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『52ヘルツのクジラたち』あらすじと感想【救済と贖罪の狭間に揺れる魂の物語】

52ヘルツのクジラたちサムネイル

小説は物語をつうじて読者に大切なことを訴えかけてくる。それは現実を生きるための希望だったり、社会問題であったりする。けれど、どんな物語も終わりを迎えてしまう。

そして数年も経てば、その結末も与えられた感動も忘れ去られてしまう。情報が氾濫する現代においてだと尚更のことだ。物語の結論やそこに込められた作者の訴えは、多くの人々にとって単なる「消費物」となってしまっているだろう。

しかし「量は質に転化する」という言葉のとおり、積み上げられた「消費物」は、1つの時代の訴えとして残り続ける。

その時代の訴えは、時として物語という形式を超えた形で現れる。本書はその最たる例だということは確信をもって言える。

こんな人におすすめ!

  • トラウマを抱えている人
  • 自分の過去の振る舞いに後悔している人
  • 1990年代後半から2000年代前半に社会に出た人

あらすじ・内容紹介

家族に虐待されていた過去をもつ主人公・三島貴瑚(みしまきこ)は、新たな人生をはじめるため、小さな港町へと引っ越してきた。

町内では貴瑚についてのとんでもない噂がたったり、プライベートなことまで詮索されるなど、うっとうしさを感じていた貴瑚だったが、それでもなんとか新しい生活をはじめようとする。

そんな暮らしのなかで貴子はある少年と出会う。彼は母親から「ムシ」と呼ばれ虐待されていたことを貴子は知る。

暗く重い過去のなかで犯してしまった自身の罪の贖罪のため「ムシ」を救おうと決心する貴瑚だったが、家族からの虐待を受けている「ムシ」の救出は難航する。

そんなとき、貴瑚の友人・美晴(みはる)が現れ、2人は協力し「ムシ」の救出に挑む。そのなかで明らかになっていく貴瑚の犯した罪。同じ境遇を背負う中で2人がたどり着いた希望とは──。

『52ヘルツのクジラたち』の感想・特徴(ネタバレなし)

「かわいそうな私」を超えて

結論から言おう。

本書は、ある時代が抱えた問題に対して、それでも答えらしきものを掴もうと必死に手を伸ばしている作品だ。

2021年本屋大賞第1位に選ばれた本書の面白さについて、この受賞の事実以上に説得的なものはないだろう。私がここでいくら本書の魅力を訴えたところで「それはそうでしょうね」の一言で片付けられかねない。

だからここでは物語の内容に触れつつも、先程の結論と本書がどのように結びついているのかということを語っていきたい。

まずはじめに押さえておきたいのは、主人公・貴瑚は心に深い傷を負っている人物であるということだ。

物語は貴瑚が大分県の小さな海辺の町で暮らし始めるところから幕をあけるが、そのとき既に彼女の心はひどく弱っている。厭世的な内面の独白があるのはその証拠だろう。

「思い出だけで生きていけたらいいのに。たった一度の言葉を永遠のダイヤに変えて、それを抱きしめて生きているひとだっているという。わたしもそうでありたいと思う」

このような独白には家族から虐待を受けていた貴瑚の過去が関係する。夜になれば夢のなかでそのトラウマを思い出してしまうのだ。

「母は玄関でわたしを何度も殴ったが、その怒りはそれだけでは収まらなかった。冬休みに入ってから、食事を満足にくれなくなった」

胸が締め付けられるような貴瑚の詳細な過去は本書に譲ろう。

世相的なことをいえば、このように主人公がトラウマを抱えている物語は決して斬新なものではないどころか、大量生産された過去がある。

精神科医の斎藤環は『心理学化する社会』のなかで次のように言う。

「しかしなんといっても、トラウマのインフレーションが顕著であるのは、(…)日本では、むしろアニメ作品でこの傾向が目立つ。(…)九〇年代後半にひとつのエポックとなった作品『新世紀エヴァンゲリオン』では、全編を通じてトラウマの物語が大々的に展開された」

