元精神科医の〈降旗弘(ふるはた ひろむ)〉を悩ませるとある悪夢。
〈積み重なった髑髏の前で、大勢の男女が性行している〉という彼の夢は、何を意味するのか。
一方で釣り堀〈いさま屋〉を営む、釣り好きの朴念仁〈伊佐間一成(いさま かずなり)〉は逗子の海岸で、海に向けて花を手向ける女性、〈朱美(あけみ)〉と出会う。
〈人を殺したことがある〉という彼女の告白に、翻弄される伊佐間。
そして、うだつの上がらない小説家の〈関口巽(せきぐち たつみ)〉は幻想小説の大家〈宇多川崇(うたがわ たかし)〉から、妻〈宇多川朱美(うたがわ あけみ)〉の様子がおかしいという相談を受ける。
何度も夫を手にかけたという彼女の言葉は、真実か、妄想か。
様々な謎が錯綜する中で、逗子の海に浮かぶ〈金色の髑髏〉と、各所で目撃される〈復員服の男〉の存在が、一同をさらなる混乱へと導く。
永き刻を経た新たな謎に、京極堂が挑む‼︎
こんな人におすすめ!
- 妖怪が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
- 「百鬼夜行シリーズ」が好きな人
あらすじ・内容紹介
釣り堀〈いさま屋〉を営む、飄々とした釣り好き〈伊佐間一成〉は、釣りのために出かけた逗子の海岸で、海に向かって花を手向ける不思議な女性、〈朱美〉と出会う。
〈人を殺したことがある〉という彼女の発言に混乱を余儀なくされる伊佐間。
一方で元精神科医の〈降旗弘〉は、幼少期からとある悪夢に悩まされていた。
〈積み上げられた無数の髑髏の前で、大勢の男女が性行をしている〉というその夢の意味を求めて精神神経医学を学んだ彼は、しかし逆に激しい自己嫌悪に陥り、フロイトに激しい憎しみを募らせていく。
そんな彼の居候を許す〈飯島基督教会〉の牧師、〈白丘亮一(しらおか りょういち)〉もまた、少年期のトラウマを引きずり、〈髑髏〉と〈神主〉に対して極度の恐怖心を抱いている。
そんな2人の元に訪れた女性〈宇多川朱美〉は、夫を幾度となく手にかけたと告白する。
奇怪な告白を受け、降旗と白丘は激しく惑乱することになる。
そしてうだつの上がらない陰気な小説家〈関口巽〉は、幻想小説界の大御所〈宇多川崇〉から、妻の様子がおかしいと相談を受ける。
彼の人柄に惹かれ相談を引き受けた関口だが、行動を起こすよりも前に宇多川崇は何者かに殺害されてしまう。
更に、逗子湾に浮かぶ〈金色の髑髏〉や葉山の山中で起こった〈男女集団自決事件〉の謎も絡まり、それぞれの事件は複雑な様相を呈して重なってゆく。
永き刻を経た謎に京極堂が挑む、「百鬼夜行シリーズ」の第3弾‼︎
『狂骨の夢』の感想・特徴(ネタバレなし)
新キャラ登場!
数々の特徴的なキャラクターが登場する「百鬼夜行シリーズ」。
今作では、後々の作品にも顔を見せることになる、謂わば〈準レギュラー〉的なキャラクター達が登場する。
幼少期から〈大勢の男女が、積み上げられた髑髏の前で性行している〉という悪夢に悩まされる元精神科医、〈降旗弘〉。
彼は悪夢から逃れるため精神神経医学の世界へ傾倒し、しかし学べば学ぶほど自らの内面の醜さに絶望していった過去を持つ。
そんな彼はまた、「百鬼夜行シリーズ」のメインキャラクターである〈木場修太郎(きば しゅうたろう)〉や〈榎木津礼二郎(えのきず れいじろう)〉たちと共に過ごしてもいる。
そんな彼が物語にどのように関わってくるのかは、要注目だ。
また、前作『魍魎の匣』に少しだけ登場した釣り堀〈いさま屋〉の店主、〈伊佐間一成〉も、今作では物語の本筋にしっかりと関わってくる。
飄々として物事に動じることが少ない彼の独特な語り口は、読み続けるうちにクセになる魅力を放つ。
是非とも、新しいキャラクター達の活躍を楽しんで欲しい。
前作からのキャラクターも、大暴れ!
勿論、前作からのキャラクター達の活躍も見逃せない。
うだつの上がらない小説家、〈関口巽〉と幻想小説界の大御所〈宇多川崇〉の会話は、これまでにないタイプのものだ。
基本的に他者から高く評価されることのない関口が、宇多川崇という大物からの高評価を受けてしどろもどろする姿や、他者にシンプルな〈好感〉を覚えて力になろうとする様子は、これまでに見せたことのない関口の新たな一面を垣間見ることができる。
また、常に奔放な振る舞いを見せる〈榎木津礼二郎〉の奔放ぶりも、更に磨きが掛かっている。
口を開けば名言か迷言ばかりの榎木津の活躍は、陰気な空気感が漂う「百鬼夜行シリーズ」の中での清涼剤ともいえるだろう。
その他にも、前作『魍魎の匣』で〈木場修太郎〉に振り回された挙句、左遷の憂き目にあった警部、〈石井寛爾(いしい かんじ)〉と木場の和解が描かれるなど、「百鬼夜行シリーズ」を追ってきたファンも当然楽しめるようになっているため、全てのキャラクターから目が離せない作品となっている。
京極堂が、死者を呼び起こす
そして「百鬼夜行シリーズ」の1番の見どころといえば、京極堂こと〈中禅寺秋彦〉による〈憑物落とし〉だろう。
何度も夫を殺した〈朱美〉と、宇多川崇の死。
降旗を苦しめ続ける悪夢と、連続男女自決事件。
そして、〈金色の髑髏〉と〈復員服の男〉。
一見すると何の関係もない事件達を結びつけ、京極堂の憑物落としが行われていく。
全てが終わる時、〈死者が蘇る〉と言い放つ京極堂の真意はどこにあるのか。
彼の憑物落としは、毎回最高のカタルシスを得ることができる。
1度読み始めると、きっと読む手を止めることができなくなるだろう。
まとめ
「百鬼夜行シリーズ」の第3作目である今作。
物語中に散りばめられた様々な謎と、それを解き明かしていく京極堂の〈憑物落とし〉の魅力は、今作においても健在だ。
更に、後々のシリーズで準レギュラー化していくキャラクターの登場や、前作のキャラクター達の大暴れなど、様々な見どころに溢れる作品なので、京極夏彦氏のファンであれば、是非とも1度読んでみて欲しい作品だ。
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