目次
いしいしんじ『ぶらんこ乗り』
いしいしんじの話は夜の匂いがする。
作り話が上手で利発、サーカスのぶらんこ乗りに憧れていた弟。
今はもういない彼の思い出を、高校生になった姉が回想する話。
残酷なこととどうしようもないこと、綺麗なことと汚いことがマーブル模様に混ざり合った浮遊感のある読み心地。
弟はある出来事が原因で声を出せなくなり、優しく大好きだった両親は悲劇に見舞われる。
圧倒的な孤独の中、弟はノートに作り話を書き溜めることで、中空のぶらんこ乗りが必死に手を伸ばすようにこちら側の世界に留まろうとしていた。
ひらがなに崩した文体は童話仕立てで優しく温かいのに、諦念めいた喪失感が通奏低音のように漂っていて胸にずしんとくる。
「あの子」が時をこえて姉の前に姿を現すラストシーンは涙がこみあげてきた。
『ぶらんこ乗り』の基本情報 | |
出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2004/07/28 |
ページ数 | 272ページ |
発行形態 | 単行本、文庫 |
おわりに
以上、珠玉の泣ける小説を10冊紹介した。
個人的な好みもあるが、「絶対泣ける!」と前面に出されるよりは、ミステリーやSFの構成上に人間の葛藤や心の機微を落とし込んでエンターテイメントに仕上げた作品の方がぐっときた。
泣けると一口に言っても内わけは多岐に渡り、夫婦愛・親子愛・友情・別れ、どの要素が琴線に響くかはあなた次第。
気になった本はぜひ手にとってほしい。
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