イラン ・テヘランで誕生し、エジプト・カイロ、大阪で育った稀有な生い立ちを持つ作家・西加奈子。独特の感性や文章のリズム、様々な国籍やバックグラウンドの人物が登場するのが特徴的です。
今回は読書好きのみなさんに最大5冊まで西加奈子のおすすめ作品を選んでいただきました。その結果をランキング形式でご紹介します。
目次
オーディオブックで
西加奈子の小説を聴こう!
今流行りの「聴く本」オーディオブックは、スマホで朗読を聴く新しい読書の形です。
おすすめはAmazonが運営する「Audible」。
西加奈子の小説をプロのナレーターの朗読で聴くことができます。
【下記の作品は30日間無料聴き放題です!】
・サラバ!
・さくら
・あおい
・きいろいゾウ
・こうふく あかの
西加奈子のプロフィール
1977年、イランの首都テヘラン生まれ。関西大学法学部卒。デビュー作は『あおい』(2004年)。2007年『通天閣』で第24回織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木賞を受賞。2021年には『漁港の肉子ちゃん』が明石家さんまプロデュースでアニメ映画化された。
1位『サラバ!』
ふっかー復活委員長
【人は、信じるものをいかにして決めるのか】
人物造形が絶妙で、どんなにぶっとんだキャラであっても頭にすっと入ってくる。どれもが「いつかの自分の姿としてありうる」と思えてくるのが不思議だ。
謙虚な生き方を志向しながらも、家族を語る時は「神の視点」になってしまっていた歩。彼の精神世界が、貴子が「芯」を手に入れたことでグシャグシャに崩れていく。その屈折したカタルシスに痺れた。
真剣に向き合えば、きっと無傷ではいられない。しかし、必ず心の皮膚を強くしてくれる物語。
yurika
イラン、大阪、エジプトと舞台がぐるぐる変わっていく。早く進んでいるにも関わらず、テンポの良さが心地よかったです。
主人公・歩があまりにも受け身なのには、正直イライラしますが、これもまた作品の良さを出しています。あれだけ個性の強い人が回りに多いと、受け身になってしまうのでしょうね。
あわよくばニセ明さんに
夢中で読みました。国も違うし宗教も違う、なんなら人それぞれも違う。ばらばら、でもひとつ。そんな感じがしました。
こんな魅力のある小説を書けるのは、西加奈子さんだからこそなのではないかと思いました。
僕はこの世界に左足から登場したー。圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。
2位『i』
30代男性
アメリカ人の父、日本人の母の間に養子として向かい受けられるアイ。
彼女なりの愛をもがきながらも探していき人として成長していく作品です。
読み終わった後、愛することとは案外単調で単純な考えで生まれるものだと思いました。愛に対して俯瞰的な考えを持っている人たちには是非とも読んでもらいたいです!
30代男性
世界中の悲惨な災害や紛争など現実の内容を反映させている小説でありました。
恵まれた環境故に抱く罪悪感、しかしそう考えてしまうのも偽善の一種なのではないかと感じました。
主人公もまた、罪悪感と偽善の間で揺れ動く感情変化、その心情描写が繰り返されることによって自然とテーマについて考えつつも中に引き込まれていたのです。
「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。ある「奇跡」が起こるまでは―。
3位『きいろいゾウ』
僕はまだ結婚もしていないし、同棲の経験も無い。だから家族以外の誰かと一緒に暮らした事は無いけど、本当に好きな人と暮らすという事は幸せでこの上ない幸福感に溢れているんだろう。
普通、ゾウのイメージって、グレーでどっしりとそして、ゆったりした感じ。でも、「きいろい」になるとそのイメージがぼやけて、ふわふわした様な明るくぼやけた印象がする。まるで間接照明みたいな感じ。これは、とある男女のまったりとした生活を覗き見している様なスローライフを綴る物語。
眠れない夜、人恋しくなる頃に一読してみて下さい。
私が初めて西加奈子さんの作品に触れるきっかけになった本です。印象的な表紙、本編の間に挟まれる短いお話。それがとっても魅力的な小説です。
読み終わったあとはとってもほっこりした気持ちになります!
夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだったー。
4位『白いしるし』
画家を目指すものの芽が出ないまま32歳を迎えた夏目は、ある日見た絵と作者の間島に心を奪われます。夏目の理性は彼を好きになってはいけないと警告しますが、既に心は彼に向かって走り出していました。
誰よりも甘く自分を満たすのに、自分だけのものにはならない間島。体を繋げた悦びの後には、もっと残酷な事実が夏目を待っていました。時にピュアで時に醜悪な恋心には誰もが思い当たるところがあり、全力で恋をして壊れていく夏目と過去の自分が重なる人もいるでしょう。
夏目にとって「白」は間島そのもので、この作品は終わった恋を象徴する「しるし」をもっている女性たちの、狂おしい記憶を呼び覚まします。今までで、一番好きだった人を想いながら読んでください。
【あなたは、真摯な「分からない」が言えますか】間島昭史は、「分からない」という言葉で人の心を掴んでしまう。その素直な魂に感化され、夏目はどうしようもなく変わる。彼らの熱にあてられると、人間関係を理屈で考えることが馬鹿らしくなる。見られて完成する作品。読まれて完結する物語。それらはきっと、崩されたがるパフェのようにあなたを待つ。
5位『漁港の肉子ちゃん』
明石家さんまプロデュースでアニメ映画化
男にだまされた母・肉子ちゃんと共に北の町に流れ着いた娘のキクりん。やがて肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働きはじめるものの、思春期にさしかかったキクりんは、自分とまるで似ていないブスでデブでおばかな母親を恥ずかしく思い始めます。
底抜けに明るく朗らかでお喋り。バイタリティのかたまりである肉子ちゃんの、笑いが絶えない日常に元気をもらえる一冊。男に捨てられ各地を転々としてきた不幸をものともせず笑って生きる母と、そんな母を時に辛辣に、時に愛情もって観察しながら鋭いツッコミを入れる娘の温度差が小気味良く、コミカルな表現に何回も吹き出しました。
この小説を読めば肉子ちゃんとキクりんを好きになり、2人の幸せを願わずにはいられませんよ。
それぞれのキャラクターが素晴らしく、コミカルでシリアスで、そして最後には涙腺を揺さぶられて。本当に手にしてよかった1冊です!
6位『きりこについて』
1人の女の子が可愛がられ育ち、拾った黒猫と共にどう生きていくかという物語。
最初は見た目の描写が酷いです(笑)西加奈子さんらしい表現の仕方で重い内容も軽く読めます。性犯罪に触れているので大人向けです。
読み終えた時は、人は外見か中身か、それだけじゃなくて人生経験含めて魅力になるのではないかなと思えました。
小学校の体育館裏で、きりこが見つけた黒猫ラムセス2世はとても賢くて、大きくなるにつれ人の言葉を覚えていった。両親の愛情を浴びて育ったきりこだったけれど、5年生の時、好きな男の子に「ぶす」と言われ、強いショックを受ける。悩んで引きこもる日々。やがて、きりこはラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。きりこが見つけた世の中でいちばん大切なこととは?
