「おもしろい本が読みたい」というのは、当たり前の欲求である。
「こんなの読んでいられるか!」と壁に投げつけてしまうようないわゆる「壁本」と呼ばれるものもこの世にはごまんとあるわけで、その中から自分がおもしろいと思える本を探すなんて、地球から宇宙にある特定の星を探すようなもの。
けれども、きっと本書は地球から太陽が見えるぐらいまで、ググっと自分とおもしろい本の距離を縮めてくれるはずだ。
こんな人におすすめ!
- 本選びに失敗したくない人
- 次はどの本を読もうか迷っている人
- おもしろくない本と出会ってしまうのを恐れている人
あらすじ・内容紹介
「おもしろい本」を求める読書家に、読書のプロたちが1冊から「連想」するという形で本を次々と紹介していく読書ガイド。
主催しているのは翻訳家で早稲田大学教授の都甲幸治さん。
そして、鼎談に参加しているのはプロの書評家、批評家、小説家、文学研究者、などなど都甲さんを合わせると総勢10名の豪華な顔ぶれである。
書評家、批評家、小説家ならではの本の読み方、連想していく本、そしてさらに連想を膨らませていく本など、作家も村上春樹から伊坂幸太郎、谷崎潤一郎など多岐に渡る。
発想の豊かさや、連想していく本のマニアックさ、そして何より鼎談する方々のリラックスして好きな本について語る様子などが瑞々しく文章に現れている。
「今読んでいる本はすごくおもしろいのだけど、次に読む本がこれ以上におもしろくないと不安だ……」なんて思っているそこのあなた。
是非ともこの読書ガイドを一読してもらいたい。
きっと「読みたい本が増えてしまった……」と逆に困惑すること間違いないだろう。
『きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド』の感想・特徴(ネタバレなし)
鼎談という形でしかできないこと
鼎談(ていだん)というのは、簡単に言うと3人で話すことを指す。
正直、私は対談や鼎談の本がちょっと苦手だった。
いちいち名前を見て、今だれがしゃべっているかを確認しないといけないし、小説が大好きな私はかぎかっこなしでの会話文というのに違和感を覚えてしまっていたからだ。
「鼎談」と言われてピンとくる人は少ないと思うし、そもそも鼎談ということは聞き書きなわけである。
だらだらと3人がしゃべっているだけで、なにがおもしろいのだろう……。
そんなことを思っていた。
実を言うと、この本が鼎談だということを知らずに買った。
もともと読書ガイドと銘打ってある本が好きだし、書評集もよく読むから軽い気持ちで手に取ったのだ。
本を開いてびっくり仰天である。
「嘘でしょ、これ、しゃべってる本なの……?」とちょっとばかし悲嘆にくれた。
「でも買ったからには読もう!」という読書家あるある(?)な意識が働き、読み始めみたらなんとおもしろいことか。
1つのテーマごとに、都甲さんがメインとなってトークをしていく。
都甲さんが課題となる本を出し、それを鼎談する人たちが読み、そこからさらに連想を膨らませていく形を取っているのだが、まるで自分が鼎談に参加しているような錯覚を覚えるほど、会話が楽しい。
分野がまるで異なる3人が話をしているから、読んできた本もバラバラだし、読み方もバラバラ。
都甲さんも専門ではない分野の本が出されると「この人の気持ちがわからないんだよね~」と軽い感じで質疑応答をしていく。
「鼎談」という形を取っているからこそ、だれか1人だけがダラダラとしゃべっておらず、1人がわからないと言えば他の2人が答え、3人ともがわからなければ一緒に考え、疑問はその場で解消される。
独りよがりに語らず、「会話を回す」という形の鼎談に、私は脱帽してしまった。
読書ガイドがもたらすもの
私はミステリーが大好きだ。
原点は、はやみねかおるの『夢水清志郎シリーズ』。
そこから犯人当てをする、いわゆるフーダニット形式のミステリーにハマった。
それから『ハリー・ポッターシリーズ』。
ファンタジーのおもしろさをこの作品で知った。
筒井康隆でSFの可能性を、桜庭一樹でエッセイの心地良さを知った。
けれど、私は恐れているものがある。
自分の好みの本ばかりで周りをかため、読書の視野が狭くなることだ。
そんなときこそ、読書ガイドや書評集の出番なのである。
読書ガイドはほどよい距離を保って「この本が好きならこっちも好きだと思うよ」と教えてくれる。
この読書ガイドでは、入り口はだれでも入りやすい。
村上春樹、シャーロック・ホームズ、伊坂幸太郎などなど。
だれもが一度は読もうとした、あるいは読んだことのある作家ばかりが並んでいる。
重要なのはここからで、都甲さんを含めそこから次の本へと誘ってくれる。
例えば村上春樹が好きな人には、カズオ・イシグロ『充たされざる者』とか。
伊坂幸太郎が好きな人には又吉直樹『火花』とか。
一見、つながりなど感じそうにない組み合わせだけれど、読んでみれば「なるほど」と思わせてくれる話がふんだんに盛り込まれている。
読書ガイドがもたらすのは、自分では考えつかなかったような本同士の繋がりを感じられ、確実に読みたい本を増やし、次の本へと手招きしてくれることである。
とにかく面白い本が読みたい。みんなそう思っているけど、実行するとなるとなかなか難しいですよね
そうなんです。
おもしろい本は読みたいけれど、「私はミステリー苦手だし」とか「古典的な文学っておもしろいの?」とか、人は本でさえも好き嫌いする。
その意識を変える1冊がここにあります。
マニアックさについていこう
読書ガイドとしては大変優秀な本書。
ただ、連想される本が少々、マニアックです。
例えば、ハニフ・クレイシ『言葉と爆弾』とアーヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング』。
私はこの2冊の作者はおろか、タイトルさえ初めて聞きました。
有名なのかも、まったくわかりません。
思えばこの読書ガイドは、知っている本と知らない本の落差が激しい。
伊坂幸太郎はもちろん知っているし、読んだことはあるけれど、パラニュークの『ファイト・クラブ』も『サバイバー』も知らない(『ファイト・クラブ』はブラッド・ピットの映画が有名とのことだが、私は映画が好きではないのでさらに知らない)。
「知っている」「知らない」で温度差ができてしまうかもしれないけれど、でもこれは読書ガイドですよ!
「これから読もう!」とシフトチェンジして、マニアックさについていきましょう。
まとめ
鼎談という形の読書ガイドは初めてだったけれど、わりとすんなりと受け入れられた。
どれもこれも会話の密度がすごくて、たまに息苦しくなるぐらいだ。
軽やかに本のことを語っているけれど、都甲さん始め、どの方も相当な量の本を読んでいる「読書のお化け」と言っていい。
「自分なんてまだまだだ!」と意気込み、新たに私は今日も本を開くのである。
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