SF小説おすすめ15選【来るべき未来の予想図!5ジャンルに分けて紹介】

SF小説のSF(サイエンス・フィクション)とは、世界初のSF雑誌〈アメージング・ストーリーズ〉の初代編集長、ヒューゴー・ガーンズバッグによって提唱された概念だ。

ただし、〈SF〉という言葉が生まれるより以前からSFテイストの作品は存在しており、その歴史はなんと2世紀に遡ることが出来るほど。

読んで字のごとく〈空想科学〉をメインテーマに据えたこのジャンルでは、仮想技術による戦争や時間旅行、電脳世界などが描かれることが多い。

本記事では様々なSF小説の中から、おすすめの作品をジャンルごとに分けて紹介する。

ちなみに、海外SFと日本SFをそれぞれ紹介するが、海外SFは登場人物の名前や訳の都合から状況のイメージを掴み辛い可能性がある。

その為、SFを読み慣れてない読者の方は日本製から読むことをおすすめする。

胸躍る大冒険〈スペクタクル〉系のSF小説

近未来世界で、架空の武器を手に繰り広げる壮大な大冒険。

迫りくる敵はロボットかAIか、それとも人間か。

ここでは、最も分かりやすいジャンルであろう〈スペクタクル〉系の作品を紹介する。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』フィリップ・K・ディック

言わずと知れた、SF小説の名作。

1982年に『ブレードランナー』のタイトルで映画化もされ、2017年には『ブレードランナー2049』として続編も制作されている。

主人公の賞金稼ぎ〈リック・デッカード〉が、火星から逃亡した8体のアンドロイドを処分する為に追う、という分かりやすいストーリー展開。

今作で描かれる、〈自然が壊滅的なダメージを受けているが故、虫の一匹すらも厳重に保護されている〉、〈その為、生きている動物を飼うのは一種の社会的ステータスとなっている〉、などの独創的な設定はディック作品ならでは。

しかし、分かり易い展開や独創的な未来世界を舞台に〈人間と同じく感情を持つ機械/アンドロイド〉の存在を通して描かれるテーマは、〈人間とアンドロイドの違いは何処にあるのか?〉という、哲学的な領域に突入している。

分かり易い展開ながら、〈THE SF小説〉という味わいの作品なので、海外SFの入門書として是非手に取ってみて欲しい作品だ。

また、映画『ブレードランナー』とはかなり展開が異なっているので、映画を観てから違いを探してみるのも面白いかも知れない。

『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン

〈サイバーパンク〉の起源たる、ウィリアム・ギブスンの長編SF小説。

巨大な電脳ネットワークが張り巡らされ、〈財閥〉と〈ヤクザ〉が経済を牛耳る未来社会で、主人公の〈ケイス〉が失った〈電脳空間の接続〉の能力を取り戻すため、危険な匂いのする仕事を請け負う、というストーリー。

インターネットの黎明期に既に、脳を〈電脳空間(サイバースペース)〉に接続する、というアイデアを登場させており、非常に時代を先取りしている。

また、〈人体に機械を埋め込んだ、戦闘用の肉体改造〉や〈個人の人格を記憶したカセット〉などのガジェットも充実しており、発表から40年近く経過した現代でも〈未来〉を感じさせる。

そんな〈未来〉を思わせる情報が、息も付かせぬペースで流れ込んでくるため、酩酊感の様な不思議な感覚を味わえる、異様に濃い酒の様な作品となっている。

情報量が多く非常に難解な作品ではあるが、要所要所で単語を調べながら、少しずつでも読んでみて欲しい。

きっと、内容に理解出来ない部分があっても尚、なんとも言えないサッパリとした読後感を味わえるはず。

余談だが、経済を牛耳る財閥の代表格が〈三菱(ミツビシ)〉であったり、物語の始まる土地が〈千葉(チバ)〉であったりと、当時の日本の立ち位置が垣間見える面白さもある。

『ルー=ガルー 忌避すべき狼/インクブス・インプス 相容れぬ夢魔』京極夏彦

『百鬼夜行シリーズ』や『巷説百物語』でお馴染みの京極夏彦氏による、近未来SF小説。

ヒトとヒトとが、〈端末(たんまつ)〉を通して繋がることが当たり前となり、〈物理接触(リアルコミュニケーション)〉が希薄となった近未来を舞台に起こる陰惨な事件と、事件の黒幕に抗う少女たちの戦いを描いている。

京極夏彦氏と言えば、『百鬼夜行シリーズ』では戦後間もない昭和の世、『巷説百物語シリーズ』では江戸時代末期、という〈過去〉を舞台にした作品が多い印象を抱きがちかも知れない。

