今の自分に満足している人はどれだけいるだろうか。
現状に少しでも不満がある人は、誰かに背中を押してもらいたい、或いは言葉をかけてもらいたいという願望があるはず。
そんな言葉をかけてくれる存在が身近にいたら、あなたはどうする?
こんな人におすすめ!
- 家族の愛情を感じたい人
- 不思議な体験をしてみたい人
- 自分の性格を変えたいと思っている人
あらすじ・内容紹介
文房具収集が趣味で、念願の大手文房具メーカーに就職した井久田菜摘(いくたなつみ)は自分に自信がなくて、上司の山崎美香(やまざき みか)に注意をされるといつも胸のネームプレートに触れる癖がある。
部署は違うものの同期入社の西村沙織(にしむら さおり)は菜摘とは真逆で、容姿も要領も良く愛嬌もあり、仕事もそつなくこなせる。
更に自分磨きにも余念がない。
何かと声をかけてくれているが、どこか他人事のようにも聞こえる。
菜摘は、文房具が好きで新商品を開発するワクワク感を持っていたはずなのにいつの間にか薄れてしまっていることが多くなっている。
小学6年生の頃から日記をずっと書き続け、社会人になってからもお気に入りの日記帳に書く出来事はどれも暗い内容ばかり。
職場の江島(えしま)主任と会社は違うが学生時代からの同級生・福山晴海(ふくやま はるみ)が今の菜摘の支えになっている。
ある日、残業で会社に残っていた菜摘は火事に巻き込まれる。
周りを火に囲まれ、死がすぐそこまで迫ってきている。
「…私、死ぬんだね。」
生まれ変わったら幸せな日記を綴ることが出来る人生を送り直したい。
そう思った瞬間、不思議な出来事が起きて菜摘は別の場所にいた。
そこには白いセーターにジーパンをはいた少年が立っていた。
そして、少年はつぶやく。
「痛い?」
『この冬、いなくなる君へ』の感想・特徴(ネタバレなし)
守護神との約束
突如現れた網瀬篤生(あみせ あつき)と名乗る青年。
自らを守護神と名乗り、菜摘を<死>の匂いから救う為に現れた。
この執行猶予付きの死から逃れる手段は生きようとする強い意志を持つこと。
不思議な登場をした篤生だが、初対面の人間に対して、フランクすぎる接し方やいきなり死をほのめかす言葉、相手の不安を掻き立てるような言葉を投げかけるのは怪しさ満点な印象しかない。
「たとえ他人に誇れなくとも、自分を卑下することなく生きてほしい。自分の心に嘘をつかないでほしい。毎日笑っていて欲しい」
彼は最後に菜摘にこのような優しく諭す様な紳士的なメッセージを伝えている。
主人公よりも恐らく若いであろう彼が達観した発言をしていることに驚いてしまった。
自分が変わろうとする時
菜摘が予言された死の危機を迎えたその次の年の冬、再び篤生が現れた。
「この冬、君は死ぬ」
この言葉を告げられると、一気に体の力が抜けて風船がしぼんでいく様な感覚になっていく。
会うたびにこういった言葉を面と向かって言われると、自分なら生きた心地がしない。
きっと、毎日、自分自身の不甲斐なさを感じてしまうだろうし、自分はしっかり生きていくことは出来なくなってしまうだろう。
「運命を変えることは並大抵の努力ではできない。とくに<死>はやっかいだ。だからこそ、菜摘には強くなってほしい。」
行動次第で自分だけではなく、周りの人の運命も変わるという。
自分の殻を破って一歩踏み出すしかない。
きっかけは自分で作り出すことが重要なんだと教えてくれる。
驚かせる様な発言が多いけれど、彼女がちゃんと生きていける様に勇気をくれる篤生だった。
未来が教えてくれた日記
あの時、ああすればよかったという後悔の念を抱くよりも、選択という道筋を辿って自分達はその道を歩くと物語の中では諭している。
「パラダイムシフトというのは、『視点を変える』という意味です。どんな出来事も自分の意見だけで決めつけるより、考えかたを変えたり発想の転換をしたほうがより真実に近づけます」
正しい行動をとったと思えるのか、それとも間違った選択をしたと後悔するか。
自分では正しい判断が出来るかわからない。
人生は選択の連続だ。
間違えないという確証は無い。
だからこそ、人は誰かの助けを借りる。
苦しみや悲しみも半分になり、お互いに共有することができる。
また冬を迎えた頃、篤生が菜摘の元に現れた。
これで目の前に現れるのは最後だという。
最後に現れたのは、篤生が自らの命を懸けて菜摘に大切なことを伝えるためだ。
篤生は1冊の日記を菜摘に見せ、真実を語り始めた。
変えられないはずの未来を変えた代償は大きく、彼の存在すら危ういものにしていた。
それでも命を懸ける価値があり、絶対に変えたい未来と叶えたい願いがあったのだ。
私は自分の人生を全て懸けても惜しくないという人や物、事に出逢ったことがない。
出来るなら会いたいし、見つけたい。
もしもそんな経験が出来たら、どれだけ素敵なことだろう。
まとめ
本書はタイトルだけ見ると、悲しい印象だけれど、読み進めていくと深い愛情が主人公とその周りの人間関係に溢れていた。
自分にとって大切な人のために人生を懸けて思いを遂げる意志の強さが素敵な1冊だった。
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