過去に大きなトラウマを抱える高校2年生、〈井上心葉(いのうえ このは)〉。
〈君子危うききに近寄らず〉をモットーとし、他人との付き合いを可能な限り避ける消極的な彼は、とある偶然から生粋の文学少女、〈天野遠子〉(あまの とおこ)〉の〈文学を食べる〉という秘密を知ってしまう。
遠子の秘密を知ってしまったことにより、心葉は強制的に文学部に入部させられ、更に遠子の〈おやつ〉として毎日三題噺を書かされることとなる。
無邪気かつ天真爛漫な遠子の、〈これは事件よ!〉という叫びに頭を抱えつつも、少しずつ遠子に心を許していく心葉。
更に、遠子が事件に首を突っ込みまくる中で知り合った人々との触れ合いを通し、彼は徐々に精神的な成長を遂げていく…。
文学少女・天野遠子が〈想像力〉で謎を解く、残酷で美しい青春ミステリー。
こんな人におすすめ!
- 青春小説が好きな人
- 文学作品が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
14歳にして、謎の美少女覆面作家・〈井上ミウ(いのうえ〜)〉としてデビューした過去を持つ少年、〈井上心葉〉。
彼の書いた小説、〈青空(ソラ)に似ている〉は大ベストセラーとなり、映画化やドラマ化もされた。
しかし、それに伴って起こった〈とある事件〉によって深いトラウマを負った彼は、極力他人と関わらない消極的な性格となる。
そんな彼の前に現れたのは、古式ゆかしい文学少女・〈天野遠子〉。
文学が〈食べちゃうくらい〉好きと豪語する彼女は、なんと本当に文学を〈紙ごと〉食べる不思議な存在だった。
ひょんなことから彼女の秘密を知った心葉は、無理やり文芸部に入部させられ、遠子の〈おやつ〉として毎日三題噺を書かされることになる。
遠子に振り回される日々に頭を抱えつつも、心葉は徐々に心を開いていく。
更に、無邪気で天真爛漫な遠子は、〈これは事件よ!〉の声と共に凡ゆる事件へと首を突っ込んでいく。
2人の前に立ちはだかるのは、人の心が織りなす残酷な事件の数々。
数々の事件と直面し、打ちのめされながらも、そこで知り合った人々との関わりを経て、精神的な成長を遂げていく心葉。
そんな彼の前に再び現れる、過去のトラウマ。
そしてその先にある、1つの別れ。
深い哀しみと、ささやかな喜びに彩られた学生生活の後、彼はどのような人生を歩むのか。
文学少女が豊かな〈想像力〉によって謎を解く、残酷で美しい青春ミステリー小説。
『文学少女シリーズ』の感想・特徴(ネタバレなし)
物語を織りなす、個性的なキャラクター達
これだから文学少女は油断ならない
今作を彩るのは、個性溢れるキャラクター達だ。
主人公として物語の語り部を務める〈井上心葉〉は、〈君子危うきに近寄らず〉をモットーとする少し冷めた少年だ。
過去に〈美少女小説家〉としてデビューした彼は、それに伴って起こった〈とある事件〉をきっかけに、大きなトラウマを負っている。
そして、そんな心葉を振り回すもう1人の主人公にしてヒロイン、〈天野遠子〉。
文学を〈食べちゃうくらい〉愛する彼女は、比喩ではなく本当に本を食べるという特殊な少女だ。
文芸部の部長を務めており、心葉を強引に入部させて常に〈おやつ〉を書かせる日々を送っている。
自由奔放で、何にでも首を突っ込む彼女の言動は、トラウマに苦しむ心葉の心を少しずつ癒していく。
そんな2人を中心として、様々な人物が事件を通して2人のもとに集う。
心葉に想いを寄せながら、中々素直になれない少女、〈琴吹ななせ(ことぶき〜)〉。
女性にモテる精神的マゾにして、遠子の弟、〈櫻井流人(さくらい りゅうと)〉。
誠実であることを自らに課した心葉のクラスメイト、〈芥川一詩(あくたがわ かずし)〉。
そして、心葉の心に大きな爪痕を残した少女、〈朝倉美羽(あさくら みう)〉。
その他にも大勢のキャラクターが登場し、皆一様に心に傷を負いながらも、前に進んで行こうとする。
少年少女が、もがき苦しみながらも、少しずつ成長を遂げていく美しさは、観るものの心にきっと何かを訴えかける筈だ。
美しく儚い、端正な物語
本を閉じれば、物語は終わってしまうのかしら?
そんな少年少女達の前に立ち塞がるのは、名作文学に擬えられて起こる残酷な事件の数々だ。
テーマとなる作品は、実に多種多様。
太宰治の『人間失格』や、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』、ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』など、和洋問わず様々な作品がモチーフに選ばれている。
其々の作品へのリスペクトを込めながら、新たな物語へと見事に昇華された事件は、美しく儚い残酷さに満ちている。
そんな様々な事件を解決しようと挑む、天野遠子の〈想像〉からも、目が離せない。
愛が溢れる、文学作品の紹介
やっぱりギャリコは美味しい〜〜〜〜!
題材となった作品の他にも、作中では天野遠子による〈文学作品紹介〉が所々で挟まれる。
物語を文字通り〈食べる〉遠子による文学作品の紹介は、物語の魅力をお菓子に例え、〈味〉として語るというオリジナリティに溢れたものだ。
各作品の魅力を存分に語ってくれており、新たな書籍との出会いの一助ともなってくれるだろう。
まとめ
数々の文学作品をモチーフとした事件に、個性豊かなキャラクター達が挑む今作。
作中で起こる事件は非常に残酷で、だからこそ美しい。
事件に挑む心葉と遠子が、どの様な想いを抱き、どんな未来へと踏み出していくのかは必見だ。
また今作は、モチーフとなった作品以外にも、多様な文学作品を魅力的に紹介してくれる作品でもあり、きっと新しい1冊との出会いの助けにもなってくれる筈だ。
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