〈死のうかな〉〈死んでいた〉〈死んでしまった〉〈死にそうだ〉〈死んだのか〉〈亡くなった〉、〈殺してしまった〉〈殺してしまった〉〈殺す気なのか〉…。
天衣無縫の探偵、〈榎木津礼二郎(えのきづ れいじろう)〉に持ち込まれる、縁談の数々。
眉目秀麗にして頭脳明晰、腕っ節も強い上に家柄も申し分ない(ただし性格は気妙奇天烈)筈の彼の縁談は、しかし相手方から断られ、全て破談となる。
不審に思った榎木津の親族から、その原因の調査を依頼された探偵助手の〈益田龍一(ますだ りゅういち)〉。
一方、伊豆で起きたとある事件を理由に、江戸川沿いの交番勤務に左遷された刑事の〈青木文蔵(あおき ぶんぞう)〉は、会社員の毒殺死体を発見したことで図らずも捜査の渦中へと巻き込まれていく。
連続する毒殺事件と、榎木津の縁談の破談との関わりとは?
〈真実を見透す目〉を持つ探偵・榎木津礼二郎の過去が明かされる、「百鬼夜行シリーズ」の第9作!
目次
こんな人におすすめ!
- 妖怪が好きな人
- ミステリ小説が好きな人
- 「百鬼夜行シリーズ」が好きな人
- 『ルー=ガルー』を読もうと思っている人
あらすじ・内容紹介
探偵・〈榎木津礼二郎〉に持ち込まれる、縁談の数々。
眉目秀麗にして頭脳明晰、喧嘩も強く家柄に至っては旧子爵という彼は、〈神〉を自称し、周囲の人間を須く〈下僕〉と考える奇妙奇天烈な性格を除けば、縁談の相手として申し分ない筈だった。
しかし榎木津に持ち込まれた縁談は、相手方が(榎木津の性格を知るより前に)断ったことで、全て破談になってしまう。
榎木津の性格が相手に伝わっていたならばまだしも、その気配すら無いにも関わらず、縁談を断られ続けることを不審に思った親族は、榎木津の元で探偵助手として働く〈益田龍一〉に調査を依頼する。
一方で刑事の〈青木文蔵〉は、伊豆を舞台に起こったとある事件をきっかけに左遷。
江戸川沿いの交番勤務となる。
そんな彼の前に現れたのは、会社員の毒殺死体。
それを機に、青木は連続毒殺事件の捜査に巻き込まれていく。
益田と青木が追う全く異なる事件は重なり合い、やがて榎木津の過去に関わる1つの巨大な事件へと姿を変えていく。
増え続ける、連続殺人事件の被害者。
殺意に取り憑かれようとする男。
公安すらも暗躍し、混乱が加速していく事件の中で、皆が欲する〈雫〉の正体とは何なのか。
黙して語らぬ榎木津は、果たして何を識っているのか。
混迷する事件を受けてついに立ち上がる〈京極堂〉こと〈中禅寺秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)は、何を祓い落とすのか。
榎木津礼二郎の過去が明かされる、「百鬼夜行シリーズ」の第9作!
『邪魅の雫』の感想・特徴(ネタバレなし)
〈雫〉を巡る、キャラクター達の奔走
破断し続ける榎木津の縁談と、連続毒殺事件の謎を描いた今作では、これまでの「百鬼夜行シリーズ」と同様に様々なキャラクター達が奔走する。
その中でも、今作で特に活躍するのは刑事の〈青木文蔵〉と、探偵助手の〈益田龍一〉だ。
これまでの「百鬼夜行シリーズ」において、度々重要な役割は果たしつつも、憑物落としの〈京極堂〉こと〈中禅寺秋彦〉や陰気な作家、〈関口巽(せきぐち たつみ)〉、天衣無縫の探偵〈榎木津礼二郎〉とその幼なじみの不良刑事〈木場修太郎〉といった、クセの強いキャラクターの影に隠れがちだった彼ら。
しかし今作では、そんな彼らが〈主役〉と言っても良い程の活躍を見せる。
〈京極堂ご一行〉に影響を受け続けた彼らの奔走を、楽しんでほしい。
明かされる、探偵・〈榎木津礼二郎〉の過去
交際相手だぁ
今作で描かれる、〈榎木津礼二郎の縁談連続破談〉と〈連続毒殺〉の、2つの事件。
全く無関係の事件を繋ぐ鍵は、榎木津の過去にある。
躁病の気がある彼は、これまでの「百鬼夜行シリーズ」で〈神〉を自称し、周囲の人間を〈下僕〉と呼ぶという天衣無縫っぷりを遺憾なく発揮しており、おそらくはシリーズを通して最も自由奔放に振る舞っていたキャラクターと言っても過言では無いだろう。
しかし今作での榎木津は、イヤに大人しく振る舞っている。
事件について何か識っている様子の彼は、果たしてどの様な想いを抱えているのか。
そして、彼の過去にはどの様な秘密が有るのか。
物語が進む中で榎木津の過去が見え隠れすることにより、彼もまた、人であることを再確認できる。
いつもと違う榎木津礼二郎が、じっくりと味わえる作品だ。
『ルー=ガルー2 インクブス×インプス 相容れぬ夢魔』との繋がりも
俺は雫が欲しいだけなんだ
更に今作は、京極夏彦氏が描くSF作品『ルー=ガルー2 インクブス×インプス 相容れぬ夢魔』との繋がりもある。
両作品のネタバレになってしまうため詳細は伏せるが、今作のキーワードである〈雫〉は、『ルー=ガルー』においても非常に重要な位置を占める。
描かれる時代は違えど、世界観は共通しているので、両作品共に読むことで、より物語を深く楽しむことが出来るだろう。
まとめ
自由奔放にして暴虐無人、天衣無縫の探偵,〈榎木津礼二郎〉の関わる事件を描いた今作。
普段は個性派揃いの変人達の影に隠れている、青木や益田の活躍や、シリーズを通して初めて、矢鱈と大人しく振る舞っている榎木津など、キャラクター達のこれまでとは違った一面を垣間見ることのできる作品だ。
また、京極夏彦氏の別シリーズである『ルー=ガルー』にも深い関わりのある作品でもあるため、併せて読むことでより楽しむことが出来る。
是非とも、キャラクター達の見せる新たな表情を存分に楽しんで欲しい。
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