そんな彼が描く近未来の設定の数々は、なんと読者投稿を元に築かれている。

息苦しさを覚えつつも安全なはずの社会や、そこで起こる陰惨な殺人事件。

そして、個性豊かな少女たちが事件に挑んでいく様子など、見所は多い。

特にラストバトルでは、それまでの空気感が重苦しかったが故に、大きなカタルシスを得られるはずだ。

加えてこの『ルー=ガルー』シリーズは、『百鬼夜行シリーズ』の世界観とも繋がっている。

そのため、今作を読んでおくことで、氏の別作品もより楽しめる様になる筈だ。

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『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』朱川湊人

恐らく、日本で1番有名なSF作品とは『ウルトラマンシリーズ』なのでは無いだろうか。

攻めてくる宇宙人や怪獣と、そんな脅威から幾度となく地球を守るヒーロー〈ウルトラマン〉の活躍に、心躍らせた人は少なくは無いはずだ。

描かれる世界は未来技術に溢れていて、まさしくSF、〈空想科学〉の名の通りなのである。

今作は、そんなウルトラマンシリーズの中でも、初代ウルトラマンから始まる所謂〈M78星雲〉時空の完結編とも呼べる、『ウルトラマンメビウス』のノベライズ。

著者である直木賞作家の朱川湊人氏は、メビウス本編でも脚本を手掛けていた。

そんな氏が描いた今作は、宇宙人と地球人の出会い、すれ違い、戦い、そして歩み寄りなど、『ウルトラマンシリーズ』の根底に通じるテーマが端正な文章で描かれており、単なるテレビ番組のノベライズに止まるものではない。

SFというジャンルの入り口として、是非多くの人の手に渡って欲しい作品だ。

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悪夢の未来社会〈ディストピア〉系のSF小説

人の自由意志が、未来永劫尊重される保証など何処にもない。

例えば言葉を、例えば知識を、例えば歴史を封じることで人々を監視し閉じ込める地獄郷は、起こり得る未来なのかもしれない。

ここでは、そんな恐怖の未来社会を描いた〈ディストピア〉系の作品を紹介する。

『一九八四年』ジョージ・オーウェル

言わずと知れた、ディストピア小説の名著。

〈史上最高の文学100〉にも選ばれており、政治的、思想的にも非常に示唆に富んだ小説となっている(因みに、ロイターが英国人1342人からアンケートを取った結果、最も読んだふりをしたことがある人が多い作品であることも分かった)。

〈テレスクリーン〉なる監視システムや〈日記をつける〉ことすら死罪になる異様な法律、隣人は疎か、家族すらも密告を疑い合う相互監視社会など、兎にも角にも悍ましい未来社会が描かれている。

作中に漂う、先進的で有りながら退廃的な雰囲気は、刺さる人には刺さる独特の魅力に溢れている。

特に、語義を一義的にすることで思考の幅を狭める〈ニュースピーク〉と呼ばれる架空の言語や、矛盾する事実をどちらも違和感なく信じる〈二重思考(ダブルシンク)〉なる思考法は、1つの発明であろう(実際にはもっと複雑なのだが、それは実際に読んで確認して欲しい)。

これらの発明は数々のSF作品にも大きな影響を残しており、一読しておけば他の作品も、より楽しめる筈だ。

余談だが、堅そうな内容から敬遠されがちでもある今作、新訳版は訳者の高橋和久氏の力によって、文章は意外と読み易くなっている。

娯楽として読む分には丁度いいボリュームなので、〈勉強しよう〉といったことはあまり考えず、肩の力を抜いて読む方がおすすめだ。

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『蝿の王』ウィリアム・ゴールディング

少年たちが、疎開のために乗っていた飛行機が、無人島に墜落するところから始まる今作は、〈子供達だけの空間〉という、ともすれば牧歌的とも言えるシチュエーションからは予想出来ない、壮絶な地獄絵図が描かれる作品だ。

近未来的なガジェットは登場しないが、閉鎖的且つ独特の世界観を描いている点から、SF小説として挙げさせて頂いた。

大人という〈絶対者〉から解放された少年たちが、最初は大人を模倣して〈秩序〉を作り上げていく様子や、しかし秩序が永くは保たれず、結果として悪夢のような共同体の崩壊と、血みどろの殺し合いへと発展してゆく様は圧巻の一言。

