趣味や好きなものが同じで選ぶものも似ていると、お互いに運命的なものを感じることがある。
そこから恋に発展していく場合も。
それはとても自然なことに思えるが、果たしてそのあとも同じ感覚のまま、人は寄り添い、生きていけるのだろうか?
こんな人におすすめ!
- 切ない本が読みたい人
- 結婚について考えている人
- 映画“花束みたいな恋をした”を観終えた人
あらすじ・内容紹介
本書は、2021年1月29日公開の映画“花束みたいな恋をした”のノベライズ。
八谷絹(はちや きぬ)と、山根麦(やまね むぎ)、二人の男女が終電を逃したことから運命のような出会いをし、そこから始まるラブストーリーだ。
出会った2015年から2020年までの二人が書かれており、5年間の思い出がひとつひとつ、花束のように綴られている。
出会った当時は学生同士だった二人だが、就職という問題や、生活すること、そして二人で生きるという現実に徐々に直面していく。
それぞれの視点で感情や状況が綴られており、読者はどちらの気持ちもくみ取れるので、よりストーリーに入り込める。
映画をまだ観ていなくても楽しめるが、もうすでに観終えた方ももう一度「はな恋」の世界観を味わえるものとなっている。
『ノベライズ 花束みたいな恋をした』の感想・特徴(ネタバレなし)
たくさんの同じもの
「さっき押井守いましたね。」
「ご存じ、なんですか?」
「好き嫌いは別として、押井守を認知していることは広く一般常識であるべきです。」
絹がきっぱり断言すると、麦は顔をほころばせて頷いた。
初めて出会った二人は、あまりにも趣味や好みが似ていることに嬉しくなり興奮し、お互いに意識をし始める。
サブカル好きな二人は意気投合し、程なくして付き合うこととなる。
趣味が同じカップルと趣味が違うカップルではどちらが上手くいくのだろうと考えると、同じ趣味の学生時代の絹と麦は同じ世界観の中にいてとても楽しそうに見え、永遠にこの関係が続き上手くいくように思える。
二人はたまたま履いていたスニーカーが一緒で、「同じ」がたくさんあることにお互い運命を感じていた。
しかし、運命のように感じる「同じ」ということはありふれていて日常に溢れていることを知り、後に自分たちだけが特別では無かったと痛感することになる。
同じものが多いと、少しでも違わないように相手に合わせてしまったり、相手が喜びそうな方を無意識に選んでしまうこともあるだろう。
二人は少し互いに合わせながらも同じ時を過ごすために想い合い、とてもキラキラしていて楽しくて、読んでいるこちらもワクワクした。
新しい生活の為に二人で部屋やカーテンを選ぶ。
そのどれもが未来に希望を持っていて、序盤は二人の恋愛にこちらも一緒に楽しい気持ちになれた。
音楽と本と映画
本書のポイントは「サブカルチャー」でもあるので、登場する音楽や本、そして映画にも注目していただきたい。
麦はウェブサイトでイラストを描いてワンカット千円で趣味を仕事にしていくが、この夢がどうなっていくのかもストーリーの鍵となっている。
このイラストは本書の挿絵となっている。
麦の描いた線画がサブカルチャーの世界観と馴染んでストーリーに視覚という視点から彩りを加えており、こちらも見どころである。
作中に登場するバンド「Awesome City Club」「cero」「きのこ帝国」「羊文学」などを聴きながら読むと、二人の世界観に聴覚という視点から彩りが添えられて、より二人の恋愛が素敵なものでキラキラして感じられた。
私からはこの4曲をおすすめする。
- 『Lesson』Awesome City Club
- 『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』Awesome City Club
- 『Roji』creo
- 『クロノスタシス』きのこ帝国
面白いポイントとしてもう一つが、Awesome City Clubのバンドメンバーがファミレスの店員さんとして登場することである。
ファンにとって、これほど喜ばしいことはないだろう。
本書を読んで気になった方はぜひ、音楽と一緒に楽しんでいただきたい。
また、物語の鍵となる魅力的な本と映画もたくさん登場する。
印象的だった本は、滝口悠生『茄子の輝き』と、今村夏子『あひる』。
映画だと、「ゴールデンカムイ」「希望のかなた」だ。
サブカル好きな方もそうでない方も、二人の好きなものから自分の気になるものを見つけるという楽しみ方もおすすめだ。
恋愛と結婚
二人の恋愛に焦点を戻そう。
絹と麦がその後どうなっていくのかというところだが、恋愛のその先の選択肢としては結婚という話になっていく。
「結婚して、このまま、生活続けていこ・・・・」
絹も目を潤ませていたが、首を横に振った。
「大丈夫だよ」
すれ違いながらも一緒にいようとする麦の思いに、5年間の二人の日々が思い起こされる。
実際二人がどうなっていったのかは、本書を読んで確かめていただきたい。
生活することと、夢を追うことの難しさ。
学生時代のように自由に時間が使えずすれ違っていく様子に、結婚とは生活をするためにいろいろなものを手放していかなければならないのかなと、考えさせられた。
これから結婚を考えている方にはぜひとも自分事として読んでみてほしい。
結婚は、恋愛とは別のものが得られるかもしれない。
しかし、共に生活するということは今まで通りに趣味ができなくなったり、お互いの時間がすれ違ってしまったり、「同じ」であったことが「違う」になってくる場面も増えてくる。
「違う」ことで生じた隙間を埋める努力ができるカップルが結婚を維持していけるのかなと感じた。
まとめ
映画を観に行くことができなかったのでノベライズを読んでみたが、十分に楽しめる内容だった。
自分のペースで読み進めていけるので本で映画を楽しむというのも良いなと感じた。
学生時代の恋愛から、社会人になり結婚を意識していく二人のあたたかい恋愛期間、すれ違う期間、多くの方が体験するあるあるが散りばめられている本作。
自分と重ねてぜひもう一度パートナーとの関係性を考えるきっかけに読んでみてほしい。
花はいつか枯れる。だけど枯れてしまっても、そこに美しい花が咲いていたことは忘れない。
今、恋が終わってしまった人も前向きになれるのではないだろうか。
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