『真鶴』あらすじと感想【失踪した夫を探して夢幻の世界へ降り立つ】

『真鶴』あらすじと感想【失踪した夫を探して夢幻の世界へ降り立つ】

あくまでも日常生活に寄り添った幻想小説

今回は川上弘美さんの『真鶴』を紹介させていただきます。

川上さんのWikipediaはこちら

単行本(ハードカバー)の装丁が箱入りで、ぜひ一度手に取ってもらいたい一冊です。私は中古書店で出会いました。

この本のジャンルは純文学で、もっと細かく分類すると幻想小説です。

みなさんは幻想小説と聞いて、どんなものを思い浮かべますでしょうか。

ドラゴンやゴーストが現れる小説?魔法が使えることが前提の小説?

いえいえ、この小説はそれらファンタジーとは少し違います。

あくまでもこの小説は日常を描いたものです。

その日常という土台に不思議な体験=幻想が重なりあって、現実世界では到底味わえないであろう世界を体験することが出来るのですね。

他の似た作風の作家さんでいうと、よしもとばななさんが有名です。

最近なら直木賞候補にもなった彩瀬まるさんですね。

彼女の小説は文体をはじめ、かなり川上弘美さんに影響を受けています。

「やがて海へと届く」などは分かりやすい例です。

あらすじ・内容紹介

この小説は「ついてくるもの」から始まります。

歩いていると、ついてくるものがあった。

主人公は柳下京(やなぎもと・けい)。

旧姓は徳永で、(もも)という一人娘をもつ母です。

(れい)という名をもつ夫は、12年前に失踪して消息が掴めません。

京は夫を探すために真鶴へ向かうのですが、どうも不可解な出来事が起こるのですね。

その内のひとつが、冒頭にある「ついてくるもの」です。

このついてくるもの、増えたり減ったりするんですね。

時には一度に二十人も、三十人も京の後ろにくっついてくることがあります。

ついてくるものは、まるで彼女の心の変化に対応するかのように増えたり減ったりします。

あるいは知らない女の形になって話しかけたりすることもあります。

女が京に話すとき、京は一切声を出さずに、心の中だけで女に対して会話をしていることに気づきます。

「ついてくるもの」の正体

この「ついてくるもの」、私は京の心の迷いが形を変えたものではないかと思っているんですね。

実を言いますと、京には夫である礼の他に、もう一人気にかけている男性がいます。

それが、青茲(せいじ)という男です。

彼は編集者で、作家である京の担当であるのですね。

どうも彼女は、彼に身も心も惹かれてしまっているようです。

彼女が本当に欲しかったもの

それは当然のことながら娘の百や青茲にも気づかれてしまっていて、京は彼らに遠巻きに怯えられてしまったり、反対にひどく怒られてしまうのですが、あろうことか彼女は自分のことで精一杯で彼らの気持ちに気がついていません。

心のすれ違いを見事に表しています。

そして京も京なりに、「心が離れていってしまっている」ことだけは自覚しています。

しかし、それが分かっても、理由が彼女の行いにあるということまでは理解できていません。

そうであるがゆえに青茲から「あなたはひどい人だ。あなたはなにも信じない」と言われてしまいます。

彼には彼女が他のことを考えていることが筒抜けなのですね。

そんな彼女が真鶴という場所でどう自分を見つめ直し、どう変わっていくかがこの小説の見所です。

印象的なシーン

あくまでもこの本の最大の魅力はなんといっても今、この瞬間に自分が体験したかのような幻想的なシーンです。

真鶴には数々の印象的な描写やシーンが出てきます。

例えばこのような表現ですね。

わたしの思い。底の知れぬ湖の、
澄んだ水をどこまでも沈んでゆき、からだをよぎる無数の泡にまじるうちに、自分のからだもくるりと泡のかたちに丸まり、そのままついに底まで沈みきって、球体の動かぬものと成り果てるような。

そのなかで、特に印象に残ったシーンを三つ紹介します。

ひとつ目は京に嘘をついて、夜遅くまで家に帰ってこなかった百が、一人で影のようなものと話していたシーン。

駆けよって、百を抱きしめた。
あらがわれた。やめてよ、おかあさん。強い力で、押し返された。

隣の影が、じっとこちらを見ている。あなた、誰なの。隣に向きなおって聞く。誰でもいいでしょ。百が後ろから言う。

影が、すっと遠ざかり、消えた。犬も、同時に。女をさがしたが、女も、消えていた。

二つ目が、真鶴で京が女と共に、転覆して炎上する船をじっと見つめるシーン。

ほら、みて。女がゆびさす。

倉の隙の海面を、転覆した船が静かに漂っていく。むすうの火花が船の腹にふる。火花はやがて小さな炎となって、鬼火のように船のまわりを飛びかいはじめる。水をよく吸った船の材は、燃えあがろうとして、すぐに尽きる。そしてまた、燃えあがろうと。

しまいに、ようよう船は燃えあがる。

そして三つ目が、幼き日の礼がナナフシを潰してしまうシーンです。

三歳のおれは、庭の木についた虫をつまみあげていた。みどりいろの、ながほそい、妙なかたちのものだった。

力の加減がうまくゆかなくて、つまむというより、てのひらいっぱいに握りしめ、そのとたんに虫の胴から汁が出た。

てのひらに、汁はぬめりとひろがった。つぶしてしまったんだ。

(略)それ、ナナフシよ。めずらしいわ。母が言った。

まとめ

ここまで読んでくださり、本当にお疲れさまでした。

浮かんでは現れ、現れては消える。

虚(嘘)と現実が目まぐるしく入れ替わり立ち替わり、物語の世界に体ごと取り込まれる感覚。

みなさんも是非、この機会に味わってみてはいかがでしょうか。

主題歌:KEYTALK/MURASAKI

本のお供にKEYTALKのMURASAKIはいかがですか?

米津玄師さんの春雷よろしく入れ替わり立ち替わり、止め時が全くわからない、中毒性と幻想的な歌詞が光る曲です。

※この曲で(寺中)巨匠と首藤くんの区別がつく方、いらっしゃいましたら教えてください。

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