政治や宗教、イデオロギーに染まりきってはいない筈の少年たちを主役に据えて、それらの成長を描いたゴールディングの意図が何処にあったのか。

そんなことに想いを馳せながら読むことで、何度読んでも楽しめる作品だ。

また、本書には〈新約聖書〉のオマージュであろうシーンも存在する。

そのため、さわりだけでも聖書のストーリーを把握しておくと、より楽しめるかもしれない。

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『新世界より』貴志祐介

『黒い家』や『硝子のハンマー』など、見事なホラー、ミステリー小説を生み出し続ける貴志祐介氏による、1000年後の未来を舞台としたSF小説。

人間は〈呪力〉と呼ばれる特殊な念力の能力を手にしており、それによって〈バケネズミ〉と呼ばれる醜怪な生物を従えて生活している。

1000年後という遥かな未来で、人類は特殊な能力を持っているにも関わらず、文明的には退行しているアンバランスさが非常に薄気味悪く、その不気味さが魅力的な作品となっている。

特にかつて東京であった土地などは、文明の名残を見せながらも徹底的に破壊されており、そこに未来人が足を踏み入れるシチュエーションなどは、〈滅んだ文明〉の儚さを味わえる美しい情景ではなかろうか。

また登場人物たちが暮らす社会も、一見して優しさに溢れていながら、〈悪鬼〉や〈業魔〉といった不穏な単語が行き交っている。

それについて大人達が隠蔽を図る様が描写されていることからも、単なる理想社会ではないことが察せられ、不穏さを引き立てる。

かつて人類に何が起こったのか。

今の人類が、何処に向かって行こうとするのか。

やがて起こる決定的な対立を通して明らかになる真実は、非常に悍ましく、読んでいて気分が悪くなる。

しかし、それでも読むことを止められない程の魅力に溢れた作品なので、敬遠せずにまずは一度、読んでみて欲しい。

アニメ化もされているので、退廃的な情景を映像で楽しみたい人は、そちらもおすすめ。

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『ハーモニー』伊藤計劃

夭折の作家、伊藤計劃氏によるユートピアの臨界点を描いたSF小説。

あらゆる病が駆逐され、人々は自らだけでなく隣人の健康までも気遣う、〈優しさ〉に満ち溢れた社会と、それを破壊しようとするテロリストとの戦いを描いている。

過去に起こった〈大災禍〉と呼ばれる虐殺の歴史から、反動によって〈優しさ〉に満ち溢れた世界。

それは文字通りの理想郷である筈なのだが、今作においてその理想郷は全く魅力的に描かれていない。

カフェインの中毒性から、珈琲を嗜むことすらも自粛を迫る社会は、それが〈善意〉から来ているからこそ、悍ましく疎ましいのではないだろうか。

そして、そんな社会を破壊しようとするテロリストの手口もまた、独特だ。

不特定多数の人物を、全世界で同時に自殺させるというやり方は、古今東西の作品を見渡してもそう多くは無いと思われる。

そんなテロリストの正体と目的を追っていく〈スペクタクル〉要素と、優しさばかりが際立つユートピアの歪さを楽しめる〈ディストピア〉要素の、2つの要素が楽しめる作品だ。

また、テロリストを追っていく過程で〈人間の意識〉の本質を探っていく、哲学的な要素も含んでいるため、思索に耽るのが好きな人はそういった楽しみ方もできる。

後述する『虐殺器官』とも密接な関わりがあるので、あわせて読むことをおすすめする。

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人類の永遠の夢〈タイムトラベル〉系のSF小説

未来を知ることが出来たら、人は何をするだろう。

悲劇の回避か、それとも我欲を満たすか、それとも預言者を気取るのか。

或いは、過去を変えることが出来るとすれば…?

時間旅行は、人類の永遠の夢であろう。

ここでは、そんな〈タイムトラベル〉系の作品を紹介する。

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン

タイムトラベル作品の定番である、〈過去の自分自身との邂逅の可否〉や〈タイムパラドックス〉、〈歴史修正の是非〉などの諸問題を扱った作品の中でも、初期に描かれた1冊。

〈デロリアン〉で有名な彼の名作映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の元ネタになった作品でもある。

友人や婚約者に裏切られ惨憺たるものとなった自らの人生を救うため、タイムマシンで一か八かのギャンブルに出るストーリー構成は、起承転結に無駄がなく非常に美しい。

また、物語の展開もロマンチックなものとなっており、序盤の悲惨さからは想像もできない爽やかな読後感を味わえる作品だ。

また、作中で描かれる未来技術も見逃せない。

物語の要となる〈タイムマシン〉の他にも、1970年時点で実用化されているという〈人工冬眠技術〉や〈家庭用ロボット〉、CADに酷似した〈製図用タイプライター〉(今作の発表が1957年で、CADの原型となる〈Sketchpad〉の開発が1963年であることを考えると、如何に時代を先取りしていたかが分かる)が登場している。

