時代小説おすすめ10選【かつての時代をともに旅する一冊】

純文学、ミステリー、ファンタジー、SF……。

今や世の中にはさまざまな小説ジャンルがあふれているが、かつては「大衆文学といえば時代小説」であった。

似たジャンルである歴史小説がほぼほぼ史実に即した内容であり、評論的な一面を持つ一方、捕物帳や剣豪小説などの時代小説で活躍する多種多彩な人物たちは、大衆に広く受け入れられた。

明治の中頃に花開き、大正・昭和を経てその認知度を高めていった時代小説。

この記事では、そんな時代小説の中でも珠玉の10選をご紹介する。

時代小説おすすめ10選

藤沢周平『冤罪』

時代小説の名手として知られる藤沢周平による短編集。

収録されているのは、表題作の『冤罪』を含む9作品。

いずれも直木賞の受賞直後に書かれたもので、勢いに乗る新進気鋭の作家(当時)の伸びやかな筆致を楽しむことができる。

もちろん、デビュー当時から小説巧者として知られる藤沢周平の著作なので、その安定感・面白さはともに一級品だ。

 

ジャンルはいわゆる「武家もの」。

主に下級武士たちの悲喜こもごもが、江戸時代を舞台にして鮮やかに描かれている。

藤沢作品ではおなじみの「海坂藩(藤沢による架空の藩)」も登場するので、藤沢ファンは必見だ。

和田竜『のぼうの城』

2012年に野村萬斎主演で映画化されたことも記憶に新しい本作。

映画『のぼうの城』は日本アカデミー賞でも多数の優秀賞を獲得するヒット作となったため、普段あまり小説に親しまない方でも、きっとタイトルは目にしたことがあるだろう。

 

時は戦国時代。

天下統一を目前に控えた豊臣秀吉が次に狙うは、北条家の支城・忍城。

押し寄せてくる二万の軍勢に対抗するは、日頃領民たちから「のぼう様」と呼ばれている城代の成田長親である。

「のぼう様」の語源は「でくのぼう」。

二万の軍勢に立ち向かうにはいささか頼りなく感じるが、果たして……?

高田郁『八朔の雪 みをつくし料理帖』

時代小説の人気ジャンルは、武家ものや戦国ものばかりではない。

市井の人々の活気ある姿を描いた「町人もの」も、決して外せないジャンルのひとつ。

『八朔の雪 みをつくし料理帖』も、そんな「町人もの」の時代小説だ。

 

主人公の澪(みお)は18歳。

幼くして家族を喪い、勤め先も失った彼女は、郷里の大阪から裸一貫で江戸へと出てくる。

本作では、そんな彼女がひたむきに料理の腕を磨く姿が描かれている。

料理や、周囲の人々と真摯に向き合いながら、日々の小さな幸せをそっと慈しむ澪。

そのひたむきな姿は、日常に忙殺されて、つい忘れがちな「大切なこと」を思い出させてくれることだろう。

みをつくし料理帖シリーズ『八朔の雪』高田郁【天涯孤独の少女、一流の女料理人を目指す】みをつくし料理帖シリーズ『八朔の雪』原作小説【天涯孤独の少女、一流の女料理人を目指す】

池波正太郎『鬼平犯科帳』

料理繋がりでもうひと作品ご紹介したいのが『鬼平犯科帳』だ。

こちらも過去にドラマ化・映画化されており、半世紀近い長きにわたって断続的に放映されていた大人気作だ。

「『鬼平犯科帳』といえば捕物帳じゃないか。どこに料理が関係あるんだ」と思う方もいるだろう。

仰るとおり、主人公の長谷川平蔵は火付盗賊改方であり、情深くいなせな男・平蔵が、あの手この手を駆使して江戸にはびこる悪を取り締まる姿が物語の主軸に据えられている。

しかし、その主軸を影で支えている名脇役こそが「料理」なのだ。

登場人物らが旨そうに頬張る江戸前料理の数々。

文学界きっての食通として知られる池波正太郎の手腕がいかんなく発揮された食の描写は、読者の胃袋を刺激してやまない。

平蔵の活躍を通して江戸の市井のにおいを知り、描かれる料理の数々を通して江戸の食文化のにおいを知る。

それが『鬼平犯科帳』シリーズの真の楽しみ方ではないだろうか。

百田尚樹『影法師』

『永遠の0』『海賊とよばれた男』などの話題作を多数手掛けたことで知られる作家・百田尚樹。

そんな百田が初めて時代小説に挑んだのが、本作『影法師』だ。

 

時は江戸時代。

勘一と彦四郎は茅島藩(架空の藩)でともに青春を過ごした。

頭脳明晰で人柄もよく、剣の腕も立つ彦四郎。

やがて勘一と彦四郎は唯一無二の親友となるが、ある事件をきっかけにしてふたりの運命の歯車が狂い出し……。

武士とはなにか、真に守り抜きたいものはなにか。

タイトルの『影法師』が示す真意を知ったとき、本作はあなたの中で不動の名作として名を刻むことだろう。

宮部みゆき『ぼんくら』

ミステリーの名手・宮部みゆきが手掛ける時代小説『ぼんくら』。

主人公の井筒平四郎は、見廻り方同心という、今で言うところの警察のような役職に就いているのだが、これが大の面倒くさがりで怠け者。

挙げ句、見廻りの途中で知り合いの惣菜屋に立ち寄っては立ち話、つまみ食いを繰り返すという有様だが、飾らない姿と憎めない人柄のために、市井の人々からは愛される存在だ。

