場人物の感情にまでフォーカスすることは少なく、心よりも頭で読んでいくものなので、魂の叫びである歌とは対極にある芸術なのだから。
しばらく悩んだ末、まずは信長たちの心情について想いを馳せ、知識を感情に変換していく作業から始めた。
魔王信長だけでなく、戦国武将はみな冷酷非情な人間として書かれる傾向にあるが、果たしてそうなのであろうか?
戦国時代より800年ほど遡る平安時代においては、男女ともに恋人を想い涙する詩が詠まれたりと、古くから我々と同様の人間味があったと知られている。
だとすれば武将たちにも同じような心の仕組みが備わっているはずであるが、戦に次ぐ戦の日々の中で傷つき荒んでいってしまったのではないだろうか。
特に信長の人生は壮絶そのものであり、幼少期から実母や弟に命を狙われ、家臣達からは理解されず、長じてからも裏切られ続けていれば、人間らしい思いやりや温もりなど失ってしまっても無理はない。
誰ひとりとして信じられず、ただ強く大きくなることだけを目指し、足元にある幸せに気付くことができなかった男たち。
そんな悲しみを歌った楽曲として中島みゆきさんの『地上の星』を選んだ。
名だたるものを追って 輝くものを追って
人は氷ばかり掴む
つばめよ高い空から 教えてよ地上の星を
つばめよ地上の星は 今何処にあるのだろう
我々もまた今日を生きることに必死になり、その疲れを癒すため一時期の快楽を求め、「幸せとは何か」と問うことすら忘れているのではないだろうか。
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