2000年に映画化された『クロスファイア」、2002年に公開された『模倣犯」など、数多くの傑作を世に送り出した宮部みゆきのデビュー後間もないミステリー小説、『レベル7』。
失踪した女子高生と記憶を失くした男女。
女子高生の行方を探すカウンセラーと、記憶を取り戻すため過去を調べる男女の背後に隠された事件が交錯するとき、衝撃の真実が明らかに―。
全く面識のない女子高生と記憶を失くした男女、そして周囲を取り巻く人物が、事件を通して顔を合わせるときの不思議な感覚はヤミツキになる。
女子高生と事件の真相を追う男が知らず知らずのうちに顔を合わせていたりと、繋がりそうで繋がらない、そんな絶妙なバランスも本書の特徴。
2つの事件が解き明かされ、謎が繋がっていくときの爽快感は必見!
こんな人におすすめ!
- ミステリーが好きな人
- 爽快感を味わいたい人
- 探索しているドキドキ感が好きな人
- 一見関係がなさそうな事件が繋がっていくストーリーが好きな人
あらすじ・内容紹介
レベル7まで行ったら、戻れない?
謎の言葉を残して失踪した女子高生、貝原みさお。
みさおを心配し探し回るカウンセラー、真行寺(しんぎょうじ)悦子。
マンションの一室で記憶を失くした男女が目を覚ます。
ここはどこなのか?
自分たちは何者なのか?
2人の腕に残された「Level7」の文字の意味とは?
接点のない人間を取り巻く事件は、やがて過去の殺人事件へと導かれていく。
「レベル7」とは一体何なのか?
絡み合った謎を解き明かしていくミステリー作品をお楽しみください。
『レベル7』の感想・特徴(ネタバレなし)
706号室の三枝
あるマンションの一室で目覚めた男女。
その隣に住んでいるのが三枝隆男(さえぐさたかお)。
あることをきっかけに記憶を失くした彼らに協力してくれることになります。
とても頭の回転がよく、小さなことでも見逃さず、情報としてキャッチする力が高いですね。
自称・ジャーナリストというだけあって、観察力、洞察力、行動力はかなり優れていて些細なことにも気づき、手がかりとして情報を収集できるのは三枝ならではの特技と言えると思います。
話している感じだと、ぶっきらぼうで冷たい印象を受けますが、実際は体調の悪い人間を気遣ったり、女性や子供には対応が柔らかくなったりするなど、優しい人だと思います。
多少の強引さはあるものの、相手が筋の通ったことを言ったらちゃんと話を聞いてくれるある意味では常識人という印象を受けました。
演技派女優っぽい子供・ゆかり
本書の影の立役者ともいえる、真行寺悦子の娘・ゆかり。
子供ながらに理解力・行動力・演技力はかなり高いと思います。
ゆかりがいなければ、悦子も中々みさおの手がかりを掴めなかったかもしれない場面があります。
悦子がみさおのことを探している間は、ゆかりは祖父の元に預けられますが、その理由もしっかりと理解しているので、泣き言を言うわけでもなく送り出してくれます。
また、みさおの居場所を突き止めるために一芝居打つなど、演技派な一面も。
「ゆかりちゃん」
「なあに」
「お腹が痛いでしょ」
「痛くないよ」
「いいえ、痛いはずよ。ほら、手でお腹をおさえなさい」
ゆかりは、びっくり顔で悦子を見上げていたが、やがてにっこり笑った。
「うん。痛い。冷たいもの食べすぎちゃった」
ゆかりに演技をするよう指示を出しているのが母の悦子なのもおもしろい部分ですね。
しっかりとその場の状況に合わせて空気を読む姿は、とても子供とは思えません。
また、みさおの家から手がかりとなりそうな物をこっそりと持ち出してきたりするような行動力や勇気もあるかなり大人びた子供という印象ですね。
マンションの部屋を探索するシーン
記憶を失くした男が何か手がかりはないかと部屋を探索するシーンがあります。
本書では、日常に普通にあるものの質感が想像できるような描写が多いですね。
「記憶を失くす」という非日常的なことがうまく引き立て役になっていると思います。
ありふれた台所用品―洗剤、スポンジ、配管用洗浄剤、柄つきブラシ、クレンザー、ゴミ袋。
大きな引き出しのなかに、それらが雑然と放り込まれている。棚の上には片手鍋と両手鍋がそれぞれひとつずつ。
引き出しや開きの扉を開け閉めしているうちに、彼は、自分の頭がスムーズに回転し始めていることに気がついた。もう、いちいち立ち止まるようにして、ものの名前を確認する必要はなくなっている。なにかを目にすれば、それと同時にその名詞が浮かんでくるようになっていた。
この男女の特徴として、自分自身のこと、過去の記憶は忘れているけど物の名前、計算の仕方、買い物の仕方など、日常で生活する上での行動は覚えているということが挙げられます。
目覚めた直後は、物の名前もすぐには出てこない状況でしたが、それも時間が経てば自然と解消されていました。
記憶喪失になるとどうなるのかが、体感できる場面でもあります。
だからこそ、物の使い方、買い物の仕方、マンションまでの道のりなど覚えているかをお互いに確認しながら慎重になっているのも、2人の緊張や不安が伝わってきます。
記憶を失くすという非日常感と周りにあふれる日常の物。
そのギャップがありふれた物の質感を伝えるのに一役買っていると思います。
まとめ
事件の謎を解き明かすというミステリー要素だけじゃなく、登場する人間同士の友情、愛情、親子愛なども描かれていて、事件が解決するスッキリ感と人の優しさに心温まるほっこり感がバランスよく描かれています。
読み終わったあとは、温かく優しい気持ちになるかもしれませんね。
この機会に宮部みゆきさんの作品に触れてみてはいかがでしょうか?
本書はデビュー間もない頃のものなので、今とは違った表現法があるかも。
今の作品と読み比べてみても、楽しめるかもしれませんね。
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