TBSの秋ドラマとして2020年10月から絶賛放送中の『危険なビーナス』。
ドラマ主題歌はback numberの「エメラルド」で、イントロのギターサウンドは、一度聴いたら頭から離れないし、毎回絶妙なタイミングで流れ出す音楽がドラマとマッチしている。
少し謎が解けたところで、ミステリアスな雰囲気を醸し出しながら流れる音楽と共に次週への新たな謎を生み出す予告に切り替わり、視聴者を惹きつける。
1週間の楽しみになりつつあるドラマも、残り数話と佳境に差し掛かってきた。
毎週日曜夜9時を楽しみにしている方には、是非とも原作小説も楽しんでもらいたい。
こんな人におすすめ!
- ミステリーが好き
- 東野圭吾作品が好き
- 美人に翻弄されたい
- ドラマ『危険なビーナス』を観ていて、原作本に興味がある
あらすじ・内容紹介
小学生の時、売れない画家の父・手島一清(てしま かずきよ)を病気で亡くし、母・禎子(ていこ)と慎ましく暮らしていた伯朗(はくろう)。
その後、母が資産家の矢神家に嫁いだが、ある日、母は風呂場で事故死した。
月日は流れ、都内の小さな動物病院で院長代理の獣医師として働き、平凡に暮らす伯朗の元に、異父兄弟の弟・矢神明人(やがみ あきと)の妻と名乗る女・楓(かえで)から連絡が入る。
「行方不明なんです、明人君。もう四日も帰らないんです」
楓により、母の再婚相手であり、現在の矢神家当主でもある康治(やすはる)が末期がんに冒されており、そう長くないことと、明人が失踪したことを知る。
母の死後、矢神家と縁を切っていた伯朗だが、楓に頼まれ、弟の行方を捜すため、再び矢神の屋敷へ。
『危険なビーナス』の感想・特徴(ネタバレなし)
謎に包まれた妻・楓は一体何者!?
ドラマと原作、ストーリーに微妙な違いがあるが、共通して言えるのは、登場人物が全員怪しいことだ。
いつ息を引き取ってもおかしくない状態である康治氏の遺産を巡り、矢神家が集う親族会が開かれるが、容態よりも、総額30億円の遺産にしか興味がない一族の面々。
新しい登場人物が出てくるたびに、この人には何か裏があるのでは?と勘ぐってしまう。
矢神の血を引く者とそうでない者が入り交じり、複雑な親族関係で成り立つ矢神家。
金・地位・名誉の為ならどんな汚い手を使うことも厭わないという噂もあり、全員が犯人候補になるほど怪しい。
だが、最も謎に包まれた存在が、楓だ。
弟が結婚したことすら知らなかったのに、突然その妻が現われ、夫が行方不明だから一緒に探してほしいと言う。
一応親戚だとしても、初対面の相手にそんな気やすく頼み事ができるほど交流も深まっていない。
俄かに信じがたいところだが、美人に弱い伯朗は楓に協力し、コンビで明人の捜索にあたることになるのだが、彼女の行動が全く読めない。
「明人君の意向は、次の通りです。喜んで、亡き祖父の遺志を継ぎたい。すなわち、矢神邸及び、それに付随するすべてを相続する。その際、二十年前に支払われた法定相続人への遺留分についても改めて精査を行い、不正がなかったかどうかを確認したい。不正が判明した場合には、直ちに返還を要求する。—以上です。」
明人が失踪したことを矢神家の人間には教えずに捜索をしているはずなのに、本人の正確な意向を知らないまま、親戚の前で随分と大胆な発言をするなど、時折突拍子もない不可解な行動を取る楓にヒヤヒヤさせられる。
ただの不思議ちゃんなのか、それとも財産目当てで明人と結婚し、実は黒幕なのか、とにかく怪しい。
かと思えば、いなくなった夫を探すため、なりふり構わず、必死に探している様子もある。
楓「お義兄様、何事にも手順は必要です」
伯朗「手順?」
楓「どんなことが起きても、決して後悔しないための手順です。あたしは今、あたしにできることを精一杯やっています。もしかすると明人君の行方を掴むことには繋がってないのかもしれない。でもただ立ち止まっているより、ただ待っているより、何かに向かっていくほうがあたしには向いているんです」
読者は伯朗と同じく、吉高由里子さん演じる美人妻・楓に翻弄されることになる。
母の謎の死と明人の失踪に関係はあるのか?
