【問題作! 10人産んだら1人殺してもいい⁉】「殺人出産」(村田沙耶香)講談社文庫(♫きゃりーぱみゅぱみゅ『もんだいガール』)

きゃりーぱみゅぱみゅから『殺人出産』!?

きゃりーぱみゅぱみゅ、と聞いて、もしくはその曲を聴いてなにを思い浮かべますか?   ポップで明るい曲。かわいらしくも、はっとするようなところをついてくる曲。思い浮かべたものは人それぞれだとは思います。これから紹介する小説はきゃりーぱみゅぱみゅの曲からインスピレーションを受けたらしいという小説です。もう一度言います。きゃりーぱみゅぱみゅの曲からインスピレーションを受けたらしいというのです。

その小説は村田沙耶香さんの『殺人出産』。「殺人」と「出産」という正反対の言葉が組み合わされた題名。小説家の朝井リョウと歌人の加藤千絵のラジオ、オールナイトニッポンゼロでゲストとして招かれたときに話されていました。しかし、どう考えてもきゃりーぱみゅぱみゅの曲からインスピレーションを受けたなんて、信じられません。

村田沙耶香さんといえば、2016年に『コンビニ人間』で非常に高い評価を得て「芥川賞」を受賞されました。その時、話題になったのが、作者本人もコンビニでバイトをしていることでした。

「野間文芸新人賞」「三島由紀夫賞」「芥川賞」と新人三賞と呼ばれる文芸賞を受賞しており、衝撃的で読者の価値観を揺るがす小説で人気を持っています。作家が書くだけでは食べていけないということで、デビューしても仕事を辞めてはいけないと編集者に言われ、兼業作家が多い時代ですが、村田沙耶香さんはその必要がないのにも関わらず、コンビニで働いています。しかもバイトということで大きな話題になりました。バイトがないと怠けちゃって書けないというなんとも不思議な作家です。
バイトをしていることでだけでなく、作家仲間から「クレイジー沙耶香」と呼ばれていることも話題なりました。きゃりーぱみゅぱみゅから『殺人出産』。なんとなく納得してしまいます。

純粋な「なぜ?」という疑問

そんな村田沙耶香さんの『殺人出産』ですが、一言でいうなら

10人産んだら1人殺してもいい。

どういうこと?と思った方はぜひあらすじを読んでください。あらすじだけでも衝撃を受け、実際どういうものなのか気になって買ってしまうはずです。私がそうでした。

なぜ、人を殺してはいけないのか。

一時期話題になった問題です。人を殺してはいけない、というのは誰にだって理解できることですが、それをなぜ?と聞かれたら、説明するのは難しいです。当たり前すぎるために、だめなものはだめとしか言えません。この疑問に関しては一応答えらしきものが出ています。

・自分が殺されたかないから
・社会が成り立たなかなるから
・生来的に殺人には嫌悪感があるから

学者や評論家などが答えていますが、こういう問題には「正解」というものがありませんので、完全に納得してすっきりとはいきません。そんな問題に対して、私たちは「殺してはいけない世界」を前提として考えている中、村田沙耶香さんは「殺してもいい世界」を考えました。

あらすじ

〈殺人は悪だった〉時代から100年後の日本。避妊技術が発達し、セックスは〈愛情表現と快楽だけ〉のためにある。出産の主流は、人工授精。恋愛や結婚による出産はほぼなくなり、人口の減少は歯止めが効かなくなっていた。そこで「殺人出産制度」が活用される。誰かを殺したいと希望する者は、「産み人」となり10人の出産を目指す。
産み人が崇められる中、育子は世の中に違和感を抱いていた。育子の姉はもうすぐその10人目を迎えようとしている中、育子はある女に出会った。

設定をもっと詳しく

「殺人出産制度」は男には関係ない、ということもなく、人工子宮を埋め込めば性別に関係なく出産がすることができます。人工子宮については、実際にオーストラリアで成功したのがニュースになりました。

また「殺人出産制度」が活用されても、他の殺人は悪とされています。殺人を犯した人は「産刑」といわれる、牢獄の中で死ぬまで出産に従事、をしなければなりません。

10人産んで1人殺したい人は「産み人」となります。社会的には人口増に貢献しているということで崇められています。そして、その素晴らしさは学校で教えられています。

違和感を感じる

私たちがこの作品を読んで感じる違和感は正しいと思います。特に言いたいのは人を殺してもいいという違和感もそうですが、当たり前や常識となったことを強く信じているというところです。

「殺人出産制度」が学校という公的な場所で、まるで洗脳されるかのように正しく社会にとっていいことなのだと教えられる。そのことに対し強い違和感や嫌悪感を覚えたのではないでしょうか。

そこで考えて欲しいのが、これが「殺人出産制度」というものだから、違和感を抱けただけであって、実際私たちはこのような教育を受けてきたのかもしれないということです。学校という場でなくとも家族や会社という枠組みの中でも。

知らないうちにおかしな当たり前に毒されてはいないでしょうか。最近はよくニュースでおかしな当たり前というのが報道されるようになり、おかしいと気付けたり、おかしいと思ってたのが自分だけじゃなかったと安心したり、することはないでしょうか。この小説は決してフィクションの世界での衝撃的な話というのではなく、現実に一石も二石も投じる作品になっています。

「殺人出産」だけじゃない!

実はこの『殺人出産』他に3つの短編があるんです。
「トリプル」「清潔な結婚」「余命」。どれも性と死かテーマになっています。

「トリプル」
カップルという言葉がある通り、私たちは恋愛といえば2人でするものと思っています。でもなんで2人なのでしょうか。お互いが同意し愛し合っていれば3人でもいいのではないでしょうか。
この作品はまさに3人で恋愛をすることが当たり前になった世界が書かれています。

「清潔な結婚」
近親相姦は日本だけでなく世界で共通して忌み嫌われ、タブー視されます。とすれば近親相姦がタブー視されない世界を書くかと思いきや、夫婦間でも近親相姦とし、家族外に性的なものを求める話。夫婦で恋人とデートに行く、別れたなどの話が当たり前のように行われています。

「余命」
発達した医療のため「死」というものがなくなった世界。事故死も他殺もすぐに蘇生できるようになりました。そんな世界の中で人々はそろそろかなというタイミングで好きに死んでいく。

どれも私たちが思いもよらないところを突いてきます。当たり前と思い込んでいてことに揺さぶりをかけてきます。こんなのおかしい!という人もいるかもしれません。

しかし、「人はなぜ殺してはいけないのか」「なぜ2人でなければ付き合っていけないのか」「なぜ夫婦間の性行為近親相姦と感じないのか」「死がなくなったとき私たちはどうするのか」という事柄に対してきちんとした答えを出すことができるでしょうか。純粋ななぜ?を繰り返されたとき、私たちは自分の中に理由を持っていなかったことに気がつきます。考えもせず、そういうものだと受け取っていたのだと。

読み終えた後、「常識」が崩れていく感覚を味わってください。

曲はもちろん……

この小説に曲をつけるなら、もちろん、きゃりーぱみゅぱみゅ。インスピレーションを受けたらしいということで、きゃりーぱみゅぱみゅのもんだいガールを選曲してみました。

ポップな雰囲気とのギャップを楽しんでもらうとともに、歌詞ある「普通」に対する違和感が意外と合うのでぜひ聴いてください。

最後まで読んでいただき大変嬉しく思います。こちらもよろしくお願いいたします。

◯この他の『殺人出産』の主題歌はこちら

 

◯本の主題歌を決める読書会「BGMeeting」