とある町にある一軒のシェアハウスに住む、ひと癖ふた癖もある人々と管理人が毎日を大切に生きていく物語。
こんな人におすすめ!
- 癒しが欲しい
- 謎解きが好き
- シェアハウスをしてみたい
あらすじ・内容紹介
物語の舞台は観門(みかど)。
観門は港と坂の町で、そこには通称ベイリー邸という古い洋館のシェアハウスが建つ。
坂の多い観門の中でもひとふんばり×5の先の坂の頂上付近にあり、なかなか眺めの良い位置である。
このシェアハウスには不愛想で人見知りな管理人のほかに既に男女3人が住み、共同生活をしている。そして、新しく1人の男性が加わる所から物語は始まる。
皆、不動産屋の紹介でクリスマスまでの期間限定「シェアハウスおためしキャンペーン」に誘われてやってきた。
とある秘密を抱えて。
共同生活から垣間見える人間模様が、人と人の繋がりの大切さを教えてくれるハートフルストーリー。
『シェアハウスかざみどり』の感想・特徴(ネタバレなし)
シェアハウスかざみどりへようこそ
ここには漫画、買い物が趣味の訳アリの引きこもり中年女性と、通販番組「テレマキオ」とその商品購入にいそしみ自らを専業主婦という女性、方向音痴の元タクシー運転手で現在はとある企業の社長付運転手をしていてある秘密を抱えている男性が住んでいる。
そこに、就職活動中の男子大学生が新しく入居した。
不動産屋の紹介では、月に一度、シェアハウスの暮らしや住み心地に関するレポートを提出するだけで、いろいろタダになるというキャンペーンを行っているらしい。
何とも好条件・好待遇な物件だ。
実は、この住人たちは様々な問題や悩みを抱えていて、自らの心の内をさらけ出さず、どこか心を閉ざしている。
出来ることなら秘密を明かすことなく静かに生活をしていきたいと考えていた彼らだったが、管理人がベイリー邸の住人達に愛嬌のある毒舌と独特な行動で気持ちを解きほぐしていく。
このベイリー邸には「風見鶏の七不思議」というものがある。
幸せを呼ぶという不思議な言い伝えで、色々な人や物を引き寄せ、はたまた目には見えないものも引き寄せてくれる。
「オバケ的なものは出ない、たぶん。この屋敷に伝わるのは『風見鶏の七不思議』くらいなもんだ」
そう言い放つのは少々ぶっきらぼうな青年。
思わず、吸血と聞き間違えてしまいそうなこの青年の名は弓月(きゅうげつ)という。
このシェアハウスかざみどりこと、ベイリー邸の管理人である。
風見鶏の七不思議はこうだ。
・ベイリー邸の風見鶏は鳴く。
・ベイリー邸の風見鶏は飛ぶ。
・ベイリー邸の風見鶏は願いをかなえる。
・ベイリー邸の風見鶏が海を見ているといいことがある。
・ベイリー邸の風見鶏が飛び立つと悪いことが起こる。
・ベイリー邸の風見鶏は悪運をはらう。
足りない最後の1つは、この作品を読んで確かめてみてほしい。
ちなみにガセの七不思議もあるので、注意して読むことをおすすめする。
祈ろう、風見鶏に
八角形の赤い屋根から、あの丸々とした大きな風見鶏が姿を消していたのである。
風見鶏はこのシェアハウスの名前の由来であり、シンボルになっている。
しかし、それがないとちょっと寂しくもあり、間抜けだ。
今まで気にも留めなかった住人はいざなくなると存在感や役割の大きさに気づかされた。
ぽっきりと折れた風見鶏とともに突如、管理人の弓月もいなくなっていた。
自由で神出鬼没な彼はいつまで経ってもベイリー邸には戻ってこず、しびれを切らして、とある人物に調査依頼をする。
そして、ようやく見つかったのだが、彼はなかなか帰ってこない。
それもそのはず、彼は壊れた風見鶏の復元を行っていたからだ。
弓月は言葉を切ると、急に恥ずかしくなったのか、舌打ちをして早口で言った。
――とにかく、そういうことだから。俺は風見鶏を直してから帰る。
風見鶏の帰還とクリスマスプレゼント
遂に住人達の尽力もあり、弓月がベイリー邸に戻ってきた。
ここでようやく序章から紡がれてきた物語が終章で1つにつながっていく。
管理人・弓月に関わる大きな出来事とシェアハウスの中で明かされていない「開かずの間」がついに明らかになり、最後にこれまで登場人物が一人ひとりリレーの様に物語のバトンを繋げて物語の謎が紐解かれる。
シェアハウスごっこをした一年弱、俺は毎日クリスマスプレゼントをもらっていたようなもんだ。
生きるって楽しいことでもあるんだって、おたくらに教えてもらった。人間って怖いやつばかりじゃないんだって、おたくらを見て知った。」
シェアハウスの醍醐味は、誰かと一緒に暮らすこと。
これに尽きる。
まとめ
人それぞれ誰にも言えないような悩みや忘れられない過去がある。
しかし、ちょっとした言葉掛けや人との出会い、ふとしたきっかけでもやもやとした気持ちいとも簡単に晴れる。
他人同士が干渉せずに生活をしていくことは難しいけど、誰かがそばに居てくれること、寄り添ってくれると思うと安心感がある。
どこかホッと涙する話に胸がじわっと熱くなる物語である。
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