瀬戸内海に浮かぶ「鳥坏島(とりつきじま)」。
そこにある鵺敷神社(ぬえじきじんじゃ)で、18年ぶりに秘儀〈鳥人の儀(ちょうじんのぎ)〉が執り行われる。
儀式に参加するために島に訪れた怪奇幻想作家・刀城言耶(とうじょう げんや)を待ち受けるのは、有り得ない状況での「人間消失」。
次々と消えてゆく参加者たち。
犯人は、人か、凶鳥か?
ホラーとオカルトが見事に融合する「刀城言耶シリーズ」の第2弾!
こんな人におすすめ!
- ホラーが好きな人
- ミステリーが好きな人
- クローズドサークルが好きな人
あらすじ・内容紹介
昭和30年代のとある年の8月。
怪奇幻想作家である刀城言耶は、瀬戸内海に浮かぶ孤島「鳥坏島」に訪れた。
彼の目的は、島にある鵺敷神社で18年ぶりに執り行われる、「鳥人の儀」に参加すること。
「鵺敷神社に禍いの影が差すとき」に行われるという儀式に参加するのは、刀城言耶をはじめ、鳥坏島を擁する兜離の浦(とりのうら)の村人である間蠣辰之助(まがき たつのすけ)、海部行道(かいふ ゆきみち)、下宮欽蔵(しもみや よしぞう)と、民俗学の研究の為に訪れた学生の北代瑞子(きたしろ たまこ)。
そして鵺敷神社の巫女たる鵺敷朱音(ぬえじき あかね)とその弟の鵺敷正声(ぬえじき まさな)、鵺敷の使用人である謎の男・赤黒(あかぐろ)の計8名。
参加者の思考を締めるのは、18年前の鳥人の儀で起こった、恐ろしい事件。
かつて、1人を残した参加者全員が消失するという不可解な事件が起こったこの儀式に、皆が不安を隠せない。
そして儀式の最中、今回の巫女である鵺敷朱音もまた消失した!
更に、巫女の消失を皮切りに次々と消える参加者たち。
犯人は人か、それとも島に伝わる怪異「鳥女(とりめ)」か?
嵐に閉ざされた孤島で刀城言耶が事件に挑む!
『凶鳥の如き忌むもの』の感想・特徴(ネタバレなし)
ミステリーの定番「クローズドサークル」
これが鳥坏島……
ミステリーにおいて、最早定番中の定番とも呼べる「クローズドサークル」。
「嵐に閉ざされた絶海の孤島」や「吹雪に閉ざされた雪山の山荘」で、外部との連絡が取れない中で次々と事件が起こる、というこのシチュエーションは最早、古今東西のミステリーを語る上で絶対に外せない要素だろう。
しかし、王道だからこそ飽きられてしまう危険がある。
本作はそこに「鳥人の儀」や過去に起こった類似事件という要素を加えることで、ありがちな設定に見事なオリジナリティを演出している。
我々読者は、本作の探偵たる刀城言耶と共に、連続失踪事件の謎だけでなく「鳥人の儀」とはどの様な儀式なのか、過去の事件との関わりはあるのか、果たして「鳥女」とは何なのか、といった複数の謎を追わなければならない。
事件と怪異、様々な謎を同時進行で追う興奮は、この作品ならではの魅力だろう。
迫りくる「凶鳥」の恐怖
海底に共潜き 海原に船幽霊 中空に鳥女を用心すべし
「ホラーとミステリーの融合」を謳う刀城言耶シリーズの大きな魅力は、毎回登場するオリジナルの怪異の存在だろう。
今作に登場するオリジナルの怪異「凶鳥」こと「鳥女」は、兜離の浦の村人達が畏怖する悍しい存在として描かれている。
鵺敷神社の祭神である「大鳥様」との繋がりを匂わせながらも、人を拐うとして忌まれており、更には18年前の失踪事件にも関わっているというこの怪異は一体何者なのか?
連続失踪事件と密接に関わるこの怪異の存在からは、片時も目が離せない。
人か、怪異か
「ホラーとミステリーの融合」を謳う作品を手にとる際、多くの読者は「とは言え、ホラー要素もトリックの産物で、実態は純粋なミステリーだろう」と考えるのではなかろうか。
しかし著者である三津田信三氏は、そのような油断を許してはくれない。
怪奇幻想作家・刀城言耶が「実体験を小説という形にまとめた」という体裁のこのシリーズでは、毎巻最初に刀城言耶によるモノローグが存在する。
そして、今作のモノローグで刀城言耶はかつて自身が経験した事件を以下のように述べている。
一見すると現実的な殺人としか考えられない現場にも拘らず、実は途轍もない正真正銘の怪異が身を潜めていた。
即ち、この作品の世界において「怪異」は実在するのだ。
もちろん今作の探偵である刀城言耶は、論理的思考に基づいて推理を進めていく。
しかし冒頭でのモノローグが指し示す通り、純粋な論理的思考のよる推理の果てに、怪異の実在を証明してしまう可能性もまた、充分に存在しているのだ。
それ故に、事件を構成するあらゆる要素から目を離すことができない作品となっている。
まとめ
「嵐に閉ざされた絶海の孤島」という定番のクローズドサークルを食材とするならば、「過去に起きた失踪事件」という下処理と「秘密めいた儀式」や「鳥女というオリジナルの怪異」、見事な味付けによって、ありがちながらも素晴らしいオリジナリティを醸し出す本作。
最後の一行を読むまでは、犯人が人か怪異かを断定することもできない(最後まで読んでも断定できないことも多い)この作品は、それゆえに読者に油断を許さない。
「ホラー要素を取り込んだミステリー」に触れてきた人にこそ、是非とも手に取り、「ホラーとミステリーの融合」を実感して欲しい。
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