『氷菓』原作小説あらすじと感想【省エネ男子高生が謎解く古典部シリーズ第1作目】

『氷菓』あらすじと感想【省エネ男子高生が謎解く古典部シリーズ第1作目】

ミステリー作家である米澤穂信さんの『氷菓』は高校を舞台にした「古典部シリーズ」として知られる連作作品だ。

すでにアニメ化もされており、小説を飛び出し、画面上で生き生きと動くキャラクターたちに心和まされたことを覚えている。

この記事では、シリーズ第1作目の『氷菓』について、その魅力を紹介していきたい。

こんな人におすすめ!

  • 学園ミステリーが好きな人
  • アニメ『氷菓』に興味がある人
  • 熱中できる趣味がないと感じている人

あらすじ・内容紹介

前略 わたしはいまべレナスにいます(……)ちょっと遅れたけど、高校合格おめでとう。結局、神山高校だってね。面白味のない選択だけど、まあとにかくおめでとう。無事高校生になったあんたに、姉として一つアドバイスをしてあげる。古典部に入りなさい

主人公はこの春、高校1年生になったばかりの折木奉太郎(おりき ほうたろう)だ。

折木は「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」という「省エネ主義」を掲げており、精神的にも体力的にも、「浪費」を嫌う性格である。

そんな折木のもとにある日、「廃部寸前の古典部を救え」という姉からの手紙が届く。

「古典部」に入ることにした折木は、入部届けを提出しに行った教室で、千反田える(ちたんだ える)という美しい少女に出会う。

彼女もまた、古典部への入部を希望する高校1年生であり、好奇心を掻き立てる何かに遭遇すると周りをも巻き込んで暴走するという一面をもつ少女だった。

折木の幼馴染である福部里志(ふくべ さとし)と伊原摩耶花(いはら まやか)も加わり、4名となった古典部。

やがて折木たちは千反田の好奇心に引きずられるようにして、学園生活にまつわる様々なミステリーに遭遇する。

ついにそれは『氷菓』をめぐる大きな謎へと発展してゆく。

『氷菓』の感想・特徴(ネタバレなし)

存在感の濃いキャラクター造形

作品の魅力1点目は、存在感の濃い、豊かなキャラクター造形にある。

たとえば、ヒロインの千反田える

入部届けを提出しに行った先の教室で、夕陽を背にして窓辺に立つ美少女に折木は出会う。

真新しいセーラー服、長い黒髪、薄いくちびる、線の細い体つき、並外れて大きな瞳。

しかし、楚々とした見た目の一方で、千反田には、次の引用のような好奇心旺盛な一面もある。

最初に俺は千反田を清楚とか言ったか。とんでもない、それは単に第一印象だ、風貌の形容だ。俺は悟った、こいつの本性を一番あらわしているのは目だ。全体の印象に似合わず大きく活発そうな目。その目が千反田えるの本性だ。気になる。その一言で桁上がりの四名家のお嬢様は好奇心の申し子になってしまったようだ

それに加えて、抜群の記憶力をもち、眉目秀麗である一方、感情表現がストレートで、言葉に詰まると助けを求めておろおろと狼狽えるなど、世のオタク系男子のハートを鷲掴みする要素がふんだんに搭載されている(その魅力はアニメ版で存分に発揮されている)。

その他の主な登場人物は、「データーベースは結論を出せないんだ」という台詞が口癖の福部里志

折木と福部の幼馴染であり、福部に思いを寄せる努力型秀才ツンデレ図書委員伊原摩耶花。

彼らの三者三様の性格も、物語の魅力となっている。

また、物語の序盤で口調や性格などのキャラクター設定が細かく書かれているため、中盤の複数人での会話の場面も、その都度「~は言った」という説明がなくても、誰の発言かがすぐにわかり、テンポよく読める。

アニメの第1話もチェックしたが、映像が愛くるしく、初回から『氷菓』以外のエピソードが盛り込まれており、シリーズを完読していない読者でも楽しめる作品となっているので、アニメ好きの方にもぜひおすすめしたい作品だ。