7位『さくら』
ヒーローのようだった兄、そんな兄が亡くなり家族はバラバラになっていく。
それぞれが抱える苦悩や葛藤が生々しく、涙なしには読めない物語です。辛い物語の中で愛犬のサクラはとても癒しの存在でした。
兄の残した「ギブアップ」の言葉がとにかくつらかった。だけど、切なくもラストはあたたかい気持ちになれました。
「好きな人ができたら好きって伝える、その人がいついなくなってしまうか分からないから」今でもこの言葉が私の中に残っています。言葉の重みをより実感した作品です。
両親、三兄弟の家族に、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた犬が一匹。どこにでもいそうな家族に、大きな出来事が起こる。そして一家の愛犬・サクラが倒れた–。
8位『夜が明ける』
2022年本屋大賞6位
主人公の「俺」が学生時代に出会ったアキこと深沢暁は貧困母子家庭の出身で、十分な教育を受けられず、吃音癖に悩んでいました。2人は固い友情を誓うものの、社会に出たのち不当な扱いに苦しめられ……。
貧困・虐待・介護・過重労働と、現代日本が抱える格差問題を徹底的に掘り下げており、組織の底辺でこき使われるアキと「俺」に降りかかる困難の数々が、他人事とは思えなくなりました。過酷な展開にはごっそり体力を削られますが、読後感が不思議と清々しいのは、社会の不条理をさんざん噛みしめた語り手と一体化し、夜明けを迎えられたからでしょうか。
他人に助けを求めるのを恥じている読者は、2人の生き様に勇気をもらえるはずです。
安易に希望を見せるような展開にせず、このまま主人公はどん底にいたまま終わってしまうのではないかという緊張感があるのも良かったです。読んでて少し気分は落ちますが、厳しい現実を直視するという意味でも大切な作品だと思いました。
過酷な労働条件で心身ともに疲労していく様子や、吃音持ちなど、今作の登場人物たちは自分と共通点があるためより一層読んでいてきつい部分もありましたが、懲りずにまた外の世界に救いを求めて光を探し続けなければならないという気持ちにもなりました。
9位『舞台』
【人生の主役になりたいなんて、頼んだ覚えはない】
自分の影に苦しむ主人公の姿を、「自意識過剰」の5文字では嗤えなかった。内面化された他者の視線は、それが実は自分の目だと分かっていても、振り切ることが難しい。
独善的なナレーションばかりが脳内に鳴り響き、時は過ぎてゆく。そんな「自分語り」病患者は、私だけじゃないんだなと思いました。
太宰治『人間失格』を愛する29歳の葉太。初めての海外、ガイドブックを丸暗記してニューヨーク旅行に臨むが、初日の盗難で無一文になる。間抜けと哀れまれることに耐えられずあくまで平然と振る舞おうとしたことで、旅は一日4ドルの極限生活に―。
10位『円卓』
前半笑えて、最後泣きました。ラストシーンが素晴らしかった。
子ども達の上に雪のように降り積もる言葉。これから進む未来は楽しく、辛く、哀しく愛すべきたくさんのもの(言葉)で溢れている。生きていくという事は大人にならないといけないという事、死に向かって老いていかないといけないという事。
それは時に残酷で悲しい。でもたとえ何があろうとも、家族や友だちや愛する人がいるなら大丈夫!
公団住宅で三つ子の姉と、両親、祖父母に愛されて暮らす「こっこ」こと渦原琴子は、口が悪く、偏屈で硬派な、孤独に憧れる小学三年生。こっこの日常は、不満と問題と驚きと発見に満ちている。世間の価値観に立ち止まり、悩み考え成長する姿を、活きのいい言葉でユーモラスに温かく描く。
11位『通天閣』
大阪が舞台になった物語だけあって、コテコテで人情味の溢れる人がたくさん登場しておもしろいです!