また文学では、例えば『あられもない祈り』や『波打ち際の蛍』の作家・島本理生は同作以外にもトラウマ──傷ついた私というモチーフを繰り返し主題にしている。

では本作も、トラウマを主軸にした数ある物語の1つなのだろうか。

おそらくそうではない。例えば次のような台詞がある。

「何よそれ。あんたのやってることは、可哀想ごっこなんじゃないの!?」

これは人知れず港町へ移住した貴瑚に対する友人・美晴の怒りの言葉だ。トラウマを抱えた者にとっては冷水を頭から浴びせられるような一言だろう。

自身の状態を「自己陶酔」の一言で片付けられてしまいかねないからだ。本作がトラウマを主軸にした物語だとすれば痛恨の一言だ。

だが、改めて言おう。本作はトラウマを主軸にした物語ではない。厳密にいえば、トラウマ「だけ」を主軸にした物語ではないのだ。

もう1つの軸──それは「罪の意識」だ。このことを次節でみてみよう。

「罪の意識」をめぐって

海辺の町で生活をはじめた貴瑚は、「ムシ」と呼ばれ母親から虐待されている少年と出会う。虐待の事実を知った貴瑚は彼を救うと決意する。

「わたしがこの子にしようとしていることはきっと、聴き逃した声に対する贖罪だ。消えることのない罪悪感をどうにかぬぐおうとしているのだ」

聴き逃した声というのは、貴瑚の恩人・アンさんのことを示している。貴瑚はアンさんと二度と会えなくなってしまったことを自分への罰だと考えている。

「アンさんの声はいつだってわたしを呼ぶばかりで、わたしの問いには答えてくれない。それはきっと、わたしへの罰なのだろう」

これらのことから分かることは貴瑚は「罪の意識」を抱えているということだ。

この「罪の意識」というのも、フィクションにおけるキャラクターの特徴として人気を博していた。例えば小説家・西尾維新『戯言シリーズ』の主人公・いーちゃんだろう。このキャラクターは2000年代「このライトノベルがすごい!」において2年連続で男性人気キャラクター1位に選ばれていた。

そんな人気キャラクターが「罪の意識」を有しているという点では「ぼくは罪を犯した。ならば──償わなくてはならない」という直接的な台詞もあるぐらいだ。また、作中の次の台詞も象徴的だ。

「いろんな人に、迷惑をかけて、生きてるんですよ。いろんな人に、不幸と災厄をばらまいて──これまで生きてきたんです。周りの誰もを、例外なく、巻き込んで──」
(『ネコソギラジカル(上)』)

さて、ここまで私たちは本書を貫く軸である「トラウマ」と「罪の意識」というのが島本理生や西尾維新という作家の主題や作品に触れつつ、文芸やサブカルチャーに多く現れてきたことをみてきた。

だがここで私は本書のことを、流行したテーマが盛り込まれているだけ、と批判するつもりはない。

私は「継承されているのだ」ということを強調したいのだ。どういうことか。それを次節で明らかにしたい。

「52ヘルツ」の本当の意味

勘のいい人なら気づいているかもしれない。これまでみてきたものには、共通していることがある。

  • 本作の著者・町田そのこ:1980年生まれ
  • 西尾維新       :1981年生まれ
  • 島本理生       :1983年生まれ

1990年代後半から2000年代前半の「就職氷河期」の時期に社会へ出た、いわゆる「日本版ロストジェネレーション」と呼ばれる世代だ。

これまでみてきたように、本作には「トラウマ」と「罪の意識」という日本版ロストジェネレーションの代表的な作家たちが、モチーフにしたりキャラ造形に盛り込んだりしている要素が随所に見受けられる。

ここで翻ってみたい。私は冒頭で「ある時代が抱えた問題に対して、それでも答えらしきものを掴もうとしている作品だ」と言った。このことを正確に言い直そう。

ロストジェネレーション世代が育った時代が抱え、その結果、作家たちが自身の作品の重要な要素にしてきた「トラウマ」や「罪の意識」という不幸な心に対して向き合うことを試みたのが本作だ。

その姿勢こそ本作が多くの読者を獲得した要因の1つなのではないだろうか。

「トラウマ」や「罪の意識」というのを広義の「心の問題」や「メンタルヘルス」と言えるのであれば、それらは現代においても耳目を集める社会問題の1つなのだから。

ロストジェネレーションと呼ばれる原因となった就職氷河期と呼ばれた時代から15年以上は経過しているが、この物語の結末は、今でも受け継がれている時代が生んだ問題に対する1つの回答なのだと私は思う。

このような見方は恣意的すぎるだろうか。仮にそのような作品や訴える声があったとして、あまりにも気づかれにくいものではないか、と思う人もいるだろう。

そのとおりだと思う。けれど、そのことも作者はわかっていたのかもしれない。なぜなら「誰にも気づかれない声」こそが、本書のタイトルになっているのだから。

本作のタイトルにもなっている「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラには聞き取れない高い高周波で鳴く孤独なクジラのことをいうのだ。仲間がいるはずなのに、何も届かない声「52ヘルツ」は本書には時代が生んだ問題が宿っているということを訴える比喩なのではないだろうか。

いずれにせよ、ここまで読んだあなたには本書を手に取り、物語全体に宿っている「52ヘルツ」の声をぜひ聞いてほしいと私は思う。

時代が生んだ「トラウマ」や「罪の意識」という不幸な心の塗り替え方の答えを、ぜひ目にしてもらいたい。

まとめ

本書には確かに華々しい受賞歴がある。感動もできることは間違いない。

しかし、誤解を恐れずにいえば、本書を単なる「感動作」で終わらせるには惜しい作品だと思う。

作品のなかには作者が生きてきた時代からの訴えがある。たとえどれほどわかりにくくても、その痕跡がある。物語や読書にはそういった発見がある。

「感動作」を「感動作」として押さえこまないことが、物語を超えたところにある訴えに触れることができる方法の1つだ。それを本書は教えてくれた。

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