『キネマの神様』原作小説あらすじと感想【目が釘付けになる映画評論バトル】

『キネマの神様』あらすじと感想【目が釘付けになる映画評論バトル】

あなたには愛してやまない映画はありますか?

人生を変えた思い出の一本に出会ったことはありますか?

これは映画鑑賞がなによりも大好きな老人と彼の娘の身に起きた、幸福な奇跡の物語です。

こんな人におすすめ!

  • むしろ、映画をあまり見たことがない人
  • 素朴で優しい言葉に勇気づけられたい人
  • 毎日鑑賞するほど、映画が大好きで仕方がない人

あらすじ・内容紹介

円山歩(まるやま あゆみ)の父、円山郷直(まるやま さとなお、以下ゴウ)は、三度の飯よりも映画とギャンブルが好きな79歳です。

心筋梗塞で緊急入院することになりましたが、その際に借金が発覚。

歩と母は「父再生計画」と称し、ギャンブル依存症から足を洗う計画を試みます。

時を同じくして、歩は17年間務めた大手企業を退職。

ゴウが作った借金と再就職の板挟みになってしまいます。

いいかげんなゴウに振り回されてばかりで、次第に疲弊してゆく母と歩。

そんな矢先に老舗出版社の映友社から再就職のスカウトを受けました。

カーネルサンダースにそっくりな「テアトル銀幕」の管理人、寺林新太郎(愛称:テラシン)

家から一歩も出ない息子を抱える「映友社」編集長、高峰好子(たかみね よしこ)。

西部劇オタクの田辺さんと大きな眼鏡が特徴的な江藤さん。

歯にもの着せぬ口ぶりの新村穣(にいむら じょう)。

彼の友人で天才ハッカー兼ブロガーの高峰興太(たかみね きょうた)。

歩の元会社の後輩、柳沢清音(やなぎさわ きよね)も加わって、ゴウの映画評論ブログを立ち上げることになるのですが……。

幾度となくゴウを助けてくれた「キネマの神様」が、崩壊寸前の家族を救うヒューマン・ドラマです。

『キネマの神様』の感想・特徴(ネタバレなし)

迷惑だけど、どこか憎めない父親

ゴウはひょうきんな老人です。

手術日の5日後でも競馬の実況中継に釘付けになり、相部屋の老人にも気を使うこともなく、看護師さんに茶々を入れていました。

それだけではありません。

内緒で突然行方をくらますこともしばしばあります。

このような父親がいたら、家族は当然迷惑します。

実際、ゴウのギャンブル癖によって多額の借金がかさんでいることを念頭に置けば、笑って済ませられる話ではありません。

それでも憎めないのは明るい人柄にあるのでしょう。

 

古くからの友人であるテラシンいわく、「インチキだけど、豪快。

ゴウが宵越しのお金を持たないどうしようもない人間であるところも含めて、割り切って愛する姿に彼の懐の広さを見て取れました。

またテラシンは「キネマの神様」という、不思議な言葉を口にします。

好きだった中国人の女の子のために、当時子供だったゴウが「映画を好きなだけ見せてくれ」と、涙ながらに祈ったときに現れたそうです。

あいわかった。いますぐはちょっと無理だけど、いつかきっと、

お前の願いはかなえてやろう。まあ、気長に待ってくれ。

神様の言動はいいかげんです。

願いが叶うまでの期間も分からないまま、その場しのぎで発言したのでしょうか。

雲の上に寝そべったまま、眠たげな声を出す姿が見えてきそうですね。

私であればうさん臭さにあきれて、さじを投げるところです。

歩の書いた評論をゴウが映友社のホームページにアップしたことがきっかけで、消極的だった2人の人生が大きく変化していきます。

映画への愛情と祈り

映画館の臨場感とは、映画というシステムがこの世に誕生すると同時に作り出された究極の演出なのである。

これは歩が書いた入社5年目の抱負です。

作品が始まるのと同時に消灯する映画館の照明。

大画面のスクリーンに映る名シーンの数々。

映画館で見ることでしか味わえない特別な幸福感。

それこそが妙味なのだと、歩は語ります。

レンタルビデオ店の発達や動画配信サービスの普及により、だれでも簡単に映画視聴ができる現代において、観客数の減少は、避けられない事実です。

町の小さな劇場が閉店してゆく中で、シネマコンプレックスなどの大きな劇場はお客様を楽しませるために、新しいシステムを導入しています。

いかにお客様に満足してもらえるか、日々工夫を凝らしているのです。

だからこそ、彼女は映画館に行くことを強く推しています。

しかしそれでも映画館が滅びないのは、

その臨場感こそが「娯楽」を追求した人類がようやく獲得した至宝だからだ。

映画館という、人類の貴重な遺産を絶やしてはならない。

歩の映画にかける情熱が一文一文からにじみ出ています。

 

当時、歩は都市部再開発プロジェクト「メトロプライム」を企てていました。

映画館の誘致のために頑張ったのは良いのですが、周りが見えておらず、職場の同僚たちから反感を買い根も葉もない噂を流されてしまったのです。

歩の評論の語り口はゴウから受け継いだものです。

口では言い合いをしていますが、そこには親子の絆が見て取れます。

「きっと、父と娘で祈ってるんですよ。キネマの神様に」

普段は減らず口を叩く新村ですが、このときばかりは真面目に褒めたのです。

口は悪くても人柄が悪いわけではないところが、彼の美点ですね。

ローズ・バッドVSゴウ!2人の映画愛がぶつかる評論バトル

英語版『キネマの神様』のWebサイトに、突如流星のごとく現れたローズ・バッド

(ローズ・バッドとは、オーソン・ウェルズ監督の映画『市民ケーン』に出てくる言葉で、「ばらのつぼみ」という意味です。)

凄腕の評論家である彼はゴウの着眼点を茶化すような書き込みを送ってきます。

それは清音に「すごい書き込み」と言わしめ、興太を興奮させ、新村を絶句させるほどのものでした。

後にライバルとなる2人の掛け合いは見逃せません。

相手が無名であることも構わず、持論を持ち出して切り込むローズ・バット。

巧みな批評に対してひるまず、作品の良い面だけをピックアップするゴウ。

苛烈な攻防戦に目が釘付けです。

『フィールド・オブ・ドリームス』の評論で、

しかし本作は野球賛歌の映画である以上に、家族愛の物語なのです。

とゴウが返せば、

私たちは永遠の父親像に、ノスタルジーとコンプレックスを感じながら、

かなわない「幻」として、いつまでも胸の中にとどめておく以外ないのだ。

とローズ・バッドがすかさず挑発します。

 

これを楽しみにサイトを訪れる人が増え、閲覧数が上がっていきます。

2人の掛け合いはいつしかキネマの神様の名物コーナーとして、英語版・日本語版とともに有名になってゆくのです。

まとめ

ゴウの文章は素朴ですが、映画への強い愛情が透けて見えます。

最初は口答えをしていた彼もライバルの登場とともに、徐々に変化していきます。

これまではギャンブル一直線でしたが、書評を書くためにネットカフェに籠城することを日課にします。

これは父と娘が親子の絆を取り戻す物語でもあるのです。

 

彼の守護神であるキネマの神様は最後に「奇跡」を起こしました。

勘のいい方であれば2人が大好きな、とある映画の結末と似ていることに気付くでしょう。

何度も繰り返し見返した思い出の作品です。

作中で取り上げられる数々の名画の中にその答えが隠されています。

物語の隅々まで読んで確かめてみてください。

読み終えたあとは良質な映画を見終わったような感覚に陥ります。

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