通天閣の近くで2人の主人公が暮らしているわけですが、冴えない日常の中でどうして2人が結ばれたかが、徐々にわかってくるのが楽しいポイント。
すべてが納得できるような結末のため、何度も読み直したくなる作品です。
前半は特に大阪のダークなゾーンがかなりリアルに描かれているので驚く方も多いかもしれません。
しかしながら、人情味あふれる大阪で頑張っている人々は自分なりの幸せを見つけようともがく姿を見ていると、まだまだ日本も捨てたものではないなと感じる次第です。
特に大阪出身の私にとってはあまりにもリアルな描写に終始驚かされっぱなしでした笑。
前半は大阪に住んでいる人々の日常を淡々と描いており、後半であるイベントが起きることによって予想外の展開を見せてくれます。
では前半は地味でつまらないかというと、全くそんなことはありません。何気ない会話から大阪の人たちの人情や面白さが伝わってきて、とても良かったです。
それに後半の盛り上がりもプラスされるので、印象深い作品となりました。
冬の大阪ミナミの町を舞台にして、若々しく勢いのある文体で、人情の機微がていねいに描かれていく。天性の物語作者ならではの語り口に、最初から最後までグイグイと引き込まれるように読み進み、クライマックスでは深い感動が訪れる。このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語。
12位『まく子』
【拝啓、おかわりありまくりですか?】
生物学者の福岡伸一さんによると、宇宙の物質は常に入れ替わっているという。きっと私たちは無意識のうちに、何かを「まいて」生きている。良いものも、悪いものも。
時代に目を向ければ、綺麗な言葉ではどうにもならない状況に気付く。例えば、いくら「寄り添っ」ても、痛みは分け合えないじゃないか?とか。それでも「自分が他の誰かでありうる可能性」を想像できれば、内的世界は広がるのだと感じた。
少女の秘密が、ぼくの世界を塗り替えた。信じること、与えること、受け入れること、そして変わっていくこと…。これは誰しもに宿る「奇跡」の物語。
13位『おまじない』
女の子であるが故の息苦しさのようなものが、サラリと描かれており、なるほどと頷きながら読み進められる短編集です。
中でも「孫係」は特にお勧め。変わっていると思われても、自分らしくありのまま生きることの大切さを教えられました。
相手を思いやることばかり考えていると、自分が辛くなってしまうとも思いました。
私自身、女性として生きることの難しさに全てを諦めてしまいそうになりながら今日までなんとか生きてきました。
普段本をたくさん読まないため、長編の作品は読破できないことも多々ありますが、本作は毎日一粒の飴を大事に舐めるように、ゆっくりと味わいつつ読めました。
女性という性であることとどう付き合っていけばいいのかわからなくなってしまった方におすすめの、女性目線の珠玉の短編集です!
さまざまな人生の転機に思い悩む女子たちの背中をそっと押してくれる魔法のひとことー。
14位『まにまに』
西加奈子さん自身の人柄や生活がにじみ出ているエッセイ集です。
ユーモアを交えながら描かれており、文章全体がコミカルな雰囲気です。また、関西地域特有の親しみやすさが作品全体に漂っています。
この作品を読んで以来「まにまに」という言葉が自然と口角が上がって、気に入りました。作者の豊かな感受性を堪能したい方に読んでほしいです。
作家さんの人柄や作家以外の顔をあまり知りたくないという妙なポリシーから、エッセイはあまり手に取ってこなかったのですが、これは読んで良かったです。
ゆるく油断させながらグッと笑わせ、真摯に本への愛情を語る。今まで読んだ作品から感じていた通りの、素敵な人だったんだなあと嬉しくなりました。
好きな作家さんは迷わず推し活していいと再確認できました。
「彼にさえ可愛く見られたらいいのだ!」とデート前に般若の形相で化粧直ししていた32歳の頃から、「体の声を聞くことができるようになってきた」という40代の入り口までー西加奈子の喜怒哀楽の変遷を綴ったエッセイ集。「まにまに」という言葉の如く、なすがまま正直に自分の感情と向き合う日常、世界各地への旅、大好きな音楽や本に寄せる熱き思い。
15位『ふくわらい』
幼少期から編集者として働く現在まで、福笑いに執着し続ける鳴木戸定。社会一般とズレた反応をしてしまうため浮いた存在として認知される彼女が、これまた変わっているとしか言いようのない人たちに囲まれて、自分と周りの世界を愛することに目覚めていく様子が心に響きます。
作家の無茶振りに応じて会社の屋上で雨乞いをするなど、定の行動は理解しがたいものばかりです。しかし彼女が人や世界をあるがままに受け入れていることに気づくと読者の世界は一変。多様性を尊重するとはどういうことかを、定の自然体から教えられます。