それらが全て、単に〈未来っぽさ〉を出すための置物ではなく、其々が現実的にどう扱われるかまで丁寧に描写されており、物語の世界観を確固たるものにしている。

2021年には、映画の公開も予定されているが、コロナで公開日が不透明になりがちな昨今である。

先に原作小説を読んでおき、予習しておくのもまた一興ではなかろうか。

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『戦国自衛隊』反村良

〈戦国時代の侍と現代の自衛隊が戦ったら、どちらが勝つのか〉を、武器の特性や戦術的な知見から真面目に分析した、日本の〈タイムトラベル〉小説の金字塔的な作品であり、〈架空戦記〉系作品の、元祖とも言える作品でもある。

戦車や自動小銃のような近代兵器という、圧倒的な火力を持ちながらも〈補給〉という点に難のある近代兵器と、弓矢や日本刀といった、火力は低いながらも過去において補給は容易にできる兵器。

更に、過去の戦術と現代戦術の戦いなど、〈架空戦記〉モノとしての気になるポイントは全て抑えており、完成度は群を抜いている。

また戦闘以外の部分でも、例えば過去に飛ばされた人間の葛藤やタイムパラドックスの存在、歴史の修正能力に関する話題も要所要所で描写されており、タイムトラベル作品として、非常に美しい構造。

ストーリー展開が分かり易く、文体も堅過ぎないため、タイムトラベル作品の入門編として、強くおすすめできる1冊だ。

人間の消えない業〈戦争〉がテーマのSF小説

『変種第二号(中・短編集)』フィリップ・K・ディック

前述した『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の著者、フィリップ・K・ディックによる、〈戦争〉をテーマとした中・短編集。

未来に起こる戦争の凄惨さを目の当たりにしながら、その現実から目を背ける人間の弱さを描いた『たそがれの朝食』や、人間と区別のつかない機械との終わりなき戦いを描いた表題作『変種第二号』の他、登場人物たちの焦り具合が妙に滑稽なお馬鹿SF『戦利船』など、様々な味わいの作品が収録されている。

中・短編集であるため、気軽に読める作品が多く、海外の長編SFが苦手という人は今作から読み進めると、海外SFの魅力的な部分に気付きやすいかも知れない。

また、ディック作品は1つのアイディアが複数作品に跨ってされることも多いため(例えば本書内では『ジョンの世界』と『変種第二号』、それ以外でも『宇宙の死者』と『ユービック』など)、短編などを何作か読んでおくと、その他の作品もより楽しめる筈だ。

ディックの短編集は、その他にも『トータル・リコール』や『変数人間』などの表題で刊行されているため、今作が気に入った人はそちらもおすすめ。

新編集版は表紙が非常にスタイリッシュなので、揃えてみると、本棚に並べているだけでも満足感が得られるだろう。

『虐殺器官』伊藤計劃

前述した『ハーモニー』の著者、伊藤計劃氏のデビュー作。

9.11以降のテロとの戦いを描いている。

アメリカが徹底的な管理社会化することで国内のテロを一掃する一方、小国で虐殺が横行する世界観は、我々の知る歴史とは異なりながらも、一定のリアリティを感じさせる。

米軍大尉、〈クラヴィス・シェパード〉が、将来的に虐殺の起こる国を移動して回る謎の男、〈ジョン・ポール〉を追う過程は、その戦略・戦術的な振る舞いも含めて非常に読み応えがある。

また、その過程で明らかになる〈虐殺の器官〉の存在、そしてジョン・ポールの〈心臓や腸や腎臓がそうであるべき形に造られているというのに、心がそのコードから特権的に自由であることなどありえないのだよ〉という台詞は、自らの〈自由意志〉に対する信頼を足元から揺さぶる力強さがある。

描かれる未来技術も魅力的だ。

人工筋肉を利用した〈侵入鞘(イントルード・ポッド)〉や、角膜に貼り付けるウェアラブルコンピュータ〈副現実(オルタナ)〉などを始め、数々の近未来ガジェットが登場し、物語の世界観を確固たる物にしている。

