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小説『人間椅子』あらすじとネタバレ感想【椅子に隠れ座った人間を愛撫する】

昔から怖い話や猟奇的な話が大好きで、中学の図書室にあった江戸川乱歩シリーズを愛読していました。『人間椅子』は江戸川乱歩の短編集に収録されており、その倒錯的なフェチズムに子供心に衝撃を受け、戦慄したのをはっきり覚えています。

ある意味ストーカーものの先駆けといえる小説で、虚実入り混じる告白文で綴られる人間椅子の秘密に、どっぷりのめりこみました。読後しばらくは実家の洋間にある革張りの椅子に腰掛けられなくなりました。

こんな人におすすめ!

  • 倒錯したフェチズムを垣間見たい
  • 虚実の境が曖昧になるめまいにも似た感覚を味わいたい
  • 知らない人間に私生活を覗かれる恐怖を疑似体験したい

あらすじ・内容紹介

悠々自適な毎日を送る女流作家・佳子のもとに届いた一通の手紙。ファンレターと間違え開封したところ、便箋には衝撃的な内容が記されていました。

差出人は親の稼業を継いだ椅子職人。名もなき彼は椅子作りの腕こそ優れていたものの、生まれながらの醜い容貌を恥じ、女性とは無縁の生活を送っていたそうです。

日々孤独を募らせる彼の慰めは、自分が手がけた椅子に理想の異性が座る様を思い描き、虚しい妄想に耽ること。

ある時、外国人が経営する高級ホテルから注文が舞い込みました。完成品は彼の最高傑作と呼べるものでした。そこで一計を案じ、内部をくりぬいて潜り込みます。

彼の思惑通り、納品後の椅子はホテルのロビーに運ばれ、老若男女の体を受け止めることになるのですが……。

『人間椅子』の感想(ネタバレ)

『人間椅子の魅力』は全編に横溢するインモラルな雰囲気と、端々に滲み出す耽美なフェチズムをおいて他にありません。

貧しい椅子職人と上流階級の婦人。本来何の接点もない二人を繋ぐのが一脚の革椅子というのも、大変ドラマチックで運命を感じました。

本作は職人の独白形式で綴られ、どこまで嘘で真実か、虚実の境が曖昧になるめまいにも似た感覚を味わえます。

誰しも人には言えない秘密や欲望を持っているもの。彼の場合は椅子に隠れ、座った人間を愛撫するのが趣味でした。

世間には理解され難い性癖だからこそ、その官能の奥深さには麻薬めいた中毒性があります。背凭れ越しに女体の曲線美や肉感を堪能する描写は、倒錯の極みでぞくぞくしました。

読んでいる間は職人と佳子双方に感情移入し、自分が椅子の中に入ったようなスリルと息苦しさ、背徳感と表裏一体の高揚感、知らない人間に私生活を覗かれる恐怖などを覚えました。

佳子の椅子の中には本当に人が入っているのか、手紙を送り付けた目的は何なのか?

話の着地点が気になり読み進めるうちに虚構と現実がリンクし、周囲の物音や気配に敏感になるのも新鮮な体験。椅子に座る時は皆警戒を解いて無防備になる、その盲点を突いた傑作です。

まとめ

江戸川乱歩で一番好きな作品を聞かれ、本作を挙げる人は少なくありません。

椅子はどこにでもあり、誰もが自然に座るもの。その中にもし生身の人間が隠れ、自分の就寝後にこっそり徘徊していたら、世界の見え方が裏返ります。

読まない方がよかった、知らない方が幸せだったと後悔したところで遅いのです。反面、職人と同じ世間に憚る性癖を持っている人にはバイブルになるのではないでしょうか。私は後者でした。

あなたの人生を変える劇毒にもなりうる一冊、覚悟を決めて読んでください。

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