あらすじ
パリのセーヌ河畔の船上で悩める人々に本を“処方”する書店主ペルデュ。
彼はある古い手紙をきっかけに、自らの心の傷を治す船出を決意する。
目指すはプロヴァンス、かつて愛したあの人の故郷――
フランス各地の美しい川と町を舞台に、澱んでいた人生が動き始める。
37か国で出版、世界150万人が涙した大ヒット作品
(本書の帯より)
セーヌ川の書店主の感想(ネタバレ)
セーヌ川に係留された船を改造して作った書店――本好きにとっては、もうそれだけでワクワクしてしまう設定ではないでしょうか?
その書店主の50歳の男性ジャン・ペルデュが、この物語の主人公です。
20年前に手紙を残して去った恋人との思い出の詰まった部屋の扉を、本棚で封鎖して暮らしていました。
あるきっかけからその部屋を開けることになり、そして20年間読まずにいた手紙を読むことになります。
恋人に去られた側の意地で手紙を読まなかったことを後悔しつつ、手紙の内容に衝撃を受けたペルデュは、かつての恋人の故郷を目指し、船でセーヌ川を南へ向かおうと決心しました。
8000冊もの本を積んだその船にはキッチンやベッドもついていて、ピアノがあり、猫も2匹います。
ペルデュの他にスランプ中の作家マックス・ジョルダンも同乗し、川沿いのいろいろな街に寄りながら、船は南へ進み、そこで人との出会いや別れを経て、ペルデュの心は癒やされてゆきます。
「訳者あとがき」にもあるように、この物語はいろいろな読み方ができます。
旅行ガイド、読書ガイド、恋愛小説、生と死と再生の物語、人生の書。
オーソドックスなのは「恋愛小説」だと思いますが、私個人的には主人公の再生の物語として読むのが好きです。
また、「本」とはどういうものか、含蓄に富んだ文章が随所にあって、そこもこの物語の大きな魅力だと思いました。
一部を紹介すると、
馬鹿なことをしないよう、本があなたを守ってくれる。偽の希望からも、不実な男たちからもね。本は愛を強さと知で内面を補強して、内側からあなたを守る。本は内なる人生だ。選ぶのはあなたですよ。
本屋は本が自己表現のための、世界を変革し暴君を失脚させるための、まだ極めて新しい手段であることを肝に銘じている。
ペルデュが本に見るのは、物語や店頭売りの正価や魂を癒やす働きだけではない。神の翼を生やした自由を見るのだ。
といった箇所です。
ペルデュたちが立ち寄る街の風景や食べ物、ペルデュがお客さんに「処方」する本を楽しむも良し(巻末に料理のレシピとブックガイドがついています)、恋愛や人生に思いをはせながら読むも良しです。
私の心に残ったのは、
別れと新しい始まりの移行期間を過小評価してはだめ。十分時間を取ってね。間が広すぎて、一歩ではまたげないこともよくあるから
なんということもなく暮らしているうちに、ふいにその時が訪れた。内なる何かがさらなる一歩を踏み出す瞬間が。
夢の意味を知りたければ、水上を南へ向かえ、とサナリーの本にある。そこで自分を再発見できるとね。しかしそのためには途中で迷う必要がある。それも完全に。愛に迷い、憧れに迷い、不安に迷う。南についたら海鳴りに耳をすませる。そうすれば笑う声と泣く声が混じり合って聞こえるだろう。そして幸福になるために、魂はときに泣かねばならないことを理解するだろう。
単行本で400ページ近くあるこの物語は実に豊かです。
それはポジティブな物事ばかりではなく、後悔や不安、悲しみなども含まれていて、だからこそ、読む人の心に深く届くのでしょう。
ペルデュの心の深い傷が少しずつ、丁寧な描写で癒されてゆく過程に、作者の人間を見つめる目のあたたかさを感じます。
だからこそ苦難を乗り越えようとするペルデュたちから目が離せず、最後まで見届けたくなるのでしょう。
結末は知りたいけれど、いつまでも読んでいたいような感覚。
多くの国でベストセラーになるのも納得!です。
この物語を、ぜひ多くの人に味わっていただきたいと思いました。
主題歌:ピエール・バルー ニコール・クロワジール/男と女
この物語に合う音楽として真っ先に思い浮かんだのが、映画「男と女」のテーマソングで有名な、ピエール・バルーとニコール・クロワジールの歌う「男と女」でした。
ゆったりとした曲調がぴったりだと思います。
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