学園が舞台の青春ミステリー

『きっと十年後、この毎日のことを惜しまない』

続いての魅力は、作中で描かれる高校生活の鮮やかさだ。

定期試験に委員会、学校新聞に部活動。

放課後の下駄箱で交わす友人との別れの挨拶。

夏休み。

そして、文化部にとっての一大イベント――「文化祭」

今、学生生活を送っている人も、すでに卒業して時間が経つ人も、彼らの「青春」を通して、読後、きっと「今」という自分の時間について考えるはずだ

また、高校生である彼らにとっての謎は、もちろん学校が舞台である

教室の施錠事件や、上級生の隠し事をめぐる謎解き、図書室の貸し出しカードの謎。

事件は些細なものから、少しずつ確信めいたものに変わり、最終的には千反田と『氷菓』をめぐる謎に辿り着く。

これら謎を解くのは、常に無気力の省エネ主義者、折木奉太郎だ。

これまで何事にも無関心を貫いてきた彼の作品における変化も、考えさせられるポイントのひとつである。

十年後。所詮ただの人間の俺にしてみれば、霞んでしまうほどの未来だ。俺はその時、二十五歳になっている。二十五歳の俺は十年前をどう振り返ってるだろう。何かをやり抜いたと思うことができるだろうか

折木奉太郎と「省エネ主義」

上澄みでも澱でもないところに、俺はいる。上昇も下降もしたことがない(……)高校生活といえば薔薇色だ。そして薔薇は、咲く場所を得てこそ薔薇色になるというもの。俺は適した土壌じゃない。それだけのことだ

自身を「灰色」だと感じる折木の、この痛烈な自虐。

おそらく程度の差こそあるものの、高校生活の中で誰でも一度はこの息が詰まるような感情を経験したことがあるだろう

勉強、部活動、趣味、バイト、恋愛に励む周囲のクラスメイトたちが輝いて見えて仕方ない。

みんなのように自分も何かしたい。

焦りだけが先走り、気づけば何となく周囲から浮いている気がする。

つまらない奴には見られたくない。

明るい人間のふりをして、必死に取り繕い、ある日突然気がつく。

――自分には何も、ない。

お前らを見てると、たまに落ちつかなくなる。俺は落ち着きたい。だがそれでも俺は、なにも面白いとは思えない

という折木の発言は、どこか心に刺さるものがある。

もしくは、雑学王者である福部里志の器用貧乏さ

彼もまた、自身の何かを必死で埋めるべく、様々な活動に手を出しているようにもみえる。

折木よりも、福部の方に共感する読者も、きっといるはずだ。

やがて、作中を通じて、折木は少しずつ変わってゆく。

それは彼のとある発言を見ても、恋愛感情をベースにはしていない。

俺は腹を立てない性分だ、だが俺は猛烈にいま苛立ちを感じた(……)メッセージを誰も受け取れなかったというのか。この、下らないメッセージを、受け取るべき俺たちが受け取っていない。そこに俺は腹がたった

きっと折木は熱くなれる何かを探しているのだ。

省エネ主義を通じて、貯めにため込んだエネルギーをすべてぶつけられるような、何かを。

そしてたまたま彼にとっては、「謎解き」が得意だと思える何かだったのだろう。

そんな折木の今後が、とても楽しみだと思える第1作目だった。

まとめ

青春は、何も部活や恋愛だけがすべてではない。

何かひとつ、大人になった自分に繋がるものを見つけられたら、それで十分だ。

折木はきっと、そんなふうに将来の自分に誇れる何かを探しているのだと思う。

そして読者も、折木を通して、もしかしたら自分の何かに気が付くかもしれない。

『氷菓』は200ページ弱の小説なので、アニメを見る前に一読しておくと、作品をより楽しめる。

興味をもった方はぜひお手にとってみて欲しい。

読み終えた頃にはきっと、次の第2作目が待ち遠しくなっているはずだ。

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