異形の羽を持つ少女、〈羽川翼(はねかわ つばさ)〉。
異常なまでに名石な頭脳と、恐ろしいまでに清廉な心根を持つ彼女は、何故猫に魅入られることなったのか。
〈阿良々木暦(あららぎ こよみ)〉がおりに触れて言及する、〈ゴールデンウィークの悪夢〉とは何なのか。
そして、伝説の吸血鬼の成れの果て、〈忍野忍(おしの しのぶ)〉の活躍とは。
『傷物語』と『化物語』の間に挟まれた、阿良々木暦と羽川翼のもう1つのルーツ。
こんな人におすすめ!
- 西尾維新氏のファンの人
- 『化物語』を読了済みの人
- 『〈物語〉シリーズ』が好きな人
あらすじ・内容紹介
〈地獄の春休み〉を経て、高校3年生となった〈阿良々木暦〉。
彼は、春休み中の行いの代償として〈吸血鬼もどきの人間〉になりつつも、表面上は普通の高校生としてこれまで通りの(友達のいない)生活を送っていた。
そんな彼の生活の中でも、大きく変わった点が1つ。
〈地獄の春休み〉の最中、阿良々木暦を傍で支え続けた学校きっての優等生、〈委員長の中の委員長〉こと〈羽川翼〉と、友人関係を築くに至っていた。
親身に接してくる羽川翼に対し、何とも言えない感情の昂りを覚える阿良々木暦。
その感情が〈恋〉であるか否かの判断ができない彼は、悶々とした日々を過ごす。
そんなある日、道端で偶然出会った羽川翼の頬には、大きなガーゼが貼られていた。
散歩の道すがら、彼女の家族が抱える〈とある事情〉を聞いた阿良々木暦は、その事情の中ですら清廉であり続ける羽川翼に、友人として気味の悪さを覚えながらも、家庭の事情に深く関わることは出来ない。
結局、散歩の道中で見つけた猫の死骸を埋葬した後、彼は深入りできずに羽川翼と別れることになる。
しかし、この〈猫の埋葬〉が悪夢の始まりだった。
専門家・〈忍野メメ(おしの〜)〉すら手こずる怪異、〈ブラック羽川〉の誕生。
次々と増え続ける犠牲者。
羽川翼の事情に踏み込んだ阿良々木暦は、彼女へ対する感情に答えを出し、決着を迎えようとする…。
『猫物語・黒』の感想・特徴(ネタバレなし)
明かされる、〈ゴールデンウィークの悪夢〉の真実
いいじゃない、一回くらい
今作は時系列上、『傷物語』と『化物語』の合間に挟まれており、『〈物語〉シリーズ』の第1作目である『化物語』中で幾度となく語られた、〈ゴールデンウィークの悪夢〉の詳細が描かれる、正に〈もう1つの前日譚〉とでも呼ぶべき作品となっている。
後続作品でも都度語られる、〈羽川家〉が抱える闇。
羽川翼の異常なまでの〈清廉さ〉と、〈聡明さ〉。
そして、怪異・〈障り猫〉の存在。
それらが全て関わり合い、誕生する〈ブラック羽川〉。
妖怪変化のオーソリティー、怪異の専門家たる〈忍野メメ〉ですら手こずる凶悪な怪異に対し、阿良々木暦はどのように立ち向かうのか。
そして阿良々木暦は、羽川翼に対してどのような言葉をかけるのか。
また、この事件での活躍を理由に〈忍野忍〉の名前を授かることになる〈旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード〉は、一体どのような活躍を見せるのか。
明かされる〈ゴールデンウィークの悪夢〉と、そして〈羽川翼〉の真実から、目が離せない。
歴代最長の雑談
…お兄ちゃん、欲求不満なんじゃない?
『〈物語〉シリーズ』全体を通しての、必須要素。
それは、作中で描かれるキャラクター同士の〈雑談〉だろう。
ストーリーの流れだけでなく、キャラクターが繰り広げるたわいの無い掛け合いも、『〈物語〉シリーズ』の魅力を構成する大きな要素だ。
特に、今作で繰り広げられる阿良々木暦と阿良々木月火の雑談は、シリーズでも屈指の長さを誇る。
その長さは、約80ページ。
全体のページ数が200ページほどであることを考えると、なんと作中の半分近くを雑談に費やしていることになる。
最初は〈恋〉に関する相談だったはずが(妹に恋愛相談する兄とは、かなり気持ち悪い気がする)、脱線に脱線を重ねる雑談は、中々本線に戻ってくる気配がない。
それでも読む手を止めさせることがないのは、偏に著者・西尾維新氏の筆力によるものだろう。
是非とも、その筆力を惜しみなく振るった雑談を楽しんで欲しい。
露わになり始める、阿良々木暦の変態性
お前は限度額のない変態かにゃ。怖いにゃ、怪異より怖いにゃ…
『〈物語〉シリーズ』を通して、徐々に変態性を増していく主人公・阿良々木暦。
前作『化物語』や『傷物語』でも垣間見せていたその変態性が、今作では特に顕著に現れている。
内容の詳細は伏せるが、その様は怪異すらもドン引きさせるほどだ(そもそも時系列的には『化物語』以前であるにも関わらずの、時間軸すらも超越する変態性である)。
徐々にエスカレートする変態性の、大きな躍進の瞬間でもある今作を、存分に楽しんでほしい。
まとめ
『化物語』と『傷物語』の合間に挟まれた、前日譚に当たる今作。
『化物語』の作中で幾度か仄めかされていた〈ゴールデンウィークの悪夢〉について明かされるという大きな見所の他にも、シリーズ屈指の頭脳キャラ〈羽川翼〉の真実や、書籍全体の約半分を占める阿良々木暦と阿良々木月火の雑談など、非常に見所の多い作品だ。
ストーリーライン以外にも楽しめる要素が多分にあり、きっと何度読み返しても面白い作品だろう。
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