原田マハ。
彼女の名前を聞いて思い浮かぶのは、「楽園のカンヴァス」のような、「アートを題材にした、重厚なミステリ」でしょうか。
もしくは、「たゆたえども沈まず」のような「実在した巨匠をモチーフにした、伝奇小説」でしょうか。
アート小説はなんだか難しそう?
そんなあなたも大丈夫。
ご安心ください。
今回ご紹介するこの児童文学は、彼女の作品に初めて触れようとしているあなたにこそ、強くおすすめしたい一冊です。
『翔ぶ少女』。
両親を未曽有の大震災で喪ってしまった少女が主人公の、勇気と元気をもらえる物語です。
あらすじ・内容紹介
1995年1月17日。
明け方の近畿地方を襲った大地震。
それまで幸せに過ごしていた丹華(ニケ)たちは、一日にして両親を失いました。
まだ幼い兄の逸騎(イッキ)と妹の燦空(サンク)ともども震災孤児になってしまったのです。
彼女たちを救ったのは、医師のゼロ先生でした。
「君は、守られとぉねんぞ。女神さまに。」
彼はニケたちを、我が子同然に可愛がってくれました。
彼女の成長を通して、人の心に触れる児童文学です。
『翔ぶ少女』の感想(ネタバレ)
空を飛ぶ夢
ニケは、何度も何度も空を飛ぶ夢を見ます。
パンの匂いが香る優しい家の中で、彼女は悠々と空を泳いでいました。
大丈夫、飛べるって。こうしてな、うーーーんと、上に、うーーーんと、力いっぱい、飛び上がるねん。
彼女の名前はサモトラケのニケ。
勝利の女神から授かった名前です。
学校では居場所のないニケですが、ゼロ先生をはじめとする心優しい大人たちに囲まれ、勉学を極めることを決め込みます。
一生懸命勉強して、ゼロ先生やゆい姉のような立派な大人になりたい。
彼女のひたむきな思いが、運命を変える行動に繋がってゆくのです。
「こころ」と「からだ」
心と体について興味を持ったニケとサンクは、人間の心はどこにあるのかを探すようになります。
サンクが言った、「死んだお母ちゃんのことを考えると、胸のへんがしくしくする。それって、心が泣いてるということなんやろ?」という言葉は、ニケに衝撃を与えました。
彼女が亡くなった両親のことや、兄姉のことを思いやっていたことを知ったニケは、当時そこまで妹を気遣ってあげることが出来なかったことを後悔します。
燦空もまた、母のことを思い出して、小さな胸を痛めていた。心が泣いていたのだ。
ニケの背中
ニケは、たびたび肩甲骨に鋭い痛みを覚えるようになります。
感情が高ぶるたびに、背中がズキズキと痛むのです。
まるで、かつて彼女が何度も夢を見たように、体が大空を飛ぶ準備をしているかのようでした。
誰かを愛しいと思った時。
初恋の男の子のことを思い出した時、決まってニケの背中は、背中に翼が生えているかのように疼くのでした。
ずきん、と肩甲骨がうずいた。それは、心の動きにつながっているようだった。
まとめ
心優しい少女ニケは、この後命の恩人であるゼロ先生のために、一度きりの奇跡を起こします。
実際にはありえない話かもしれません。
しかし、女神の名をもつ彼女なら、運命を変えてしまうことぐらい平気でできそうな気がします。
この本を読み終えたら、『カフーを待ちわびて』『生きる僕ら』『旅屋おかえり』を読むことをおすすめします。
主題歌:GReeeeN/イカロス
後になって「空も飛べるはず」を思い出しましたが、今回選んだのはGReeeeNの「イカロス」です。
空を飛ぶことを夢見た一人の青年が、背中に翼を付けて大空を飛んだ瞬間を描いた楽曲ですが、イカロスが海へ落ちてしまったところではなく、彼が起こした勇気と奇跡の方に焦点を当てています。
人々から笑いものにされていた点は、ニケと変わりません。
奇跡を起こしたことも一緒です。
彼の一生と照らし合わせながら、楽しんでいただけると嬉しいです。
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