そんな平四郎だが、ここは宮部ワールド。

のほほんとしてばかりはいられない。

何気ない日常描写の中にも伏線が散りばめられており、やがて平四郎はきな臭い事件に巻き込まれていくのだが……。

 

宮部みゆき作品の持ち味といえば、現実の出来事かと錯覚せんばかりに練り上げられた、緻密でリアリティある物語だろう。

本作『ぼんくら』でもその手腕が発揮されており、惣菜屋から立ち昇る旨そうなにおい、砂埃をたてる未舗装の道路、喧騒かしましい市井のようすなどが、まるで目の前で実際に繰り広げられているかのように感じられる。

畠中恵『つくもがみ貸します』

時代小説と聞くと、どうしても敷居が高く感じられがちだが、本作『つくもがみ貸します』はそんな心のハードルを簡単に取り払ってくれる作品だ。

漫画化・アニメ化もされるほど親しまれている作品なので、時代小説デビューにはうってつけの作品といえよう。

 

主人公は、江戸は深川で古道具屋兼損料屋「出雲屋」を営むお紅と清次の姉弟。

損料屋とは、今で言うところのレンタル業者のようなもので、料金を払えば衣服や夜具、さまざまな器具を貸し出してくれる店である。

そんな「出雲屋」には多種多様な道具が揃っているのだが、百年も経てば道具にも魂が宿り、付喪神(つくもがみ)と成ったりもして……。

 

いたずら好きで、どこか憎めない付喪神たちが、お紅たち姉弟を巻き込んで騒動を巻き起こす『つくもがみ貸します』。

姉弟と付喪神の掛け合いは楽しげでほのぼのしており、「こんな付喪神なら借りてみたい」と思うこと請け合いだ。

畠中恵『しゃばけ』

『つくもがみ貸します』シリーズで畠中恵ファンになった方にもう一作おすすめしたいのが本作『しゃばけ』だ。

ジャンルは「ファンタジー時代小説」。

一般的な時代小説に比べると格段にとっつきやすいため、時代小説初心者の方でもすいすい読み進めることができるだろう。

 

時は江戸時代。

江戸の大店「長崎屋」の跡取り息子・一太郎は、生まれながらの虚弱体質で、風が吹けば寝込んでしまうような有様。

両親や「長崎屋」の手代たちは、そんな一太郎を溺愛しているのだが、ふたりの手代・佐助と仁吉は少々過保護がすぎるようにも感じられる。

そのうえ、佐助と仁吉はただの手代ではなく、その正体は犬神・白沢という妖で……?!

佐助と仁吉を筆頭に、「長崎屋」に住まう妖たちと、若だんな・一太郎が巻き起こす騒動を描いた作品だ。

浅田次郎『一路』

「書くのは最大の道楽」と語る無類の小説好き、浅田次郎による時代小説。

多数の作品を発表している浅田だが、祖先が武士である(確証はない)ことから時代小説も多く手掛けている。

 

江戸幕府が日本中を治める文久2年。

失火が元で突然父を喪い、若干19歳という若さで江戸への参勤を差配することになった小野寺一路が主人公だ。

まだ若く、現役であった父親からは仕事について何も教わっておらず、親戚や家中のものからも協力を拒まれる始末。

唯一頼れるのは、焼け跡から見つかった230年も前の古びた記録だけ……。

雪深い中山道、殿様の到着の遅れ、さらにはこれを機にと御家乗っ取りを企む一派の暗躍もあり、一路の参勤交代は困難を極める。

一所懸命に己の仕事を果たそうとする一路だが、果たして道は開けるのか?

佐伯泰英『陽炎の辻 ― 居眠り磐音 江戸双紙』

ここまでさまざまな時代小説をご紹介してきたが、最後はシリーズ累計発行部数が2,000万部を超えるベストセラーで締めくくろうと思う。

全51巻、刊行期間は2002年4月から2016年1月までのおよそ14年に渡る、壮大な『陽炎の辻』シリーズ。

2007年から2017年にかけては『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』としてテレビドラマシリーズ化された。

2008年には漫画化、2019年には映画化も果たしている。

 

主人公の坂崎磐音は、九州の豊後関前藩(架空の藩)の中老・坂崎正睦の嫡男である。

剣を構えた姿が縁側で居眠りをしている年寄り猫のように見えるとして「居眠り剣法」などと呼ばれているが、その腕は随一。

直心影流目録の腕前だ。

藩内の騒動に巻き込まれ、家族や親友、許嫁まで失った磐音。

序盤から衝撃的な幕開けの本作は、手に汗握る剣戟シーンで読者の心を惹きつける。

いざ読んでみればあっという間の51冊。

時代小説の面白さを知った方には、ぜひこれを機に『陽炎の辻』シリーズに挑んでいただきたい。

おわりに

かつての時代を舞台に、生き生きとした表情を見せる登場人物たち。

ひとくちに「時代小説」と言ってもそのジャンルは幅広く、より自分に合ったジャンルを探してみるのも一興だろう。

今の世にはない市井の有様。

今の世にも通じる人の有様の両面を楽しむことができる時代小説。

剣戟と砂埃、かしましい笑い声にあふれた古い時代の町々を、ぜひ特別な一冊とともに旅してみてはいかがだろうか。

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