定に感じた歪さは希望に変わっていき、自分の内面の変化を嬉しく思えるはず。この作品の存在が、周りと違う自分に悩むたくさんの人を救ってくれるでしょう。
登場人物のキャラクターがとにかく濃い!主人公の鳴木戸定は、人の顔を福笑いのように分解してしまいます。とにかく変人ですが、他の登場人物との会話がなんともおかしくて笑ってしまいます。
16位『ふる』
【思い出し笑いできる一日って、いいな】
わかりみが深くても、そうでなくても、人はどこかで共感を求めている。自分のことを忘れないでほしいと思っている。それは決してカッコ悪いことではない。生きていく中で、すれ違い、言葉を取りこぼし、やがて名前すら忘れてしまった人たちの総称を「新田人生」というのかもしれない。
職場の会話を録音して聴き浸るという、奇妙な趣味を持つ主人公。しかし、自分も読書会やインタビューのテープを再生してニヤける性質なので、シンパシーを覚えた。
池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった―。
17位『あおい』
さっちゃんもカザマも痛い人です。その生き方はあまりに自分本位に思え、自分にとってこうありたいと思えるものではありませんでした。
それでも自由な彼らを本当は羨ましく思っているような気がして、悔しいけれど嫌いになれません。
西さんの綴る言葉がストレートなのに優しく、正直さを伝えてくるからでしょうか。難しい言葉はないのに、世間体を気にして生きる大人になってしまったことを指摘されたようでした。
表題作の他にも2編あり、誰かに言語化してほしい感覚の中をしばし漂うような、新しい読書の味わい方を知れる短編集です。
二七才、スナック勤務のあたしは、おなかに「俺の国」と称した変な地図を彫っている三才年下のダメ学生・カザマ君と四か月前から同棲している。ある日、あたしは妊娠していることに気付き、なぜか長野のペンションで泊り込みバイトを始めることに。しかし、バイト初日、早くも脱走を図り、深夜、山の中で途方に暮れて道の真ん中で寝転んでしまう。その時、あたしの目に途方もなく美しい、あるものが飛び込んでくる―。
18位『こうふく あかの』
この世に「こうふく」を欲しくないと思う人などおそらくいないでしょう。
では、「こうふく」とは何か?と聞かれると、なんて答えたらよいかわからないことがあります。
人によって「こうふく」という言葉に思い描くものは異なるのです。「こうふく」とはなんだろう、人として生きていく中で、そんな根源的な問いかけを改めて意識する機会を与えてくれる作品です。
結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の俺の妻が、ある日、他の男の子を宿す話。二〇三九年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。この二つのストーリーが交互に描かれる。三十九歳の俺は、しだいに腹が膨れていく妻に激しい憤りを覚える。やがてすべてに嫌気がさした俺は、逃避先のバリ島で溺れかけ、ある光景を目にする。帰国後、出産に立ち会った妻の腹から出てきた子の肌は、黒く輝いていた。負けることなど考えられない王者、アムンゼン・スコットは、物語の最後、全くの新人レスラーの挑戦を受ける。
19位『こうふく みどりの』
関西弁で展開されていくお話なので、生まれも育ちも関東の私には慣れない部分もありましたが、読み進めるにつれて、ひらがなの多い関西弁がすうっと頭に入っていくように読めるようになっていました。
主人公の緑はいつも繊細で、いろんなことを感じて、分かってしまう。そんな繊細な部分が愛おしいのです。
平凡な、または一般的に恵まれないかなという女性でも強く生きることで何かが見つかる。そんな読み終わった後の感想です。
「お前んち、いっつもええ匂いするのう。」そう言った転校生のコジマケンが気になる緑は、まだ初恋を知らない十四歳。夫(おじいちゃん)が失踪中のおばあちゃん、妻子ある男性を愛し緑を出産したお母さん、バツイチ(予定)子持ちの藍ちゃん、藍ちゃんの愛娘、桃ちゃん。なぜかいつも人が集まる、女ばかりの辰巳一家。そして、その辰巳家に縁のある、謎の女性棟田さん。それぞれの“女”が人知れず抱える、過去と生き様とはー。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございました。
自分の大好きな一冊、懐かしい一冊、再読してみたくなった一冊、気になってはいたが読めていない一冊など、ランクインしていましたでしょうか?
この記事を読んで新たな作品との出会いのきっかけになればと願っております。
他にもたくさんの作家さんのまとめ記事があるので、ぜひ覗いてみてください!
この記事を読んだあなたにおすすめ!
書き手にコメントを届ける