『重力ピエロ』は人生で最初に読んだ伊坂幸太郎の小説です。「このミステリーがすごい」のランキングにおいて上位に食い込み、各方面からの絶賛ぶりに興味を持ったのがきっかけでした。
しかも兄弟愛にフォーカスした描写が満載ということで、当時から兄と弟の絆の尊さに萌えていた私は、我慢できず本屋に走りました。
この一冊がきっかけで伊坂幸太郎にどっぷりハマり、今では彼の著作を新刊順に読み漁っています。ミステリーとヒューマンドラマの配分がちょうどよく、難しすぎるトリックに抵抗を感じる人も、すんなり物語に入っていけるのが好印象でした。
こんな人におすすめ!
- 血の繋がりをこえた家族愛に感動したい
- かっこいい兄弟が活躍する話が読みたい
- 難しすぎるトリックに抵抗を感じる
あらすじ・内容紹介
主人公はジーン・コーポレーションに勤める仙台在住の青年・泉水。彼には二歳離れた弟の春がおり、兄弟仲は非常に良好でした。兄弟の父は癌を患い、入院生活を送っています。
実は春と泉水は半分しか血が繋がっていません。彼は母が強姦されて産み落とした子だったのです。
父は兄弟を差別せず愛情を注いで育てたものの、自分の生い立ちを知った春はあらゆる性的なものを嫌悪し、家族以外の人間と上手く関係を築けなくなりました。
一方、仙台では連続放火事件が相次いでいました。現場の近くには謎のグラフィティアートが残され、泉水は落書きを消す仕事をしている春が犯人ではないかと疑いを持ちます。
何故なら春は圧倒的な絵の才能を持ち、ピカソの生まれ変わりだと自称して憚らなかったのです。
『重力ピエロ』の感想(ネタバレ)
『重力ピエロ』は泉水と春のバディが連続放火犯を追跡するミステリーであると同時に、ハートフルなホームドラマでもあります。
不幸な生い立ちの春は、自分の絵の才能は強姦魔の実父譲りではと疑い、長い間苦しんでいました。
環境と遺伝子、どちらが人を作るのか?本作を貫く命題は、簡単に答えを出せるものではありません。だからこそ泉水と春は悩み、時に衝突し合い、すれ違って傷つきます。
泉水と春は特別な絆で結ばれています。同じ両親から生まれた兄弟だって、彼らほど互いの為に命は賭けられません。それには春の特殊な出生が関係していますが、最も影響を与えたのは、我が子として二人を育て上げた父の存在でした。
印象的だったのはもし母と同じことが彼女の身に起きたら、と泉水が自問するシーン。
彼は心から弟を愛していることを認めながら、父のようには出産を勧められないだろうと恥じました。いわば被害者家族である彼が、真面目で善良であるが故に本来負わなくてもいい罪悪感を抱え込むジレンマには、やるせなさを禁じ得ません。
クライマックス、真犯人と対峙した春が下す決断にも心が震えました。読後は様々な家族の形に想いを馳せ、春の幸せを願ってしまいました。
まとめ
伊坂幸太郎はトリッキーなミステリーを数多く発表していますが、『重力ピエロ』はどちらかというと一般文芸寄りで、ミステリーマニアならずとも楽しめる小説に仕上がっています。
泉水の父親が息子たちにかける言葉は、遺伝子の呪縛に縛られた読者にとっても、人生の指針になるのではないでしょうか。
子供は親のクローンじゃないのだから、自分が選んだ未来を掴み取ることも可能なはずです。
かっこいい兄弟が活躍する話が読みたい方、血の繋がりをこえた家族愛に感動したい方は、ぜひ読んでください。
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