これ程ハードで骨太な作品ながら、文章は情緒的で端正。

各描写を楽しみながら読める作品だ。

前述した『ハーモニー』とは深い関連性がある為、出来れば『虐殺器官』→『ハーモニー』の順で読むことをおすすめする。

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『メタルギアシリーズ』

コナミから発売されていた大人気ゲーム、『メタルギアソリッド』シリーズのノベライズ版。

各作品毎に、野島一人氏や長谷敏司氏、先述の伊藤計劃氏など、複数名の著者が存在する。

『メタルギアシリーズ』の魅力と言えば、特徴的なキャラクター達が織りなす壮絶な戦いの数々。

敵であれ味方であれ、全てのキャラクターが胸に信念を秘めており、その信念の違い故に、対立し、戦わざるを得ない彼らの生き様は壮絶の一言。

そんなキャラクター達の心情が、小説という媒体の特性を活かして存分に描写されており、単なる〈ストーリーの羅列〉には止まることのない作品群となっている。

作中に登場した核搭載二足歩行型兵器〈メタルギア〉を始め、ナノマシンを応用した精神を落ち着けるシステム、人工血液など、ガジェットも盛り沢山。

ゲーム版をプレイしたことがある人もそうでない人も、是非とも手に取って欲しい作品だ。

因みに読む順番は、『メタルギアソリッド サブスタンス1/シャドーモセス』→『メタルギアソリッド サブスタンス2/マンハッタン』→『メタルギアソリッド スネークイーター』→『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』→『メタルギアソリッド ファントムペイン』をおすすめする。

〈全てを読み切るのは大変〉という人は、一冊で、シリーズ全体の展開が概ね追えるようになっている『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』から読んでみても良いかもしれない。

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架空世界を取り巻く謎〈ミステリー〉系のSF小説

どれほど技術が進んだ未来社会でも、きっと〈謎〉というものは常に生まれ続けるだろう。

或いは技術が進化したことで、より複雑化する謎もあり得るかもしれない。

ここでは、そんな謎を取り扱う〈ミステリー〉系の作品を紹介する。

『星を継ぐもの』ジェイムス・P・ホーガン

月面で見つかった、人間のミイラ。

装備品は現行技術を超えたものが多く、言語も地球上のものではない…。

更に調査の結果、ミイラは5万年前に既に死んでいることが分かった。

果たして、このミイラは本当に人間だったのか。

そして、なぜ月面に打ち捨てられていたのか…。

〈未来的な装備を持ちながら、5万年前に死んでいた月面の死体〉という、壮大かつ魅力的な謎を起点とて展開していく宇宙規模の物語は、スペースオペラ的な作風で有りながら、その実壮大なスケールの謎を追っていくミステリー的な魅力も秘めている。

世界中の科学者たちが謎に挑む様や、調査の中で新たに現れる謎、そして大胆かつ単純明快な真相など、読み応えは抜群。

SFとミステリーがお互いを引き立て合い、唯一無二の作品に仕上がっている。

実際、ミステリーとしての構造の巧みさによって、SF小説で有りながらミステリーのランキングにもランクインする程の人気を誇る作品でもある。

是非とも、宇宙規模の〈謎〉の魅力を堪能して欲しい。

『星を継ぐもの』あらすじと感想【宇宙と時空を超える壮大なSFミステリー】『星を継ぐもの』あらすじと感想【宇宙と時空を超える壮大なSFミステリー】

『人間の顔は食べづらい』白井智之

安全な食肉が人肉のみとなってしまった架空の日本を舞台に、食用としてクローン人間を生産する〈プラナリアセンター〉に勤める主人公が事件に巻き込まれていく、異形のミステリ小説。

かなり〈ミステリー側〉に寄った作品ではあるが、〈クローン人間〉という舞台設定が非常に重要な役を果たす為、SF小説として挙げさせて頂く。

〈食用クローン人間〉という常軌を逸した設定は、一見荒唐無稽なようにも見える。

しかし、充分な量でありつつ決して過多ではない背景の情報が見事に織り込まれており、舞台設定にはかなりの説得力が生まれている。

その為、世界観の異様さがそのまま作品の魅力に直結しているという、絶妙なバランス感覚の上に成り立つ作品だ。

特筆すべきは、作中で描かれる推理の完成度。

SF的な舞台設定で有りながら、事件の全貌は完全にロジカルで、未来的な超技術によるアリバイの捏造などは一切存在しない。

世界観の構成から事件の顛末まで、全てが計算ずくの完成度の作品だ。

万人受けする作風でないことは確かだが、グロ耐性のある人なら読んで損はない1冊となっている。

『人間の顔は食べづらい』あらすじと感想【安全な食肉は、人間のみ】『人間の顔は食べづらい』あらすじと感想【安全な食肉は、人間のみ】

おわりに

以上、全15冊のおすすめSF小説をジャンル別に紹介した。

どれもオリジナリティに溢れた独創的な未来社会、或いは仮想世界が描かれており、それぞれに違った味わいを感じられるはずだ。

少しでも、SFという世界に興味を持って貰えたなら嬉しい。

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