明人捜しを進める中で、20年前の相続と今回問題となっている康治氏の遺産相続の他に失踪原因として考えられる可能性がもう1つ浮上する。
それが、2人の母である禎子の謎の死だ。
伯朗と明人の実母・禎子は2人が子供の頃、実家(小泉の家)の風呂場で死んでいるのを妹の順子が発見した。
警察は事故死と判断したが、伯朗も明人もその死因に納得がいかぬまま時が過ぎ、大人になっていた。
事故当時、禎子も順子も既に実家を出ていて、誰も住んでいなかった。
その小泉の家の風呂場で、彼女はなぜ変わり果てた姿になって見つかったのか?疑問が残る。
「事故じゃないというのか」
「小泉の家の玄関ドアにはドアチェーンが付いてる。母さんは用心深い人だった。戸締まりするのに、チェーンをかけないってことはないと思う」
そもそも、決して豊かとは言えない生活をしていた禎子と、代々医師の家系で資産家でもある康治氏との結婚は家柄の釣り合いが悪い。
禎子の不審死は、彼女の嫁入りを快く思っていなかった矢神家の人間による仕業で、その犯人を見つけてしまった明人は口封じされてしまったのでは?
何日経っても明人の消息が掴めないことを考えると、最悪のケースも想定できる。
結局、犯人は誰なのか?
考えを張り巡らせながら推理し、探偵になった気持ちになれるミステリー作品。
予想していた犯人が翌週にはシロだったなんてオチも付きながら、毎週話ごとに犯人を予想しながらドラマを観ている方も多いだろう。
原作本でも、話が展開するごとに怪しい人物がコロコロ変わっていく。
ドラマではディーン・フジオカさんが演じる矢神家の養子・勇磨(ゆうま)は、子どもの頃から伯朗に対して意地悪だったが、大人になっても変わらぬ嫌なヤツだ。
「そこは君の席じゃない」冷淡な声が飛んできた。勇磨だった。「波江さんの席だ」
伯朗が見返すと、勇磨は黙って自分の斜め右、つまり一番左端の席を指さした。たしかにそこにもプレースマットは敷いてあった。
人妻の楓をディナーに誘い出したり、こちら側の持っている情報を集めようとしたり、何かを裏で企んでいる様な怪しい気配がある。
母が矢神家に嫁ぎ、父違いの弟・明人が誕生した。
明人には矢神の血が流れている。
資産家の息子で、幼少期から人並外れた頭脳の持ち主でもあった。
読み書きを覚えるのが早かっただけでなく、一度見聞きしたことを正確に、しかも長期間記憶していられるようだった。
矢神家と直接血の繋がりがなく、取り柄のない伯朗は、より一層肩身の狭い思いをしながら矢神家で育ち、自分の意思で手島姓を名乗り続けることを選んだ。
幼稚園の段階で、足し算や引き算は無論のこと、かけ算や割り算の仕組みを感覚で理解していた。
兄弟でこれだけの格差がある環境で育った伯朗。
普通ならグレて非行に走ってしまいそうだが、彼にそんな影は全くなく、それが却って不自然という気もする。
表の顔は弟を懸命に探す兄で、実は裏の顔を持っているのでは?
この様に様々な憶測が脳内を交錯し、読み進める度にまた別の犯人像が浮かぶ。
犯人が解明するラストまで、考察を繰り広げながら作品を楽しんでもらいたい。
まとめ
ドラマが面白くて、最終話を待たずに結末が知りたくなってしまい、原作本を読んでみた。
読み始めはドラマと微妙に違うストーリーに少し戸惑ったが、原作は原作として楽しめたし、結末を知っていても、ドラマはドラマとして楽しめている。
東野圭吾は、工学部出身の元エンジニアであるが、彼が理系出身の作家であることを感じずにはいられない結末であった。
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